第6話 基地での生活
午前中の一番出庫が多い時間には、スージーと二人で受付をしている。
すると、スージーのところにイケメンの軍人がやってきた。
「やあ。スージー」
「アラン」
「今日も夕飯どうだい?」
「いいわよ」
二人は付き合ってるのかしらね。
私はアランがいなくなると、スージーに聞いてみる。
「彼との付き合いは長いの?」
「彼とは、昨日食堂で会ったばかりよ」
「そうなの?」
「アケミは誰かいい人はいないの?」
「私はそっちの方は全然よ」
「意外だわ。モテそうなのに」
「もし彼氏がいたら、一人で月には来てないわ」
「それはそうよね。私もいっしょよ。だからここで見つけることにしたの」
「それこそ意外ね。スージーは美人だしグラマーだし、男性が放って置かないでしょうに」
「実は私、いつも長く続かないのよ」
「そうなんだ」
補給部で受付をしていると、色々な出庫がある。
中でも、私が一番驚いた出庫品は剣と盾だ。
何に使うのかわからないが、時々軍人が来て、中世の剣や盾などの古典的な武器を出庫していく。
「スージー。あれは何に使うの?」
「さぁ? わかんない」
そこで休み時間に上司に聞いてみると、これは機密事項に該当するので使用目的は言えないそうだ。
ただ、銃や爆弾などの軍の標準装備は専用の倉庫で厳重に管理されているが、標準装備でない刃物などはここで扱っているという事だけは教えてくれた。
この基地に来てから、私は勤務時間が終わると大抵はトレーニング・ジムで体を動かしていた。
今日も筋トレを一通り終えてからランニングマシンで走っていると、後ろから声が掛かった。
「よぉ。明美も来てたのか」
日本語だ。
声を掛けてきたのは日本から一緒にやってきた雄一だった。
「あら。四日ぶり」
「仕事は慣れたかい?」
「ええ。あなたは?」
「俺は、なかなか慣れないな」
「そういえば、剣道が役にたちそうなの?」
「ああ。そうなんだ。でも、他の部署の人間にあまり言ってはいけないみたいで、詳しいことは話せないんだけどな」
「ふーん?」
そういえば、備品倉庫にも中世の剣を出庫しに来ていた人がいたわね。
関係あるのかしら。
「夕食はもう?」
「まだよ」
「じゃあ、この後どうだ?」
「いいわよ」
私たちはそれぞれシャワーを浴びた後に、待ち合わせて基地内のレストランに行く。
ちょっと高級なレストランの方だ。
いつも行く食堂は無料なのだが、ここは別途料金が掛かるので私はまだ利用したことが無い。
こちらにはちゃんとウエイターがいて、席に案内してくれる。
レストランに入ってざっと見回してみると、ここで食事しているのは、やはり軍人の士官クラスの人が多いみたいだ。
中にはデートで来ている若いカップルも見受けられる。
他にデートをするところが少ないから、やはりここになるわよね。
確か映画館やバーなんかもあった気がするけど、夕食のデートならここしか無いから。
私たちは肉料理や飲み物を注文して、給仕された飲み物のグラスを交わす。
「じゃあ、再会に乾杯」
と、雄一。
「乾杯」
「でも、あんたに会えてほっとしたぜ」
雄一がワイングラスを置くと言ってきた。
「え? どうしたの?」
「いやー。俺、英語があまり上手くないからさ。こうやって日本語で話せる相手といると、気が休まるというか」
「そういうことね?」
「でも、運動始めたばかりなのに、付き合ってもらって悪かったな」
「ん? もう、二時間は体を動かしていたけど」
「そうなのか? それにしては、汗もかいてなかったし、疲れてもいなかったみたいだったから」
「うーん。そうなのよね。月に来てから、体が軽いというか。やはり重力が弱いから?」
「いや。ここの重力はなぜかは知らんが、地球と同じだぞ」
「そうなの? 持久力が上がっているし、力も前より出る感じなのよね」
「たしかに俺もちょっと体が軽くなった気がするけどな」
「何かあるのかしらね?」
そこに声がかかった。
「アケミじゃない」
「あっ。スージー」
「ユウイチか」
「よう、アラン」
男性たち二人も知り合いのようだ。
「なーんだ。アケミにもいい人がいるんじゃない」
スージーが耳元で小声で言ってきた。
「そんなんじゃないわよ」
と、私も小声で返す。
「じゃあね」
「うん」
アランとスージーはそのままウエイターに案内されて少し離れたテーブルに座った。
これが昼食だったら四人でいっしょに、というふうになるんだろうけど、スージーたちは夕食のデート中だから別々に座ることにしたみたいね。
「スージーとは一緒の職場なの」
私は雄一に説明した。
「アランとは班が違うけど、同じ目的の部署にいるんだ」
やはり守秘義務とかで、説明しづらそうだ。
その後は特に何もなく、食事が終わると私たちはそれぞれの部屋に戻った。
翌日の受付。
「ねえ、あなたたち昨夜はどうしたのー?」
スージーが詮索好きなおばさんのように聞いてきた。
え?
「昨夜って……」
あー。そういうことか。昨夜雄一と何かあったかを聞きたいわけね?
「……別に。私たちは行きのシャトルで一緒に来ただけの仲だから」
「え? そうだったの? それにしては仲が良さそうだったわね」
「そういうスージーはアランとはどうなの?」
「もちろん、うまくいってるわよ。昨夜だって……」
そこに出庫依頼の軍人が来る。
「いいかな?」
彼は、グレーの野戦服のようなものを着ている。
「はーい」
スージーが受付し、腕輪のようなものを渡していた。
軍人が腕輪を受け取って出ていくと、私がスージーに聞く。
「時々あの腕輪のような物を出庫しに来るけど、なにかしらね」
「アランに聞いてみたら色々教えてくれたわ。あれは、魔法の腕輪だって」
「魔法? 何そのジョーク」
「私も聞いたとき嘘かと思ったけど、本当みたいよ。あれを腕にはめて『ファイヤー・ボール』なんて言うと、魔法が使えるらしいわ」
「またまた」
数分後、そこに補給部の上司クライブがやってきた。
手には、例の魔法の腕輪を持っている。
「先程出庫した腕輪ですが、コンピュータにアラームが出ました。どうやら、修理品が在庫に混ざっていたようです。すまないけど、新品をさっきの人に届けてください」
「えー?」
と、嫌そうにスージー。
「私はこれから会議があるので、どちらかが行ってくれるとありがたいです」
「私が行ってきますよ。このあと休憩時間だし、散歩がてら。あれ? でも、どこに行けば会えるかわかりませんが」
私が言った。
「行き先は、ダンジョンのところでしょう。それでは、すぐに車を手配するから追ってください。あれを使って、うまく動かずに魔物にやられて怪我をされたらまずいので」
「ダンジョン? 魔物?」
「あ、いや……」
上司は気まずそうだ。
ああそうか。隠語ってやつか。ダンジョンって地下室のこと? 魔物って……なんの隠語だろう。
「スージーが魔法の腕輪って言ってたし、それって隠語か何かですか?」
「あー、まあそう考えてくれて構いませんが、向こうで見たことはもちろん人には漏らさないようにしてください。とにかく、使用者が怪我をしないうちに頼みますよ」
「はあ。よくわからないけど、わかりました。行ってきます」
私は新しい腕輪をカバンに入れ、上司が手配してくれた運転手つきの電動車に乗って先程の軍人を追いかけた。
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