後編 見つめ直す光

メイルは老人の死後、深い孤独と絶望の中にいた。毎日が無色で、感じるのはただの虚しさだけ。だが、彼は老人の最後の言葉を忘れていなかった。「お前は特別だ。誰にもできないことが、お前にはできる。」その言葉が、彼の心の中で静かに響いていた。


メイルは自分の能力、透明であることを利用して、他人を助ける方法を考え始めた。最初は小さなことから。道を歩く人々が落とした物を拾い上げたり、無人と思われる場所で孤独に泣いている人に、温かい風を送り込んだり。彼の行動は目に見えないが、徐々に周囲に小さな変化をもたらしていた。


ある日、メイルは小さな公園で、落ち込んでいる少年を見つけた。少年は友達にいじめられており、誰にも相談できずにいた。メイルは少年の近くに静かに座り、話しかけた。当然、少年はメイルを見ることはできない。しかし、メイルの声は少年に届いた。「大丈夫だよ。君は一人じゃない。」少年は驚いたが、徐々に心を開き、自分の悩みを話し始めた。メイルはただ聞き、励ました。少年が家に帰る頃には、顔には小さな笑顔が戻っていた。


この出来事がきっかけで、メイルは自分の存在が他人にとって意味のあるものになることを実感した。彼は見えないながらも、人々の心に触れ、彼らの生活に小さな光をもたらすことができるのだ。


日が経つにつれ、メイルはさらに大胆に行動を起こし始める。人助けの輪を広げ、街の人々にポジティブな影響を与えるために、彼は自分の能力を使い続けた。そして、彼の存在は徐々に街の伝説となり、人々は「見えない守り神」と呼ぶようになった。


メイル自身は誰からも見えることはなかったが、彼の行動は多くの人々に希望と勇気を与えていた。そして、彼はもはや一人ではないと感じるようになった。老人が彼に教えてくれた絆の価値を、メイルは心の底から理解していた。彼はついに、自分の居場所をこの世界で見つけたのだ。


「ここにいるよ。」メイルの心の叫びは、もはや孤独の訴えではなく、存在の確認と希望のメッセージとなった。彼の物語は、見えないものの力と、一人一人が世界に与えることのできる影響の大きさを教えてくれる。

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ここにいるよ。 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92

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