第七章 欲張りな花嫁
第31話 花嫁たちの密会
皇太子妃の候補が出揃ったのは、
皇后・
「本当に、信じられないわ。陛下の子供とは思えないくらい、女の好みが違いすぎる」
花巫女選定試験が行われるまでの間で、
二人とも、顔は幼いながらも女性らしい丸みを帯びた体型の、美人というより可愛らしい系統の女を選ぶことが多かったため、血の繋がっているフィソンも同じ系統の花巫女候補をあてがえば思い通りに事は運ぶと思われていた。
ところが、選んだのは全く違う系統のソラン。
皇帝が過去に自ら選んだ花巫女や側室、スンソンの花巫女とも系統が違う。
実はソランは皇帝の二番目の花巫女になるはずだった
本来なら、皇帝は系統の女が好みなのだが、過去に選んだ結果がとんでもない女だった。
それ以来、皇帝はヨンジョンやソランのような、中性的な魅力を持つ系統はあえて選ばないようにしていたのだ。
だからこそ、皇帝の女たちは正反対の女性的で、童顔で、可愛らしい女ばかりに偏っていた。
自分の美しさに絶対の自信を持っているミヘは、そのことに気がついていない。
「四人の中で、あえてあれを選ぶだなんて……どうかしているわ」
最終候補四人の中から、フィソンはソランを選んだ。
それにソランを見つめるフィソンの表情から考えても、このままでは、花巫女になるソラン一人に夢中になり、正妻であう皇太子妃が無下にされる可能性がある。
ミヘはそこを危惧し、皇太子妃にはソランと同じ系統の娘をあてがうべきだと考えた。
「花巫女なんて、ただの夜伽相手だもの……」
ミヘは同じ系統の女が二人いるなら、あとは家柄がものをいうだろうと思っている。
それに自分と同じ陽家の関係者を皇太子妃にしなければ、
実際、皇帝の二番目の妻————フィソンの母の時は揺るぎかけた時期がある。
フィソンの母は、陽家が牛耳っている今の政権に反対していた家の出身。
皇后だった期間はとても短いが、その間は次々と陽家の人間が左遷される事態にまで発展していた。
一族の地位を守るためにも、なんとしてでも皇太子妃は陽家の息のかかった者でなければならない。
ミヘはその候補者の中から、一番ソランに系統が近い娘・
「あなたを皇太子妃として選ぶことにしたわ。これから選考会が行われるけれど、形式的なものよ」
ジョアンはミヘの話を黙って聞き、決して話を遮るような事はしなかった。
皇太子妃に内定した事は素直に嬉しかったが、ソランのことが気にかかる。
自ら選んだ花巫女を差し置いて、身分が高いからと自分の方を向いてくれるとは限らない。
花巫女との夜伽は花婿となるフィソンにとっても初めてのことだ。
男にとって、初めての女というのは忘れられないものだと聞く。
だからこそ、彼女はこんな提案をする。
「恥ずかしながら、私はとても欲張りな女なのです。他の女に心を奪われているお方にこの身を捧げるだなんて、とても耐えられません。皇后様もその者が花巫女となることに納得されていないのであれば、夜伽ができないようにしてしまえば良いのではないでしょうか?」
「夜伽ができない? どうやって?」
花巫女が花婿の夜伽の相手をして、穢れを祓うことは知っているが、皇后は巫女ではないため詳しい手順は知らない。
噂によれば、ただ夜伽をするだけではないらしい。
巫女にしかできない秘技があるそうだ。
「私も噂でしか聞いた事がないのですが、他の男とまぐわったことのある巫女は、その秘技が使えないと聞きました。だからこそ、星宮殿は男子禁制であると……」
「なるほど……————それなら」
「ええ、ですから、そう仕向ければ良いのです」
ミヘはジョアンの話を聞いて、つい口角が上がる。
なんて話のわかる娘だろうと思った。
「確かにそうね。そうしてしまえば、フィソンも諦めるしかないわ。花巫女としての務めが果たせないのだから……」
皇巫の許可がなければ、皇帝ですら星宮殿の中に入る事はできない。
しかし、今の皇巫は陽家の息がかかっている。
男一人忍ばせるくらい、ミヘにならどうとでもできる。
「できれば、皇太子様が嫌っている殿方が良いと思います。皇太子様もご自分が嫌っている殿方とまぐわった女なんて、穢らわしいとお思いになられるかと」
「まぁ、なんて面白いことを思いつくのかしら。気に入ったわ」
ミヘはジョアンを心から気に入った。
容姿はまるで違うが、目的のためにはどんなことでもしようとするその気概が昔の自分を見ているようだと思った。
◇◆◇
「————あなたは、神に選ばれたのよ、ソラン」
一方、ミヘとジョアンの密会していたその頃、
しかし、やはり何を言っているのかさっぱりわからなかった。
(神? え? え?)
疑問符しか浮かばない。
サンウォルもソランの表情からそれがわかって、もう一度改めて最初からわかりやすく説明することにした。
ソランが花巫女に選ばれたことが嬉しくて、つい色々と神について順序を考えずに話してしまったが、自分の言い方がまずかったとようだと気が付いのだ。
「ソラン、花巫女の風習がなぜこの国で生まれたのか、一度話したことがあったけれど、覚えているかしら?」
「いつですか?」
「確か、あなたが星宮殿に来たばかりの頃だから、十年以上前かしら」
「お、覚えてないです!!」
(それはさすがに昔すぎるわ!)
「そう、それなら最初から説明するわ……」
サンウォルはそういうと、棚の奥から巻物を一つ取り出した。
「これは『
(初代、皇后様?)
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