第18話 最終候補四名
花巫女の最終候補は
ウンアとヒョンチョは、星宮殿で共に育っているためソランにとっては旧知の仲だが、エンガだけは別だった。
彼女は最終候補の四名のうち、唯一の地方離宮から出た候補者。
それもそのはずで、花巫女を多く輩出している名家・
背が高く、どちらかというと男性より女性が憧れる顔の系統であるソランとは対照的に、エンガは小柄で顔の系統も男性が好きそうな幼く愛らしい顔の系統をしている。
形式的に最終候補は四名に絞られはしたが、巫女としての実力はソランとエンガが特出していた。
この四名の中から最終的に一人を選ぶのは、花婿となる皇太子。
巫女としての実力だけでなく花婿との相性もある為、約十日間、四名は東宮殿で生活することになる。
四名の花巫女候補にはそれぞれ、侍女が三人つき、衣の色で誰の侍女かわかるように色分けされていた。
使用するものも同様に、混合しないよう色分けされている。
ソランは淡い紫、エンガは黄色、ウンアは水色、ヒョンチョは緑。
そして、花巫女決定の十日後に、花婿が花巫女と同じ色の衣を着るのが習わしになっていた。
「ソラン、この十日間でいかに皇太子様に気に入られるか……それが重要よ」
「わ、わかっています。師匠!」
東宮殿に入る前、師匠であるサンウォルに念を押されたソランだったが、はっきり言って、自信はない。
(皇太子様には、男だと思われていたし……今は化粧もしてるし、口元だって隠れているんだから、あれが私だってバレることはない————とは思うけど……)
あれから、普段はあまり聞いていなかった皇太子に関する噂を数々耳にしたソラン。
子供の頃、飼っていた兎を殺した。
ご学友を池に沈めて、溺死させた。
気にくわない女官を二階から突き落とした。
実の兄であるスンソン皇子に毒を持った。
官吏の娘の体に傷を負わせた。
東宮殿の女官の入れ替わりが激しいのは、毎晩折檻が行われているせい。
実際に会ったフィソンが、そんなことをするようには見えなかったが、確かにまぁ、目つきは悪い。
眉間にシワを寄せ、無言でいられると怒っているように見える。
(バレたらどうなるんだろう……)
ソランは精一杯作り笑いをして、サンウォルと別れた。
幼い頃から、サンウォルの期待を一身に受けて育ったのだ。
そんな師匠の夢を裏切ることはできない。
もし自分があの時の不敬者だと気づかれても、他人のふりをし通そうと覚悟を決め、ソランはこの時初めて、花巫女候補として正式に東宮殿に足を踏み入れた。
「お待ちしておりました。ソラン様。私、ソラン様のお世話を担当させていただく
淡い紫色の衣を着た年配の侍女が頭を下げ、その後に若い侍女二人も頭を下げる。
「こちらは
「リンリンです。よろしくお願いいたします」
「ミンミンです」
この双子、どこか見覚えがある顔だと思えば、二人とも後宮殿からこちらに一次的に駆り出された新人女官だそうだ。
後宮殿で祓いの舞を踊るソランを熱心に見つめていた下級女官のうちの二人だった。
リンリンとミンミンとしては、憧れのソラン様の侍女になれたことが嬉しくて仕方がないようで、終始ニコニコしている。
「では、お部屋にご案内しましょう」
ウンシムの案内で東宮殿の西側にある部屋に通されたソラン。
ちなみに、ソランの右隣の部屋はウンア。
真向かいがヒョンチョ、その隣にエンガという配置だ。
身の回りの荷物を一通り整理し終わると、順番に皇太子が部屋を訪問してくる。
ウンア、ヒョンチョ、エンガと回っているのが音や声でわかって、ついに自分の番が来たとソランはやや緊張する。
それに、エンガとは話が盛り上がっているのか笑い声も聞こえていたから余計だった。
(と、とにかく、他人のふりをしなきゃ! 初めて会うんだから、それなりに、おしとやかに……)
リンリンとミンミンは、そんなソランの緊張を感じ取ったのか、励ましの声をかけてくれる。
「大丈夫ですよ、ソラン様! ソラン様なら、皇太子様もイチコロです!!」
「そうよ! なんて言ったって、ソラン様はとてもお綺麗ですもの!!」
「こら、二人とも!! 大人しくしていなさい」
侍女というより、親衛隊のような二人だったが、扉の前で皇太子一行が来るのを待っているレイに、細い目を開いて怒られてしゅんと肩を落とす。
「「はーい」」
双子らしく、声がかぶるのがおかしくて、ソランは笑った。
「ふふ……本当に双子って不思議ね。同じ顔で同じ反応」
リンリンとミンミンは、ソランが笑ってくれたと大喜びで目を見合わせる。
「「その笑顔です! ソラン様!」」
また声がかぶる。
さすが双子だ。
(母上と師匠も、昔はこんな感じだったのかな……)
そう思うと、なんだか嬉しくなって、ソランはこれまで自分を育ててくれたサンウォルのためにも、なんとしてでも花巫女に選ばれなければと思った。
「————ソラン様、皇太子様がお見えになりました」
「は、はい」
(き、きた……!!)
扉が開き、頭を下げているソラン。
本来なら、上座に置かれている座布団の上に皇太子が座って、面を上げるように言われるまで頭を上げてはいけない。
まぁ、面を上げたところで、口元は布で覆われているため、皇太子には目元しか見えないのだが……
「…………」
「…………」
ところが、皇太子は座布団に座ることはせず、ソランの目の前に立っている。
(あ……あれ?)
「面を上げよ」
「……は、はい」
言われるまま、顔を上げるソラン。
フィソンはソランが顔につけていた布を扇子で外し、じっとソランの顔を睨みつける。
(えっ!? えっ!? 取られた!?)
「やっぱり、お前だな。やっと見つけた。もう逃がさないからな」
しっかりと腕を掴まれ、血の気がさっと引くソラン。
「ひっ!」
(————こ、殺される!?)
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