第6話
学校が終わり、帰路につく。
真っ先に電車に乗り込み、椅子に座った俺は思案にふける。
結局、昼休み後にセリナさんと話すことは出来なかった。
スクールカースト最上位グループと共に行動する彼女に話しかける隙などなく。
あれよあれよという間に放課後になってしまったのだ。
「痣花さんと同じ学校に通う理由は、彼女を地獄に叩き落とすためです」
「私はともかく……何の罪もない貴方まで不幸にした彼女を許すつもりはありません。必ず、然るべき報いを受けてもらいます。どんな手段を用いてでも」
セリナさんの言葉が何度も、何度も、何度も、脳裏をよぎる。
あの時の彼女の顔や声には、喜怒哀楽といったものが無くて。
俺には、感情がまるっきり抜け落ちているように見えた。
……だからこそ、分からない。
セリナさんはどんな方法で復讐しようとしているのか。
何故、アザカと友好的に接しているのか。
それ以前にネット上で俺と知り合ったのは偶然か否か、など。
聞きたいことは山程ある。
出来ることならば、今すぐにでも聞き出してみたいが、そんな事は出来ない。
何故なら、俺は根っからの陰キャであり。
小学生以降に……女子、それも美少女と連絡を取り合った経験など殆どないから。
ネット上のフレンドである「ハッチさん」の正体が「セリナさん」だと知った以上、気軽にチャットするのは不可能。
端的な質問文を送るだけでも、1時間ぐらい長考する未来しか見えない。
そのため、電話なんてもってのほか。
女の子と通話しているという事実だけで、キョドりまくること間違いなしである。
もっと言えば、面と向かって話す事が一番難易度が高い。
今日の昼休みだって、何の面白みのない無難な返答しか出来なかった。
意識し過ぎていると思われないように振る舞うので精一杯だったのだ。
つまり、真実は闇の中。
どう足掻いても、セリナさんの秘密を知る事は叶わないのである。
と、考えると、胸のモヤモヤが絶える事なく増殖して。
勉強を出来る精神状態じゃなくなる。
もうすぐテストが始まるというのに、セリナさんの事で頭が埋め尽くされてしまう。
「……よし、ゲーセンに行こう」
電車から降りた俺は、そう呟く。
ごちゃごちゃと悩んでいたり、気分が沈んでいる時にはゲーセンに行けば良い。
……あのゲームをやれば、ストレスや悩みなど消えて無くなるのだから。
◇
スティックをワイン持ちして、軽快にボタンを押して、コマンドを入力する。
俺のキャラクターの動きに、相手は翻弄されており、弱攻撃すら与えられない。
終始、圧倒し続けた俺はノーダメージで勝利を収める。
「18連勝、だと……!?」
「何者なんだ、この目つきの悪いガキは!」
周囲の人々が思わず、感嘆の声を漏らす。
格闘ゲーム、ストレートファイター10にて、挑戦者を蹂躙し続ける俺のプレーを見て。
……本当に、この瞬間は堪らない。
わざわざ、途中の駅で降りて、初見のゲーセンに寄った甲斐があったというものだ。
見た目も、学力も、運動神経も中途半端。
何かしらの能力が劣っている訳でも、優れている訳でもない俺は、本当に地味な男。
点数をつけるのなら、70点程度の人間。
けれども、ゲームとなれば別。
幼い頃から、寝る間も惜しんで打ち込んできたゲームだったら、俺でも輝ける。
同じゲームマニアである他者から羨望の眼差しで見られたり、目立つ事が出来て……だからこそ、ゲーセン通いはやめられない。
ストレスや悩みを抱えた時は、格ゲーで相手をボコって、注目の的になれば、大抵スッキリしてしまうのだ。
まぁ、中々に意地の悪いストレス解消法である事は、自覚しているが……。
「うごあああ! 負けたあああ!! 待ちカイル戦法したのに負けたあああ!!!」
これで、19連勝目。
負けた事で怒り狂う対戦相手の男は、激しく台パンをした後に灰皿を投げる。
フルダイブ型のVR全盛期の現代とは思えない行動だ。
……けれども、それが良い。
敗北した相手が騒げば騒ぐほど、気持ち良くなる事が出来る。
俺はとことん性格の悪い人間なのだ。
『HERE COMES A NEW CHALLENGER!』
駆けつけてきた店員に出禁を言い渡された男を見送った後に、画面に視線を戻す。
どうやら、新たな挑戦者が現れたようだ。
俺がストレートファイターの顔役でもある格闘家のキャラを選択すると、相手は口から火を噴き出すヨガの達人を選択する。
すると、瞬く間に試合が始まり。
『タルシム、WIN!』
瞬く間に、一ラウンド取られてしまった。
要するに、俺はあっという間にボコられて……後一回、ラウンドを取られてしまうと、敗北が確定する。
これまで、(心の中で)散々イキっていた俺が観衆の前で無様な姿を晒すことになるのだ。
それだけは、絶対に許容できない。
一人のゲーマーとして。
(……一体、どんな奴が相手なんだ?)
あまり良くない事だと分かっていつつも、俺は対戦相手の姿を確認する。
若干……いや、かなり癖のあるヨガの達人を使うくらいだ。
多分、如何にも強者って感じの顔つきをした男性なのだろう。
……そんな予想は呆気なく外れて。
「くっくっくっ。私とタルシムのヨガパワーを思い知るが良いわ……!」
俺の対戦相手は女の子であり。
それも、俗に言うゴシックロリータの衣装に身を包む。
一際小柄で、グレーベージュの髪とぱっちりとした青い瞳が印象に残る可愛らしい外見の少女だったのだ。
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