第5話
「悠人くんって、自分でお弁当を作ってるんですよね?」
「まぁ、うん。母さんを起こすのは忍びないから、自分で作ってる……とは言っても、晩飯の残りを詰めたり、冷凍食品を入れたりしてるだけだけどね」
「いえいえ、謙遜なんてしないでください。私なんて、常日頃から母親に甘えっぱなしなのに……本当に凄いです、尊敬ですっ」
校舎裏に辿り着いた俺とセリナさんは、時折話しながら、ご飯を食べる。
隣に座る彼女の距離が近い気がするが、きっと気のせいだろう。
自意識過剰なのは、ぼっちあるあるだ。
「……あの子が噂の転校生?」
「何で、あいつなんかと……」
「知り合いなのかな? もしくは、カレカノの関係なのかな? すごく気になるなぁ」
何やら、遠くから声が聞こえてくる。
遠巻きに俺達を見ているギャラリーが居るような気がするが、きっと気のせいだろう。
被害妄想をするのは、ぼっちあるあるだ。
「気心の知れた相手と共にご飯を食べると、美味しさも倍増ですね」
「……そうだな」
嘘である。
さっきから緊張しすぎて、どんなに咀嚼しても味がしない。
ついでに言うと、セリナさんとの距離は近く、ギャラリーも存在していて。
……俺は今、とんでもない状況に置かれているのだ。
肌が触れ合いそうな距離に、超絶美少女。
俺たちの周囲には、数多くのギャラリー。
こんな状況に置かれて、動揺しない奴は隠キャ失格だ。
6年間ぼっちを貫いていた俺が言うのだから、間違いない。
……だが、それにしても。
セリナさんは何が目的なんだろうか。
先日、会った時。
彼女は「
いじめの主犯格であるアザカと一緒に通う理由はもちろん。
ネット上でよく遊んでいるため、その気になれば、リアルでいつでも会える俺と同じ学校に通う理由がさっぱり分からない。
一体、彼女は何を……。
「私が、悠人くんや痣花さんと同じ学校に通う事を決めた理由、知りたいですか?」
セリナさんは覗き込むように、俯いている俺の目を見た。
……思考を言い当てられた俺は今、どんな表情をしているのだろうか。
自分では全く想像できないが、人に見せられない顔であるのは間違いない。
「ふふっ、顔に出過ぎですよ。悠人くんの考えが、手に取るように分かります」
「……そっか。そんなに顔に出てる?」
「ええ、一目で分かるくらいには」
驚きを隠せない俺の反応を見たセリナさんは、悪戯っぽく微笑む。
その姿はすごく様になっていて……底知れなさというか、ミステリアスというか。
八坂セリナという人物がどのような人間であるのか、いまいち掴めなくて。
……長い間、一緒にゲームしていた「ハッチさん」と今現在話している「セリナさん」が全くの別人であるように思えた。
「私が悠人くんと同じ学校に通う理由、それは貴方を幸せにしたいからです」
「俺を……幸せに?」
「はい。ずっと側にいてくれるのなら、私は必ず貴方を幸せにしてみせます」
冗談だろ、と言おうとして止めた。
俺の顔をじっと見つめるセリナさんの表情は極めて真剣であり、茶化せるような雰囲気ではなかったから。
……多分、本気で俺を幸せにしたいと思ってくれている。
そう実感していると、彼女はこちらに急接近し、耳打ちするような体制を取る。
そして。
「痣花さんと同じ学校に通う理由は、彼女を地獄に叩き落とすためです」
「……え?」
「私はともかく……何の罪もない貴方まで不幸にした彼女を許すつもりはありません。必ず、然るべき報いを受けてもらいます。どんな手段を用いてでも」
キーンコーンカーンコーン。
示し合わせたかのようにチャイムの音が、教室中に響き渡る。
いつの間にか、ギャラリーは姿を消しており、セリナさんも俺から離れた。
「それでは、戻りましょうか。急がないと、午後の授業に遅れちゃいます」
俺の返事を聞く事なく、セリナさんは歩き出す。
その足取りは軽やかで。
とても楽しそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます