第4話
「……はぁ」
教室に辿り着いた俺は溜息を吐く。
幸いにも、俺が一番乗りであるため、誰にも聞かれる事はない。
未練がましく昔の夢を見るわ、レイアと気まずい雰囲気になるわ……今日は厄日かもしれないが、ウジウジしてられない。
……何と言っても、今日はセリナさんが転校してくる日だからな。
流石にウチのクラスに来ることはないだろうが、会話する機会はあるかもしれないので、凹むのはもう終わり。
来週にはテストが始まるし、気持ちを切り替えて勉学に励まないと。
そう心に決めた俺は、問題集を開く。
とにかく無心で数学の問題を解いていると、クラスメイトが続々と集まり、あっという間にホームルームの時間が訪れて……。
「それでは、みんなに自己紹介してくれ」
「天童坂高校から来ました。
先生と共に教室に入って来た美少女、セリナさんが柔和な笑みを浮かべる。
如何にも進学校って感じの黒セーラー服は、艶やかで長い黒髪と調和していて。
ただでさえ清楚な佇まいをより引き立たせており、俺は思わず見惚れてしまう。
それはクラスメイトも同じだったようで、男女関係なく、大盛り上がり。
「え、やば。可愛すぎんだろ……」
「お人形さんみたーい!」
「控えめに言って、結婚したい」
ホームルームなどお構いなしに、彼らは思い思いの言葉を口にしている。
同じ高校に通う事は知っていたものの、同じクラスとは思っていなかった俺と。
かつて、セリナさんを虐めていた少女を除いて……ではあるが。
アザカの様子をチラッと確認すると、心底驚いているのか、目をぱちくりさせていて。
……見るからに動揺している彼女を見て、胸がスッとなったのはここだけの秘密だ。
「静かにしろ、お前ら! ホームルームをはじめるぞ。八坂さんは左端の空いてる席に座ってくれ」
因みに左端の空いている席は俺の隣。
つまり、これからは……。
「学校でも仲良くして下さいね、悠人くん」
学校一の美少女と評しても過言ではないセリナさんが、俺の隣に座るのだ。
◇
……まあ、隣の席だからといって、何か特別なイベントがある訳ではないのだが。
「八坂さん。良ければ、趣味とか教えてよ」
「強いて言うのならば、ゲームですかね。後は読書も好きです」
「へぇ……インドア派なんだぁ。セリナちゃんって、凄く色白で可愛いし、納得かも!」
「ふふふ……お褒めに預かり光栄です」
「入りたい部活とかってあるのかー?」
「そうですね。時間はあるので、じっくりと検討しようと思っています」
昼休み。
セリナさんの席の周りには、スクールカーストの上位陣である飯田と堺、棚田さんに……アザカの四人が集まっており。
その輪に混じれない人々も、彼らの会話をこっそりと盗み聞きしている。
要するに、クラスメイトの殆どがセリナさんに興味津々と言う訳だ。
そして、それは元いじめっ子のアザカも例外ではなく。
「初めまして、八坂さん。私、加羽アザカ! これから宜しくね!」
「ええ。こちらこそ、宜しくお願いします。加羽さん」
「困った事があったら遠慮せず聞いてねっ」
「はい。どんどん聞いちゃいます」
アザカは初対面という体で話しかけ、セリナさんもそれを否定しなかったどころか、極めて友好的に接していて。
アザカが考えていることも、セリナさんが考えていることもさっぱり分からない。
……だが、そんな俺にも一つだけわかる事がある。
それは……和気藹々としたセリナさんの隣の席に座って飯を食うのが辛くて。
何処まで行っても、右城悠人という人間はスクールカースト底辺のぼっちであるという事である。
このまま、陽キャオーラに当てられ続けると、俺は消滅してしまう。
猛暑の中のアイスのように、ドロドロと溶けて無くなる未来しか見えない。
なので、陰キャは陰キャらしく、誰も来なそうな校舎裏でぼっち飯と洒落込むとする。
そう考えた俺は弁当箱を持って席を立つ。
「そうだ。一緒にお昼ご飯に食べようよ、セリナさん!」
「おおー! それ、いいな! 一緒に飯食って、親睦を深めようぜー!」
スクールカースト最上位グループの人達とご飯を食べる約束をするほどに打ち解けるとは、セリナさんのコミュ力は凄すぎる。
まさしく、雲の上の存在。
……なんて、思いながら歩こうとすると、不意に手を掴まれた。
びっくりした俺は、反射的に振り向く。
「気持ちは嬉しいのですが、御免なさい。今日は、彼とお昼ご飯を食べる約束をしていたんです……そうですよね、
……俺の手を掴んだのは、他でもないセリナさんであり、彼女はそのまま腕を引っ張って、ギュッと抱き寄せた。
すると、決して豊満ではないが、確かに存在する胸の感触が伝わってくる。
けれど、それを気にする余裕などない。
何故なら、教室内にいるクラスメイト全員の視線が、俺に集まっているのだから。
「さぁ、行きましょう。せっかく、同じ学校に通えるのですから……学園生活を楽しまないと勿体ないですもの、ね」
それでも、セリナさんは動じる事なく、こちらを見て微笑んだ。
次いで、抱き寄せた腕を離した後に俺の手を握って、教室を後にする。
もう本当に……何がどうなっているのか、さっぱり分からない。
俺はただただ呆然とした状態で、歩みを進めるだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます