第17話 命乞い




「何でも言うことを聞くからさぁ! 俺だけは助けてくれよ! なっ?」


 俺は命乞いをする。


「な、何を言っているんだい!?」


 リータはなりふり構うなとは言ったが、

 まさか自分を身代わりにさせるとは

 思わなかったのだろう。


「なぁなぁ、頼むよ! 俺は転生者だ! 何かの役に立つ! 生かして損はない!!」


 なお命乞いを続けた。


 亡霊君主テラーロードが震えている。


 怒っているのだ。


 俺は続ける。


「考えても見てくれよ! 俺はそもそも何もしてないだろ? 入ったのが悪かったって言うなら謝る! アンタが望むのなら村からでも街からでも盗んででも何でも持ってくるからさ!!」


 亡霊君主テラーロードの我慢は、

 どうやら限界に達した様だ。


 有無も言わさない大ぶりな斬撃が、

 俺の頭へと振り下ろされようとする。


 

 今だ!!



 地面が急に湯気を上げて沈み、

 剣を振り上げていた亡霊君主テラーロード

 体制を後ろに崩した。


 そして、俺は


 もし『亡霊君主テラーロード』が

 体制を後ろに崩した時、全力で足を掴みに行く


 ことがコーディングされている。


 亡霊君主テラーロードは身体を回転させ、

 どうにか尻餅をつくことはなかった。


 が、その足は片方俺に掴まれていた。


「悪いな、亡霊君主テラーロード。俺の勝ちだ!」



 『コーディング!!』



 ……静寂が森を飾る。



「リータ、終わった。もうこいつが襲ってくることはない」


「ど、どういうことなんだい?」



 実は、リータに濡らしてもらった地面に、

 俺は命令をしていた。


 そう。

 それは俺が剣を飛ばされ這いつくばった時。


 俺は俺にコーディングをしたと同時に、

 


 不可能な事は、実行ができない。

 地面が自発的に動く事は出来やしない。


 だが、地面という概念をオブジェクトにした。


 そして地面を構成する

 『』へと働きかけた。


 地面に水が含まれた時、

 水が入り込む分が増える。

 

 アクアスプラッシュが

 土を泥として巻き上げた以上、

 地面に浸透した水の深度は通常よりも深い。


 そして、水が入ろうと地面は地面。


 含まれた水の原子もまた、

 俺のプログラムの適応者だ。


 亡霊君主テラーロードは優れた指導者だ。


 仲間を売る様なクズな俺を許しはしないだろう。

 怒らせれば必ず俺を始末しようとするはずだ。


 まぁ、これはある意味賭けではあったが。


 だから俺はこう組んだ。


 もし『亡霊君主テラーロード』が剣を上に振り上げる。

 もしくは、その場を後にしようと振り向いたら


 『亡霊君主テラーロード』の

 半径三十センチ及び深さ一メートルの

 全ての『原子』は高振動をしろ。と。


 それにより範囲内の全ては高熱を発する。


 水は帰化して離れ、は減る。


 たかだか数センチほどだろうが、

 剣を振り上げている状況だと重心がズレる。


 ゆえに、大きな隙が出来るわけだ。



「リータに説明すると長くなる。だがリータが最後まで全力で地面を濡らしてくれたおかげで出来たんだ。本当にありがとう!」


「よ、よくわからないが役に立ったのなら良かったよ! ただ、君が僕のことを好きにして良いと言った時は……少しショックだったけどね?」



 そう言ってリータはすこし拗ねたように

 俺を見つめる。


 ちくしょう。

 なんて可愛いんだ!!


 ニヤニヤが止まらない俺を見て、

 リータはハッと気づく。


「誤解しないでくれ! 変な意味ではないんだよ!!」


 顔を真っ赤にして手と首をブンブンと振る。


 はい、可愛いの二乗。



「そ、そういえば、亡霊君主テラーロードはどうするんだい? このままトドメをさした方が良いのではないかな?」


「……いや、俺は出来ればコイツを倒したくない」


「君は知らないかもしれないが、ボスと呼ばれるレベルの敵を倒すと、低確率だがレアドロップがある。これは取得した者にアジャストされた特別な装備になることが多い。そして、それはレベル差があればあるほど落ちる確率が高い」



 そう言ってリータは亡霊君主テラーロードを見る。


「だから、今後の為にも亡霊君主テラーロードを倒しておいた方がいい。必ず力になる」


 なるほど。

 ダインスレイヴもそうして俺のところに来た訳か。


 俺も亡霊君主テラーロードを見る。


 コーディングで奴は動くことができない。

 やろうと思えばすぐ殺せる。


 だけど……。


「俺はコイツを殺さない。いつか後悔するかも知れないけどさ。コイツは初めて俺と対等な立場で戦ってくれた奴だ。勝つためとはいえこんな騙し討ちで勝ったんじゃコイツに失礼だ。だから今回は引き分け。いつかまた、俺はコイツと戦いたいからさ」


「ふーむ。まぁ、今回は君のおかげで決着がついた。君の答えに従うよ」


「リータも頑張ってくれたのにごめん」


「いいのさ! 僕は君の考え、好きだよ」



 言ってすぐに顔を赤くするリータ。



「違う! そう言う意味じゃないさ!!」



 そしてまたニヤニヤする俺。

 だが、





「ずいぶんと珍しい力を持っているねぇ? 転生者」








 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る