第16話 対等な敵




 亡霊君主テラーロードは律儀にも

 俺たちのやりとりを待っていた。


 やはり、人の上に立つ者は違うのだろう。

 恐らくは名のある君主だったろうに違いない。


 そんな相手に俺のスキルは卑怯とも言える。


 だが、俺は勝つ。

 悪いが勝たせてもらう!


「リータ! リータは何が出来るんだ?」

「僕は黒魔導師だからね! 中級までの攻撃魔法が使えるんだけどわかるかな?」

「おおよその予想はつく。水の魔法は使えるか?」

「使えるけど、せっかく相手が燃えているのに水をかけるのは勿体無いと思うよ!」

「構わない! 辺りがびしょびしょにぬかるむくらいやってくれ!」

「わかった! 僕は君を信じているからね! 濡らすだけで良いのかい?」

「出来るだけ濡らし続けてくれ! それだけでいい!」

「わかった! なら僕の全魔力を使って濡らし続けるよ!『アクアスプラッシュ!』」


 リータの掛け声で水中にいくつもの水が浮かぶ。


 それらは亡霊君主テラーロードの足元に

 全てが飛んでゆき、地面で爆ぜる様に水柱となる。


 下から突き上げる様な水柱は、

 泥と化した土と一緒にたちのぼり

 亡霊君主テラーロードの炎を消すが、

 水の勢いで少しばかり体制を崩した。


 俺はその隙を見計らって攻撃へ出る。

 な水魔法だろうか。


 奴は近づく俺に気づいている。


 まともな人間であれば、

 水流で視界は塞がれるだろうが……。


 そういや、アイツどうやって見えてるんだろうな。


 切り掛かった俺の斬撃は普通に弾かれた。

 まぁ、俺素人だし……。


「その魔法は長くは続かない。もう切れてしまうよ!!」

「わかった!」


 俺は魔法が切れる前に、

 何度も何度も切りつける。


 奴が俺の攻撃を弾こうとする時、

 剣を叩いた反動と、上へ流れる水圧で

 一秒ほどの隙が必ず出来る。


 その僅かな隙間を俺が捉えられたら。


 触ることさえできて終えば、

 俺への追撃が来てようと関係がない。


 触った瞬間、勝ちが確定するから。


 ……だが、恐怖心がそれを邪魔する。


 だけどこの作戦はうまくいく。


 俺は諦めようと、めげようと、

 泣こうと喚こうと恐れようとも!


 俺は俺に必ず実行させる術がある!


 『コーディング』


 さぁ、これで俺はお前の隙を見つけ次第

 必ずとらえに行く!


 後は魔法が消えるのが先か、

 お前の隙が出来るのが先か!


 何度も何度も剣線を結ぶ。

 何度も、何度も、何度も!!


 だが、所詮はお子ちゃま剣技か。


「ダメだ! もう魔法が切れてしまうよ! 早く離れるんだ!!」

「俺は諦めない!!」


 俺は勝つためにこの手を止めるわけにはいかない!

 

 恐らくこれが最後になるだろう。

 俺は大きくダインスレイヴを振り上げ、

 奴の肩口に向かって振り下ろす!!


 ────カキーン!

  カッ、カランカラン……。


 俺の剣は弾き飛ばされてしまった。


「に、逃げるんだ!!」


 リータの叫ぶ様な声と同時に俺は殴られる。


 およそ、人間の力とは思えないほどの腕力。

 人生で一番重い拳を俺は頬に食らった。


 『ぐぇふ』なんて情けない声を漏らし、

 飛ばされ、俺は地に這いつくばっていた。


「立て! 逃げるんだ!! な、何か魔法を!」


 リータは頑張ってくれているのだろう。

 色々な魔法を唱えてる様だが何も出ない。


「どうにか逃げてくれ! 君に死なれたら僕は嫌だ!! なりふり構わず逃げてくれ!!」


 リータの声が聞こえる。

 なりふり構わず、か。


 俺は諦めるつもりはなかったけど。


 『コーディング』


 ───ザッ、ザッ……。


 四つん這いの俺の目の前に奴の脚が見えた。


 見上げれば、亡霊君主テラーロード

 剣が眼前に突きつけられている。


 ……だが、不思議と悪い気はしない。


 あの若手馬鹿上司とも違う。

 クソトカゲとも違う。


 今まで俺を馬鹿にしてきた、

 数多の奴らと全然違う。


 一人の敵として。

 表情はわからないが振る舞いがそう感じさせる。


 亡霊君主テラーロードは俺を対等な敵として

 見てくれているのがわかった。


 だから、こんなことはしたくない。

 したくないが……。



「悪い、亡霊君主テラーロード。何でも言うことを聞く。あそこの女も好きにして良い。だから……」


 俺は言いたくないが、言う。




「どうか、俺だけは助けてくれないか?」





 

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