第7話 負け犬の最後





 階段を下りて少し歩く。


 どうやらこの階には魔物はうろついていないようだ。

 みんなの警戒は解かれており武器をおさめている。


 俺への警戒は続いているが。


「そこ、右ね」


 後ろからこうやって指示が飛んでくる以外は、

 俺への言葉はない。


 洞窟内には声が響く。


 魔物のいない静かな道中は、

 俺への悪口が止まらなかった。


 本人たちは聞こえてないとでも

 思っているのだろうか。


「そもそもおかしいと思ったんですよ。ステータスジュエルのことも知らないのですから」

「洞窟内で私がオークたちを切っていた時も足を震わせていたからねぇ」

「戦ったことないのにぶっつけで『特殊スキル』使えると思います?」

「転生者って本当はもっと多いはずなんだけど、半分以上は『特殊スキル』を把握する前に魔物に殺されてるみたいだよ。国は転生者を象徴としたいからこの事実を隠してるみたいだけど」

「転生者オタクのリータがいうなら間違いなさそうですね」

「はぁ、転生者にしてはなんかダサいとおもったんだけどだったなんてねぇ……」

「……それに、あの人言うこといちいち気持ち悪いんですよねー」

「こっちが乗ってやったから調子に乗ってたんでしょうよ。……とはいえ、よくそんなこと言えるなとは思ったけどねぇ」


 俺の頬を熱い何かが伝って、溢れた。


 三人に言われたことに傷ついたのもある。


 けど、それよりも辛かったのは

 『生まれ変わったのに、前と変わらない不甲斐なさ』にだ。


 馬鹿は死んでも直らない。という言葉があるが、

 俺のダメな部分も多分一生どころか、

 何生かけても変わらないのだろう。


 なのになんで俺は転生なんか……。

 あのまま死なせて欲しかった……。


 気づけば俺は無意識に歩いていた。

 故に気付かなかった。


「グワァァァァァァァァァァ!!!」


 目の前の大きなトカゲの様な化け物の存在に。

 咆哮が俺の身体を突き抜けて、

 初めてその存在を知った。


「あっ」


 デジャヴ。いや、違う。

 あの時と同じ。


 俺は情けない声を漏らしただけだった。


 ────ブンッ。


 丸太よりも大きな尾で俺は吹き飛ばされたんだろう。

 前世? で車にひかれたときのような感覚をまた感じる。


 吹き飛んでゴロゴロと地面を転がる俺。


 あぁ、なんで今ので死んでないんだ。

 全身が痛い。きつい。苦しい。辛い。


 痛い目にあって、

 惨めな目にあって。

 何が転生だ。

 何が異世界最高だ。

 地獄みたいもんじゃねえか。


 世界が変わっても意味なんかなかった。

 俺が何も変わってないんだから。


 俺だって変わろうと何度も思ったさ。


 でも、どれだけ変わろうと思っても

 俺の意志の弱さじゃ変われなかったんだ。


 軟弱な思想が俺を操って

 それでずっと今まで逃げ続けて来たんだ。

 いつもやる気はその時だけだ。



 もし、俺が



 そしたら、こんな惨めな人生になってなかった。

 結局、俺のせいなんだ。



 ────ドシンッ、ドシンッ。


 何かが近づく音がする。


 俺、殺されるのか。


 ────ドシンッ、ドシンッ。


 いいよ。早く殺せよ。


 生きてる意味なんてもうねえよ。


 ────ドシンッ、ドシ……。


 奴が目の前に立っているのが分かる。

 そして、俺を尻尾で叩きつける。


「ぐあっ!!」


 だが、先ほどより威力は低い。


「ぐっ! がっ! ぐあぁっ!!」


 何度も何度もたたきつけられる。

 そして叩くのをやめた。


 俺はせき込みながらも顔を上げる。


 奴は細い先の割れた舌を宙にチロチロと出して

 俺を見下していた。

 

 こいつ、殺せるのに遊んでやがるんだ!!


 こんな魔物にすら馬鹿にされてんのか俺は。


 ……一体、俺が何をしたよ!

 お前に何かしたかよ!!


 どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!!


 ……逆か?

 俺が何もしないから舐めてるのか?


 いいぜ、やってやるよ!!

 どうせ死ぬだけなんだ!!


 とことんやってやる!!


 俺はボロッボロの身体に鞭を打って立ち上がる。

 だが完全に立ち上がることはできない。


 右の片膝をついて。

 そして、もう片方の膝に左手をついて。


 左手を奴に伸ばした。


 奴は俺をとことん馬鹿にしている、

 逃げようともしない奴の顎に手が着いた。


「出ろ!!! 『コーディングッッ!!』」




 その瞬間、

 全ての時は、止まった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る