第4話 三人の名前




 俺たちはダイン鍾乳洞とやらへ進んでいた。



「本当によかったよ~! ヴァンシュタイン様に会えたのは奇跡! 運命という奴だね!」

「さぁ、どうだろうね? ただ、俺は天の声に従っただけさ。あそこで待っていれば運命の人に出会うという声にね。つまりはそういうことさ」

「きゃー! ヴァンさまかっこいい!」


 右手にたわわ。左手にロリっ子。

 今、俺は人生で初めて女の子に囲まれている。


 いや、正確に言うと二回目か。

 

 一回目は地元のスーパーに買い物へ行く途中に、

 いわゆるレディースと呼ばれる

 野蛮人に囲まれたことがあった。


 ノーカウント。忘れよう。


 今の俺は転生者という特殊なステータスで、

 人生でこの上ない程の自信を持っている。


 どう考えたって最強の『プログラミング』

 使えるようになれば、最早こっちのものでしかない。


 ……いや、まてよ?

 まどろっこしいことしなくても……。


 俺は二人の手を握りしめたままつぶやく。


『コーディング』


「ヴァンさま何か言いました?」

「聞こえちゃったかな、恥ずかしい。君達との出会いについて神に感謝を伝えたのさ」

「流石はヴァンシュタイン様!」


 やっぱり他人に対してもコーディングは使えない。

 何になら使えるんだ、コーディングは……。


 それにしても、だ。


 この子たちは俺が何を言っても称賛してくれる。

 こうなると歯の浮くような台詞が止まらない。


「そういえば、僕としたら恥ずかしいことに、君たちの名前の名をまだ聞き及んでいなかった。美しさとは罪なものだよ。君たちの名前までも隠すのだから」


 気づけば一人称すら変わっていたことに気付く。

 改めないが。


 たわわは頬を赤らめ上目遣いで俺を見る。


「私の名前は……たわわです///」


 まさかのビンゴ。

 ビンゴ中のビンゴ。

 名は体を表すとはまさにこのことである。


「僕はリータだよ! よろしくねヴァンシュタイン様!!」


 これまた七十五パーセントビンゴ。

 『ロ』の聴牌。エロいゴスロリ来てるんだもん。

 ロンだよ。ロンリータ。エロリータ。


「私は……ナギサだよ。これからも末永~くよろしくね? ヴァ・ン・くん♡」


 耳元で囁くのは反則過ぎる。

 ゴッデス オブ エロティ。

 エロが止まらない。

 俺、正直もう死んでもいい。

 幸せがほとばしりすぎている!!

 ありがとうございます!!


 ご都合主義? いいんだよ。異世界なんだもん!

 これ、死んでまでして得たチケットだぜ?

 

 自分にそう言いきかせて

 俺はにやつきをかみしめる。


 いつだって女の子はクールな男が好きなんだから。


「ヴァンシュタイン様、そろそろダンジョンにつきます!」


 目の前に見えるは、いかにもな入口。


 こんなド〇クエの洞窟の入口(フィールドの)みたいなの

 本当にあるんだと感心する。


 だって、考えてみて?


 草原の真っただ中に大きめの岩があって

 それがくりぬかれてて

 中に洞窟が続いてるとかある? ないよ。

 

「その辺の魔物は私たちが倒すから、ヴァンくんは例の奴まで力を温存しておいてねぇ」


 そう言ってナギサは、

 片腕を上げ、もう片方の腕でそれを頭に寄せて

 ストレッチを始めた。


 足のストレッチの時、下着が見えた気がする。

 ごちそうさまです。


 さて、そんなことよりもだ。


 この三人はいわゆるボスを俺に任せるつもりだ。


 正直、嫌である。


 だってさ?

 モノにも人にもコーディングできないのに

 誰にプログラム組むん!?


「ヴァンシュタイン様、よろしくお願いいたします!」

「ヴァンさまのかっこいいところ楽しみにしてるよ!!」


 そんな俺の不安を知る由も無い

 彼女たちの期待の目が俺に突き刺さる。


 俺は自信に満ちた表情を作って応える。


「ふっ。あまりに早く仕留めてしまわないように気を付けるよ。君たちの視線を集める名誉な時間を僕は楽しみたいからね」



 何を言ってるのだ俺は。



 兎にも角にも。



 俺のはじめての冒険が始まることとなる。

 屈辱的な始まりが、始まる。





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