第3話 『特殊スキル:IT』



 リザードマンさんからどうにか逃れた俺は、

 草原にポツンとあった二メートルほどの

 岩の上に座っていた。


 そこで体感小一時間ほどの試行錯誤で

 俺は気付いた。



「なるほどね」



『特殊スキル』の確認の方法などがわかったのだ。


 俺の左手の甲には

 トライバルタトゥーのようなモノに囲まれた

 虹色に輝く大きな宝石が埋め込まれていたのだ。


 それに触れると、ボオッとホログラムのような画面が浮かぶ。

 そこには所持品だとかステータス、そしてスキルという項目が

 ゲームのメニューのように項目が並んでいた。


 凄いことに触らずともスキルと念じれば

 スキル画面へと画面が切り替わる。


 そして左上にでかでかと書いてあったのだ。、

 スキル名『IT』

 ちなみにスキルレベルは1だそうだ。


 なるほど。


 確かに俺が持つ能力の中では一番いいのかもしれない。

 良かったほんとに『歩く』とかじゃなくて。


 そして、どうやら『IT』スキルには

 三つのカテゴリがあるらしい。


 『ソフトウェア』

 『ハードウェア』

 『ネットワーク』


 『ソフトウェア』以外はグレーアウトしている。

 暗くなっていて触れないみたいだ。


 唯一、触れそうな『ソフトウェア』の中を見てみると、

 一つだけスキルがあった。


『プログラミング』


 詳細を開くと書いてあるのはこんな言葉だった。


『対象にプログラムコードを用いて命令を与えることが出来る』


 命令を与えることが出来る……。

 待って、無敵じゃない?


 さらに詳細を読み進めていったところ、

 対象に触れ『コーディング』と言えば、

 コーディング画面が出るらしい。


 試しに近くに落ちている石を拾う。


「コーディング!」


 何も変化はない。

 

 木の枝。


「コーディング!」


 砂。


「コーディング!」


 草、花、泥水。


「コーディング!」


 何も開かない。


「どういうことなんだ。スキルレベル……。そうかスキレベの問題か? スキレベは使用者のレベルを上げたうえでスキルを使えば使うほど上がると書いてあったが……」


 そもそも使えないのにどうやって使うんだ(遠い目)

 なんだこのポンコツスキルは!!!!


 サラっと流してたけどそもそも全部おかしいだろ!!


 態度の悪い女神!

 使い方の説明もないし期待もない!!

 挙句の果てにはクソみたいなスキル!!


 ステータスもさっき見てみたらマジでGランク!!

 知能はAランクだったがSとかSSがあるかどうかで変わるぞ!


 そして美少女合流イベントは!?

 いつまで一人なんだよ!

 かれこれ一時間ほど独りぼっちなのだが!?


 ……だが、まだだ。

 まだチャンスはある。


 ってのは

 実は世界最強クラスになる潜在能力ポテンシャルを秘めてる。


 異世界転生ってのはそういうもんだ。


 初めから『俺つええええ!』か、

 不遇と見せかけて『実は俺つええええ!』か。

 

 実際、他人とか命令できるのなら期待しかない。


 やってやるぞ。

 俺はこの世界で無双してハーレム作って

 今度こそ童貞を捨ててやるんだ!



「あの~、すいません」



 野望に燃えていた俺の後ろで

 誰かが声をかけてくる声がした。


 振り返ると岩の下に三人の美少女。


「あのっ、その左手……転生者様ですよね!?」


 リーダーっぽい金髪のショートカットの女の子がそう言った。

 なるほど。ズィ・異世界って感じのかわいい子じゃないか。


 テンプレに沿った、たわわなお胸。

 着てる服もあれだ。童貞を殺すセーターに似てる。

 俺キラーじゃないか。転生って二度目も出来ますか?


「あ、違かったのでしたらすみませんでした……」

「いや、いかにも俺は転生者だが。なぜわかったんだ? 意外にも転生者って結構いるのか?」


 じゃないとこんなあっさりバレないよな?


 俺が頬をかきながら問い返す。


 すると隣の銀髪ロングツインテールの

 ゴスロリっこがずずいと前へと出てきた。


 見たまんまの魔法使いだろう。

 大きな赤い宝石を嵌めた白黒の杖を持っているからだ。


「左手を見ればすぐわかるじゃないか! それと、現在では転生者様は数十人くらいは確認が報告されてるよ! ……よかったら名前を聞いてもいいかな!?」


 キラキラとした目でロリっ子は

 年齢に不相応な話し方で名を聞いてくる。


 するとその隣に居た最後の一人。

 藍色の長い髪の色気たっぷりなお姉さんが

 申し訳なさそうに言った。


「悪いねぇ。この子、転生者オタクでねぇ」


 この人は侍だろうか。

 左の腰には刀と思わしきものがある。

 そして、水色の和服からちらりと生足が見えた。

 なんだろう。もうエロイ。

 流し目も。ぷっくらした唇も。

 アディオス語彙力。ウェルカムこの衝動。

 

 と、そう言えば名前か。

 転生したからには名前……帰るか。


 もうめちゃくちゃ格好つけるのもありだよな。


「名乗るほどの名ではないが、人は俺をこう呼ぶ。『さすらいのヴァンシュタイン』と」

「か、かっこいい!!」

「初めて聞くですね!!」

「悪くない名だねぇ」


 それぞれに好感触を与えたようだ。

 語感の良い名前リストを作ったことがあって良かった。

 ありがとうドイツのお城!!


「ヴァンシュタイン様!!」


 ロリっ子は俺に目をキラキラさせて岩を登ってきた。

 他の二人もスイスイと上がって俺の手を取る。


「僕たち、ダンジョンに行くんだけど。ついてきてもらえないかな!?」

「ここの近くのダイン鍾乳洞なんですけど……。あの……あれが出るじゃないですか? 私たちだけじゃ心細かったけどヴァンさまが居てくださるなら……///」


 僕っ子ロリータはウルウルとした目で俺を見上げ、

 たわわ子は、たわわなたわわを近づけて

 俺の右手をたわわわわわわ。

 

 えーい! 行くまでにはスキルも使えるだろう!

 この感じだと転生者にハズレって居なさそうだし!!


 多分あれだ! 美少女たちにピンチが来て、

 俺が颯爽と助けて一気にハーレム展開!!

 これだから転生物は良いんだ!

 ハーレム万歳! 異世界万歳!!!


「ふっ。今日もまた、この世に絶望を知る者を増やしてしまうのも悪くない。代わりに君達には希望という光を見せてやろう。さぁ、共に奏でよう! 俺と君らの前奏曲プレリュードを!!」

 

 この時、俺は完全に浮かれていた。

 

 敵の正体も、自分の能力の正体も。

 そして、この子たちの正体も知らずに。



 ただ、ただ、浮かれていた。







 


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