第2話 素晴らしきこの世界へ転生を!




「俺は、お前を選ぶ!!」

「はい?」

「いや、だから! 俺は青髪女神であるお前を異世界に持っていくものとして選ぶ!!」

「何の話ですか。ちょっと黙っててもらっていいですか?」


 あれ、やっぱ知ってるのと違うのだが?


 俺が知ってるパターンだと、

 ここで青髪女神が仲間に入った後に、

 厨二病の爆発ロリ眼帯魔導士。

 そして、ドMな巨乳剣士が仲間に入って

 愉快なハーレム生活を出来るはずだったのだが。


「えと、あの、その……」


 ダメだ。

 思っていた路線と違うとなった瞬間に言葉が出ない。


 よくよく考えたらこんな美人と話してたのマジすごい俺。

 お前とか言っちゃってたし、調子乗ったものだ。


「サクッと説明しますね。貴方は死にました。で、新しいこの世界に転生します。転生者にはボーナスとして『特殊スキル』が一つ付与されます」

「なるほど、スキルパターンか。数多なる伝説レジェンドスキルから選べる奴パターンだな」

「黙ってもらってていいですか? 三回目は言いません」


 俺は黙って敬礼で答える。

 呆れたような眼で女神は続けた。


「えーと、それで貴方に与えられるスキルは選べません。貴方の前世を考慮して、一番優れてた能力を引き継ぐだけです。つまり、前世で頑張った分は今回頑張らなくても最初から持っているということです。良かったですね」

「えっ」


 一番優れたスキル?

 あったら窓際に座ってはいなかったのだが。


 というか、気づいたことがある。

 この女神、美人なのは良いが態度が悪すぎる。

 ずっと髪の毛をくるくるくるくるいじってるし。


「以上。質問はございますか?」

「あの〜、自慢じゃないですけど、俺、優れてた能力とかないと思うんだけど」

「本当に何もなかったら、無い中で一番マシなモノって思えば大丈夫です」

「全然大丈夫じゃないのだが?」

「いいんじゃないんですか? 『特殊スキル:歩く』とかで」

「投げやり過ぎないですか!?」

「何の努力もしてないあなたが悪いんですが」

「スミマセンデシタ」


 いや、しかしだ。

 このパターンはまだ抜け道がある!!


「では、とりあえず、その『特殊スキル』を授けていただけますか?」

「はい。速やかに」


 そう言って女神は頭上に両手をかかげる。

 

 両の手はまぶしく輝き、

 やがて、虹色の光の球体が生成された。

 まさに幻想世界ファンタジー

 正直、この景色だけで死んだ分の採算は取れる。


 こんな幻想的な光景、

 VRでも再現できない代物だ。


 そして、それは頭上から俺の頭上へと、

 ゆっくりと、ゆっくりと……。


 じゃなくて、ものすっごい勢いで

 女神に叩きつけるようにおろされた。


 いや、パンの生地練る動作やないかい!!!


「以上です。それではいってらっしゃいませ」

「待ってください! なんか目的とかは!?」

「ありませんが?」

「魔王を倒せとか!!」

「あぁ、貴方にはないです。無理でしょうから。貴方のパーソナルデータは……知能だけは平均より随分高いみたいですが、それ以外はGランク。最低ランクです。生きていくのも困難でしょう。頼むのはかわいそうです」

「かわいそう!? この世界でも底辺!?」

「では、いってらっしゃいませ」

「ちょ、まてよ!!!」


 木村〇哉が届かない。

 女神、壁、天井、床、すべてが消えて落ちる。


「これ空から落ちるパターン!?」


 と思ったが丸い何もない白い部屋に俺はいた。

 無機質なその空間は実際よりも壁が遠く感じる。


 だが、一通りくるっと回ると

 何もないわけではなかった。


 白いドアが、一つだけある。


 俺は同じく白なのに

 やけに主張が強いドアを開いた。


 その先は階段だ。どうやら螺旋階段の様だ。


 階段を下りていくとやがて壁がなくなる。

 細い円柱だけが階段と建物を支えており

 周りの景色が見える。


 見渡す限り、ここは草原。


「この階段の感じ、見たことあるぞ。某ハンター漫画のゲーム編の始まりと一緒だ」


 休載が多すぎて途中で読むのをやめた漫画だ。

 選挙らへんで俺の中では終わっている。


「ブック!」


 何も出ない。そりゃそうか。

 ……ていうか。


「『特殊スキル』ってどうやって確認するの?? ここどこ? 所持品なし?」



 どこへ行けばいいかも、

 何をすればいいのかもわからない俺。


 振り向けば、俺の出てきた螺旋階段の建物もない。


 何も知らないまま俺は何もない草原に

 放り出されたというのが現状と言える。



 だが、それは間違いだった。



 何もないわけではなかった。


 目の前には、人型生物がいる。

 

 俺が暮らしていた世界でいうところの

 『トカゲ』に似ている。


 だが、さっき言った通り『人型』である。

 いわゆるリザードマンという奴だ。


 この世界の住人なのだろうか。


「ハ、ハロー……」


 日本人じゃないと思ったら

 絶対英語圏ではないと思ったとしても

 とりあえず英語で話してしまう日本人の癖を

 俺も持ち合わせている。そりゃそうだろ?

 

 対するリザードマンさんの返事は簡潔だった。


「シュル、シャシャシャッシャー」


 一瞬で理解した。

 これは狩る者の目だ。


 決して友好的とは思えないリザードマンさんから

 逃れるように俺は駆け出した。



「おかしいだろ! ファーストコンタクトはスライムじゃないのかよ!!」



 当たり前だが俺たちの常識は通用しない。

 だけどさ、そうかもしれないけどさ!?




 異世界転生、どうやら前途が多難すぎるのだが?



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