最終話:お互いに誓う

 1週間後。約束通り、万真は美玖が入院する病院へ向かった。当初聞いていた入院期間は予定通り1週間で済んだのだ。それで終わったのも、万真が偶然居合わせただけでなく、を聞いていたからこその躊躇ためらいのない言動が、この結果に現れたのである。


「……退院おめでとう。その、みそっ……」


1週間前、万真は美玖のことを無意識に下の名前で呼んでいた。だからか、顔を合わせると急に恥ずかしさが増す。


「……美玖でいいよ。私もやっちゃったし、


 病院からバスで揺られること10分程の距離に、美玖が1人暮らしをしているマンションに着いた。場所としては意外と万真の家から遠くはなかった。


「それで、何で……あんなことになってるってすぐ分かったの?」


美玖としては、1番気になっていることだろう。


「実はな――美玖とあの男の同期入社で、有弥の高校の同級生の奴がいるんだって。そいつが性的暴力らしき現場を見てしまって、有弥に話したんだと。それで俺にもその話が来た。美玖が入院し、あの男は警察行きだし、一体何があったのかって社内でちょっと騒ぎになったそうだ。そいつが全てをぶちまけた結果、誰も知らなかったって驚きで仕方なかったんだって」


「……復帰したら、その人にお礼しなきゃ。その人が清水くんに打ち明けなかったら、万真が知ることもなかった。私が助かったきっかけの発端が、そうだから。実は、あんなことになる前に何回か警察行って夏向とのこと相談してた。だからあの女性警察官の方と顔見知りだったの」


 お互いに、


「……ごめん」


先に謝罪の言葉をこぼしたのは、万真。


、俺は言っちゃいけないことを言ってしまった。それで美玖を傷つけてしまった。最初は正論を言ったまでだと思ってたけど、違うって気づくまで時間がかかってしまった。……確かに俺はシスコン男だった。姉ちゃんの背中を追いかけてばかりだった。そんな感覚だったから、美玖とのことはただの友達付き合いでしかないと思い込んでた。卒業式の2か月前に姉ちゃんが引っ越した。姉ちゃんと離れてやっと何か掴んだ。……俺は、


「私こそ、ごめんなさい。八つ当たりして逃げ帰ってしまって。……やってしまったと思った。万真にもう相手にされないだろうと勝手に思い込んで、避けてきた。卒業式の日、万真に謝ろうと考えてたけど、また逃げ帰ってしまった。後悔で心が満たされたまま入社して……夏向に告白されて付き合った。だけど夏向のことよく分かってないまま付き合って、このままでいいのかなって思って、あの日別れ話したら怒りだしてっ……」


 やっとの思いで打ち明けた美玖。その目には涙が。


「もう話さんでいい。美玖がどれだけ辛い思いしてきたか、十分伝わったから」


美玖を優しく抱きしめる万真。


「……私、心のどこかで……万真に助けてもらいたかった……助けてって叫んでた……のかも。本当のこと……言っても……いい……?」


泣きながら、万真に尋ねる美玖。


「うん。俺らしかいないから、遠慮せず言って?」


抱きしめた手を緩め、向かい合う2人。


「本当は、万真のことずっと好きだった。、好きじゃなかったっ……!!」


ずっと好きだった。その言葉を聞いて、万真は安心していた。


「……ずっと好きでいてくれて、ありがとう。俺もずっと――」


美玖の頭をそっと撫で、長くしまい込んでいた彼女への想いを、やっと伝える時。


「好きだったよ、美玖。もちろん、今もだよ」


お互いに目をつぶって、熱くキスをしたのである。


 一息ついてから、美玖が抱きついてくる。


「……万真。私はもう、貴方を失望させることは言わないし、やらないと誓う」


「……美玖。俺はもう、君を傷つけることは言わないし、君を手放さないと誓う」


お互いに誓う。


「私と――」


「俺と――」


その続きは、重なる。






「「――付き合ってくださいっ!!」」






☆☆☆


 週が明け、万真はあるものを持って出社する。


「おはよー万真くん!」


万真を見つけるなり、由貴が元気よく挨拶する。


「その手提てさげの袋って何ー?」


「あ、これは……こないだの彼女が、『一緒にいた先輩の方にお礼で渡してほしい』って言われたので。警察と救急車を呼んでくれた由貴さんにも、感謝してましたよ」


お礼の品は、あのショッピングモール内のスイーツ店で売っていた、絶品のマフィンだった。


「え~美味しそうじゃん! あそこに売ってるんだー、今度買おうっと! ありがとうって伝え――って何にやけてんの万真くん?」


「実は退院した帰りに、一緒に寄って買ったんです。その後……そ、その彼女と仲直りして、付き合うことになりましたっ!」


照れながらも由貴に報告。


「よかったじゃーん、おめでとう!」


言いながらトントンと万真の背中を叩く由貴。


「まあ、体調が落ち着いてからなんで正式には来週からなんですけどね――ってそんな顔しないでくださいよ由貴さん! それにいつの間に澪まで……!」


「付き合う前に、週末私と付き合ってくれないと許さないよーっと。えへへっ」


由貴と澪にいじられながらも、万真の新たな1週間が始まるのであった――

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