最終章:恋だとやっと気づいたから
第25話:どうしたらいい……
9月のとある週末、万真は有弥と久々に会い、食事をすることになった。
「仕事は順調か、万真?」
注文の品を待ちながら、さり気なく有弥が聞いてくる。
「まあ、それなりには、な。入社して暫くは同じ課にいる女の子に全然相手にされなかったんだけど、今はもう気軽に話せるようになるまでになったよ」
「けっこう訳ありだって言ってたもんな。でも、話せるようになれてよかったな」
仕事は順調。ただただ、それだけでよかった。でも。
「そうだなぁー……」
どこか間抜けな表情をしていた万真と有弥のもとに注文したご飯が届き、黙々と箸を進める万真に、
「何か腑に落ちないようだな?」
「うーん……」
そう返事するだけで何も言わず、先に食べ終わる万真。
万真と有弥は別々に会計をした。万真が不意に後ろを見ると、とある男女の姿があった。男の方は見ない顔だが、女の方には見覚えがあったのだ。
(……は?)
正体は、美玖だった。男と親しげに話している。その様子を見てしまい呆然としながらも、万真は有弥と一緒にレストランを後にした。
「あのさ有弥、実は――」
万真は有弥に、先月行われた飲み会の後にあったことを打ち明けた。
「……何気にやるもんだな、同期の子。それはさておき、俺は卒業式の日の時点でそうじゃないかと思ってた。万真があんなにしょんぼりするってことはって……」
「……お前はエスパーか」
「違うわっ。まあ……好きだったんだな、御園さんのことよ」
既に有弥にはバレバレだったのだ。
「……そうさ。あの日に感じた心の痛みと、こないだ感じた心の痛みが一緒だった。そういうことだったんだなってやっと気づいた。ついさっき御園さんっぽい人と男の人が一緒にいて、楽しそうに喋ってんの見て、俺は――」
辛いのか、万真はもう何も言えない。
「そうかそうか。悔しかったんだろう。そして、惚れていたんだろう――いつの間にな」
「……御園さんに謝れていたら、『1人の友達として仲良くしたい――そして、御園さんのことを知っていきたい』って言いたかったけど、できなかった。でも今の俺なら、そう言えないだろうな……」
万真はスマホを取り出し、とある写真を有弥に見せる。
「……これ。御園さんと一緒に撮ったやつが残ってた。消したはずが残ってた。先週末に写真整理してたら見つかってさ。あの頃のように仲良くできないんだなって思うと、日に日に辛くなって……。もしさっきの男の人と……付き合っているんだとしたら、もう俺、何もできないのかな……。どうしたら……いいのかな……っ……」
「……万真……」
言葉に詰まり、目に涙を浮かべ、今にも泣きそうな万真を前にして、有弥は何も言えなかった。
暫く歩くと、分かれ道に着く。ここで有弥と別れる。
「そういやさ、御園さんが勤めてる会社、偶然にも俺の高校の時の同級生がいるのよ。そいつからちらっとしか聞いてないが――」
「……何か、よくないことか?」
「察しがいいな。御園さんは今、付き合ってる人がいる。多分、さっき一緒にいた男だろう。その男から、もしかしたら性的暴力を受けてるんじゃないかって」
――まさかの性的暴力?
「え? おい……あんなに仲良さそうに話してるの見たのに、信じられないんだが?」
「俺だって信じがたいよ。同級生が、御園さんがその男に会社の多目的トイレまで連れていかれるのを見たって言ってた。抵抗しても聞かなかった様子だったって……」
「……防犯カメラとかあったら、すぐ見つかるもんじゃねぇの?」
「さあ? さすがの俺も御園さんが心配だな……。あのままだともたんぞ?」
有弥からのこの情報に、万真は驚きを隠せないが。
「……助けたい……助けられるものなら、助けたい……。でも、会えっこ、ない……」
驚きから一転、現実を見て再び落ち込む万真。
「同級生のやつも、御園さんとその男とはそこまで話す関係じゃないからなぁ。でもその辺にまだ住んでるっぽいのは分かったし、近々どっちかだけでも会えるでしょ?」
「何だその根拠は……」
少々呆れながらも、万真は有弥と別れ、家に着いた。そして再び、有弥に見せた写真を見る。
(……あの男から逃げてこいよ。こうしてまた、俺の隣で笑ってくれよ――)
どうして消さなかったままなのか、万真には分からない。
(御園さんに救われたってあの頃気づいていたなら、好きだって言えたらよかった――)
また涙が溢れ、すすり泣く万真。美玖との2ショット写真を開いたままのスマホの画面が、大粒の涙で濡れていた。
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