第21話:謝るにはもう……
2月に入り、卒業式まであと1か月になったある日。両親が仕事で不在の中、万真は家の中でただ1人、暇そうにしていた。でも、心は晴れないままだった。部屋のベッドで寝転がっていると、有弥から電話がかかってきた。
「もしもし?」
『もしもしー。卒業する前に、万真に話しておきたいことがあって』
「ちょうど、俺も有弥に話したいことがあったんだよ。有弥からお先にどうぞ」
『じゃ、お先に失礼。実はさ――万真が最終面接に行ってた日、帰り際御園さんにちょっと話があるって言われて』
―去年の12月中旬―
経済学部のロッカー室にて。
「……あの、清水くん。その……ちょっと話があるんだけど」
「どうした? 御園さんから声かけてくるなんて、珍しいな。万真なら今日最終面接行ってていないぞ?」
美玖には探す様子が見られないが、何か用事があるのだろうか。
「そう、なんだ……。なら、よかった」
「よかった、とは?」
「野木くんとかつて何回か一緒に遊んで、楽しかった。野木くんも楽しそうにしてた。お姉さん一筋な男じゃなく、どこにでもいる1人の大学生に見えて……変わろうと努力してるんだな、と思えたから、あの人のこと本当に好きだった……。……本人には言わないでほしい。それだけ約束」
美玖はそれだけ言うと、去っていった。
『……ということがありまして。御園さんから言わないでって言われてたからこの2か月、黙っていたけどー……、肝心の姉貴が引っ越したということで、万真の意識も変わったから、別にいいかなと思ってぶっちゃけてみたのよ。……御園さんの率直な想いを』
「……」
『これまで俺は御園さん本人から本心を聞いたことがなかった。だから正直びっくりした。今まで万真を自分の思うがままに振り回しただけだと思ってたけど、違ってたんだなって気づかされた』
「……俺は、間違ってたんだ」
呟くように、ようやく喋る万真。
『何が?』
「俺が変わったというの、御園さんが1番先に気づいてたんじゃないかって。なのに俺は、そんな御園さんの想いを踏みにじるようなことを言ってしまったんだなって……」
『1人の女として見れない、だったか?』
「ああ。俺が何も悪くないというのは、嘘だ。謝るにはもう遅いかもしれない。だけど――去年のことしっかり謝って、御園さんが納得できる答えを出したい」
『そうか。……お前さんの用も、御園さんの件だったりするのか?』
ズバリ当てられる。
「……合ってる」
『まあ、そういう……コホン』
有弥は何か言いかけたようだが、言葉を濁す。
『まあ、俺が間に入る話じゃねぇから、万真自身も御園さんも、お互い納得できるように話し合い、できるといいな』
「ん? ああ、うん。最大限、努力するよ」
『俺は2人がこれからどうなるだろうと、2人の考えを尊重するさ』
長電話が終わり、ベッドから起き上がる万真。
(俺が言ったことで、御園さんを傷つけてしまったことは事実。……遅過ぎた。気づくのが、遅過ぎたんだ――)
会うまであと1か月。どんな顔をして会うべきか、悩ましい……。
☆☆☆
1か月後、卒業式の日。万真は卒業証書を手に、母・水葉に写真を撮ってもらった。そして今日も働く姉・万葉へその写真と共に、無事卒業したことをLINEで報告した。
だがその後、重大なミッションが万真に待ち受けていた。ゼミ室にメンバーが全員揃い、海野先生が最後の挨拶をしているのを聞きながら、
(あの時のこと、御園さんに謝らないと――)
先生の挨拶は頭に入ってきてはいるが、早く終わってほしいと願うばかりだった。
挨拶が終わり、海野4年次ゼミは完全に解散となった。深く深呼吸し、席を立つ万真。
(御園さん、待って――)
万真が深呼吸している間に、美玖は席を離れ、逃げるようにゼミ室を後にしてしまった……。
「はぁ……」
ため息が出ると同時に
「そんなでかいため息すんなよ。……まあ向こうも謝る気になったなんて思ってないもんな。だけど、お前は成長した方だよ」
「……そう、なのか?」
「そうだ」
有弥から謎の慰めを貰った万真だったが、ズキンと心に痛みが走ったような気がした。
(……何、これ――?)
この痛みの正体なんて知る由もなく有弥と別れ、翔太・那奈・仁奈・朝陽の4人の後輩たちが待つ写真部の部室へ最後の挨拶をしに行く万真。
――これでお別れとか、嫌なはずなのに。
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