第19話:自分が進むべき道

 万真は12月入ってすぐに行われた1次の面接試験を、何事もなかったかのように通過。最終面接に向けての練習を控えたこの日の昼休み。


「内定取ったぞ!」


有弥がVサインをしながら報告してきた。


「おめでとう! 俺は最後の面接、勝ちに行かなきゃなー」


「俺なんて何社受けたよ……何回も落ちて、もうダメかと思ったよ。……だが! 万真なら大丈夫だ。初めて受けたわりにしては上手くいきすぎて、逆に羨ましいわ」


「そうかー? 俺でもびっくりしてるよ」


 昼食を食べ終え、万真が先に席を立つ。


「この後面接練習だから、先行くわ。んじゃ、また後で」


「おう、頑張れよー!」


 ここまで来られたのは、万真自身の力だけではない。こうして隣で応援してくれる有弥。突然目の前に現れ、進むべき道を教えてくれた由貴。そして何より――真摯に話を聞いてくれ、助けてくれた姉・万葉の存在が、何よりも大きかった。


 面接の練習相手は、経済学部4年の学年顧問の先生だった。


「今日は、よろしくお願いします!」


ハキハキとした挨拶から、最終面接に向けての勝負が始まる――


☆☆☆


 最終面接を終え、1週間が経過した。この日は冬休み前最後の部活だ。写真部の部長を翔太へ託すその日、合否が判明する。


 その知らせは、昼休み前にやってきた。廊下で電話を受ける万真の隣で有弥が固唾かたずを飲んで見守る。


「……あ、ありがとうございましたっ!」


電話が終わる。


「……どうだった?」


「……う、受かった。俺、やったぞ!」


喜びを爆発させる万真。有弥とハイタッチを交わす。


「やったなぁ! いや~1社しか受けてないというのに、本当にお前さん凄いわー。おめでとう、万真!」


「ありがとう! これで卒論に集中できるわー」


 昼食を食べ、ゼミ室に向かう2人。万真は海野先生がいる隣の研究室に入る。海野先生に報告を終えゼミ室に入ろうとすると、またもや美玖と鉢合わせしてしまう。


「……電話、後ろで聞いてた。内定、おめでとう」


冷静な顔をして、その場で祝福の言葉を送った美玖。


「ああ、ありが、とう……?」


今まで避けられていたはずの美玖からの言葉に、万真はきょとんとしていた。


 ゼミナールと卒業研究の時間が終わり、写真部の部室に向かった万真。部室に入ると、翔太たち後輩が全員揃っており、待ちわびている様子だった。


 年末ということで、部室内の大掃除のみでこの日の部活は終わる。1時間余りで大掃除が終わり、万真は最後に挨拶を行う。


「実は今日、内定を取りました!」


「「おめでとうございます!」」


後輩たちの温かい祝福が、万真に送られる。


「ありがとう。これでやっと俺は年を越せます。という訳で……翔太に次期部長を託す。そして、次期副部長は――那奈に託すことにします。仁奈も朝陽も、2人のサポートをしっかり頼むよ」


「「はいっ!」」


だが、重責を感じたのか、翔太の表情が硬い。


「2年で副部長、3年で部長就任――俺と同じじゃないか。俺がやってこれたんだから、お前にもできると俺は信じてるよ、翔太」


翔太の肩を叩き、励ましの言葉を送る万真。


「……はい。全力を……尽くします! ご卒業までまだですが――兄さん、今までお世話になりましたっ!」


翔太が深々と礼をする。姉からバトンを受け継ぎ、1年と1か月に及んだ、万真の部長人生に幕を閉じた――


 帰宅後、外はすっかり夜になっていた。珍しく、姉が先に帰ってきていた。


「姉ちゃん――俺、受かったよ!」


帰宅するなり、万真はまっすぐ姉の部屋に向かい報告する。


「おめでとー! これでひと段落だね! 由貴にも伝えておくねー!」


「……あっ、そうだ。ついでに、色々とありがとうございましたって言ってもらえる?」


「ラジャー!」


敬礼ポーズをしながら、了承してくれた姉。


「姉ちゃんも、助けてくれてありがとう」


「いや、私は背中を押しただけだよ。万真ががむしゃらに頑張った結果だよ」


☆☆☆


 そして、2週間あるかないかの冬休みに突入した。


「姉ちゃーん、飯の時間だよー」


姉を呼びに来た万真。だが、姉はぐっすり寝ている。


(――ん?)


姉の部屋の机の上に置いてあったのは、アパートの物件の資料だった。隣に置いてあった姉のスマホにLINEが届く。由貴からだ。


『万真くんのことが気にかかるのは分かるけど、そろそろ1人暮らししてもいいと思う。万真くんなら、もう大丈夫だよ』


いつの間に姉が、1人暮らしを視野に入れていたとは――

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