第6章:それぞれの道へ進む時

第18話:内定を取るために

 10月。今年も大学祭がやってきた。とはいうものの、万真にとっては最後の大学祭である。海野ゼミは今年は何とか多目的ホール内の1枠を取り、模擬店を出すことに。出し物はワッフルだ。お好みでチョコクリームや生クリームをトッピングできる。


 大学祭2日目の朝、万真が家を出ようとすると、背後から姉が声をかける。


「万真ー。今日友達と大学祭行くよー。部活の方にも顔出すわ」


「あ、うん。分かった。んじゃ、行ってくる」


姉が友達を連れて来ることに関しては何も不思議に思わず、ただただ時間を過ごしていた万真。


 1日目に引き続き昼間、万真と有弥で1時間店番をやることになっている。


有弥とけっこう一緒なんだな」


って何だよ。まあ……お互いに去年と全く違う状況だしな……ってあれ、姉貴じゃね?」


万葉が多目的ホールに入ってきた。すぐさま万真と有弥のもとにやってくる。


「姉貴、久しぶりです。えっと、お隣の方は……?」


万葉の隣には、万真と有弥とは会ったことのない女の人が立っていた。


「初めまして。万葉とは同じゼミで知り合いました、羽本由貴です」


「あ、こちらこそ初めまして。野木万真です。隣が自分の友達の清水有弥です」


万真と有弥は軽く会釈すると、


「お2人のことは万葉から聞いてます。今……ゆっくり話してる暇ないよね」


由貴が周りの様子を見ながら、万真に確認を取っている。


「……はい? 何のことです?」


何のことだか、万真は分かっていない。


「万真、由貴が話したいことがあるんだって。そっちも忙しいと思うから、落ち着いたら連絡して?」


「……うん、分かった」


万葉と由貴はワッフルを買い、その場を後にした。


「……どうなってんだ?」


「さあ……?」


万真と有弥は最後まで訳が分かっていなかった。


 それから少し時間がたつと、店番の交代の時間が来てしまった。うち1人は美玖だった。急いできたのか、息を切らしていた。


「はぁ……はぁ……代わり、ます……」


「美玖、ギリギリじゃないのに何で急いできたのさ? 2人とも待ってるから、呼吸整えてきな?」


彼女とペアの女子学生にそう促され、美玖は万真たちから数歩距離を置いて呼吸を整えていた。席に着こうとすると、万真と肩がぶつかる。


「……ごめん」


「……うん」


万真と美玖はお互いに一言しか交わさなかった。この後万真は部活のブースの受付当番が控えているが、その前に有弥と昼食を適当に済ませた。その後姉と連絡を取った。


 2日目が終わり、大学祭の全日程が終わった。解散になり、万真と有弥は経済学部の玄関を出ると、万葉と由貴が待っていた。


「俺、席外した方がいいだろうな。用事あるの万真だし。んじゃ連休明けなー」


有弥は2人に軽く一礼し、足早に帰っていった。


「……お待たせしました。で、姉ちゃん……どういうこと?」


「万真、就活上手くいってないでしょ? ってことで、少しでも力になれたらってこの人が」


「ふーん、そういうことねぇ」


 場所をキサキに変え、飲み物を注文してから。


「今度、私が就職した会社『高仲たかなかコーポレーション』の会社説明会があるんだよね。私がお世話になってる先輩の何人か青城大学の経済学部出身だから、大学としての実績もあるし、そこまで怖い所じゃないよ」


由貴が会社案内のパンフレットを万真に見せる。


「アットホームな感じ、ってことなんですね」


「そうそう。万真くんが興味持ったらでいいんだけど、説明会来てみたら? 就職して半年たったけど、働きやすくていいよー。新人研修けっこうきついのかなって思ってたけど、意外とそうでもなかった。万真くんの頭脳なら楽勝じゃない?」


「うんうん。こう見えて、成績は優秀な方だから。この子」


まさかそう見られていたとは思わず、万真は少々引いている。


「姉ちゃん、由貴さん……そこまで言うなら、考えさせてください。……前向きに」


 やがて万真は、10月末に行われる高仲コーポレーションの会社説明会に参加することになった。それまで由貴から貰ったパンフレットをよく読み込んでいた。今までとは顔つきが変わり、万葉は由貴に力を借りてよかったと思っていた。


☆☆☆


 就職試験は11月中旬から。筆記試験と2度の面接を経て、順調にいけば年内に内定が取れる。万真は自分の実力を信じ、試験に臨んだ。


 その後無事筆記試験を通過した万真だったが、一足先に美玖が内定を取った。万真がそれを知ったのは、海野先生と面接練習を行う直前。直々に報告しに来たのを聞いてしまったのだ。目が合った途端、美玖はかなり気まずそうにしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る