第17話:自覚の必要性
万真は全てを語った。全てを知った有弥の反応は。
「……うーん、御園さんの言うことも分からんでもないんだけどなぁ。万真の言い分も分かるし……難しいところだなぁ。振り向いてほしかったのは分かるけど、これまで振り回されるだけだった万真の気持ちも考えるべきだったと思う気はする」
「うん。それもあるけど、どうやったら納得してもらえるか分からなかったのよ」
「俺の時は逆だったからなぁ……。女心は分からねぇ。知りたいなら、姉貴にでも話聞いてもらえば?」
2人の話は済み、翔太が1人待つカラオケ店の一室へ戻っていった。
夕方に解散し、帰宅した万真は姉・万葉の部屋のドアをコンコンと軽く叩く。
「姉ちゃん? 今大丈夫か?」
ドアが開く。
「どうした?」
「姉ちゃんに聞きたいことがあってさ」
という訳で、万真はこの日有弥と話した内容を姉に説明した。
「……なるほどねぇ。私も有弥くんと同意見かも。でもね、私は万真は変わったと思ってるよ。だけど同じゼミのその女の子、万真がシスコン男というイメージが抜け切れてない。自分なりに自分色に染めたかったけど無理だった。それをやっと自覚して、引いてるだけだろうね。シスコン男という存在が1人の女性として嫌だったのかなと思うけど……」
姉は1人の女として、そして万真の味方として自身の考えを示した。
「彼女の……その子の『変わったんだと思ってた』という言葉がどうも頭から離れなくてさ。俺、自信なくしてたんだ」
「そうかそうか。どこか……切ない響きがするね、その言葉」
「……切ない?」
「うん。変わってたってその子が目に見えるぐらい分かっていたなら――万真はどんな言葉をかけてあげれた?」
どんな言葉、か。万真は考えても、分からない様子。
「……いつか、分かる時が来るよ」
「……うん? 姉ちゃん……俺、やっぱり鈍感なのかな?」
「万真がそう思うなら、自覚はできてるようだね。好きだった、もっと知りたいと思っていた――だけど万真にはその想いが届いてなくて、悔しくて、切ない言葉になったと思うよ。あくまで私の考えだから、ね?」
美玖の『変わったんだと思ってた』という言葉は、万真には自信をなくすように聞こえていた。だが、同じ女性としての姉の見方は、全く違っていた。
「万真が変わったというのは、私が証明するから。だから、あれこれ悩むことないよ」
「……ありがとう、姉ちゃん」
万真が自分の部屋へ戻ろうとすると、姉が背後から声をかける。
「そういや万真、就活は順調?」
「……ではない。俺、将来何したいのか分からない。やりたいことがないんだよね。何かしなきゃいけないのは分かってるんだけど、何もできない……」
「ぶっちゃけ私も、去年の今頃そうだった。だけど、同じゼミの友達に誘われて行ったインターンシップで何となくピンと来て、試験受けて……今に至ってるって感じだから。人のこと言えないけど、後悔しないように頑張りな。さっきの話もそうだけど、自覚さえできてれば何とかなるさ」
何とかなる――姉のその言葉を信じ、万真は近場開催のインターンシップをスマホで探してみたのだった。
☆☆☆
夏休みが終わった。説明会への参加、就職試験への申し込み、早い人では最終試験へ駒を進めたり内定を取る者も出てきている。悲惨な破局を乗り越えた有弥は、履歴書の志望理由の添削を受けている。近日中に申し込んで試験を受けに行くのだろうか。
「全然上手く書けないんだよなー」
とは愚痴をこぼすものの、前を向いている。その姿は、万真にとっては眩しいものだった。
(俺は結局、何もできなかった――)
大学祭の準備もある中で、焦りを感じていた。
9月中旬の週末、万真は部活で大学に行っていた。去年と同様、大学祭にて新聞部との合同企画の新聞記事を作ることになっている。
同じ頃、万葉はとある場所で誰かと会っていた。
「急に押しかけてごめんね、
「全然。で、どうしたの?」
場所は、万葉の大学時代の同じゼミの友人、
「実は、弟が就活でけっこう行き詰ってて」
「弟くん、もうそんな時期かー。なら、力を貸そう。ちょうど、私のとこ説明会をするって話をちらっと聞いたのよー」
万葉は先月弟と話をした際『何とかなる』とは言ったものの、何かと心配だったのだろう。だから、かつて自分を助けてくれた由貴に白羽の矢が立ったのだ――
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