第16話:憔悴する友
やっとの思いで口を開いた有弥から聞かされたのは。
「……彼女に、振られた」
「……まじかよ……。あんなに仲良かったのに、急にどうしたんだ?」
万真はただただ驚いている。
「次空き講だろ? その時に詳しく話すわ」
「……いいのか? 俺が聞いても?」
「ああ」
1限目が終わると、万真と有弥は静まり返る食堂に場所を移す。
「……これを見てくれ」
有弥が見せたのは、彼女とのLINEのやり取りだった。
『有弥、今日どうしても貴方に言わないといけないことがあります。この5年間、一緒にいられて楽しかった。楽しかったのに……私は、貴方を裏切ることをしてしまいました』
「裏切るって……そんな冗談はよせよ」
『冗談なんかじゃない。私は会社の同期の男の人に告られてしまった。彼氏いるからって言って断ったんだよ。その人は最初は分かってくれたんだけど、諦めきれなかったのか……2か月ぐらい前の週末、突然呼び出された』
「その時バイトじゃなければ……。どこに連れていかれたんだ?」
『どこかと思えば……ホテルだった。そのまま、私――身体を許してしまった。それがその証拠です』
有弥の彼女のこのLINEの言葉の下には……。
「……そんなことあんのかよ……」
万真は絶句するしかない。これが何よりの証拠なのだ。小さいながらも映る胎児のエコー写真が一緒に送られていた。
有弥の彼女とのLINEは続いている。
『同期の男の人は、ここ数日前にやっと認知してくれた。責任取るって言ってくれた。どこかの機会で有弥に会って謝りたいって言ってるけど、どうする?』
「分かった。今度の週末バイト休んで時間取るから、それでいいか?」
『ありがとう。これで会うのも、最後になるね……。本当に、ごめんなさい』
浮気を通り過ぎ、他の男との不適切な関係へ及んでしまっただなんて、想像もできないだろう。
「彼女さんと最後に会ったのはいつ?」
「6月の中旬かな。その時はもう既に、男と関係を持っていたってことだよなぁ……。具合悪そうには見えなかったんだよな」
LINEを見せ終え、有弥は憔悴していた。
「……有弥は何も悪くない。抵抗できなかった彼女さんも悪気があるようには思えない。手を出した男が全部悪いんだ。その場にいたら、俺――ぶん殴ってるわ……」
「万真。気持ちは分かるけどさ。彼女とは最初、高校生同士で割と時間は合ってた。大学生と社会人――立場が変わったことで、なかなか時間が合わなくなってた。それを言い訳にして、お互いこまめに連絡を取ろうとしなかったから、こんなことが起きてしまったんだ。ここまで何事もなかったのが奇跡なぐらい」
時刻は正午前。メニューの受付が始まり、ぼちぼちと学生が注文し始めている。
「有弥、事が落ち着いたら気晴らしに遊ばね? まあ、夏休み入ってからかな」
「そうだな。話聞いてくれてありがとう。少し気が楽になったわ」
2限目が終わり、翔太が食堂にやってきた。
「あっ、兄さんと有弥さん。もう来ていたんですね」
「お、おう。お疲れさん翔太。さっき万真にも話したんだけど、実は彼女と別れたんだ」
「……えっ? だ、大丈夫ですか? 急すぎません?」
翔太もこの報告に驚く。
「まじで急だよな。俺もびっくり。で、夏休み入ってから一緒に遊ばねって話をしてたところなんだ」
「ほうほう。って、俺も混ぜてくださいよぉー!」
「ははは、翔太って本当に万真兄さんに懐くよなー」
「それ、褒めてます?」
数十分前の憔悴っぷりが嘘かのように、有弥に笑顔が戻っていた。
☆☆☆
考査が終わり、8月のお盆前。翔太も混ざり、3人で出かけることに。行き先は駅前のカラオケ店。万真には、どこか見覚えがあるようだ。
「兄さん、どうしました? ぼーっとしちゃって」
「い、いや何でもない」
――変わったんだと思ってた。
万真の脳内に、不意に美玖の言葉が突き刺さってくる。
「受付終わったぞー」
有弥の呼びかけで、案内された一室へ入る。
3人それぞれ1曲ずつ歌い終わったところで。
「翔太すまんが、ちょっと万真借りるわ」
「は、はい……」
きょとんとする翔太を置いて、有弥は万真を呼び、一旦部屋を出る。
「万真? 今日ずっとぼーっとしてるけど、どうした?」
「い、いや何でも――って訳じゃないんだけど、前来たのが、御園さんと遊んだ時だったから、どこか見覚えあるんだよなって思っただけさ」
「……そうだったのか。今回はお前に助けられたもんだから、今度はお前の力になってやりたい」
はて? と首を傾げる万真を前に有弥は。
「今まで姉貴で頭いっぱいだったからか、御園さんみたいな他の女には興味ないように見られたんだろ? 何となく、そんな気がするんだ」
「そう、かも……しれない。今度は俺が、詳しく話す番だな」
誰にも語られなかった、万真と美玖の衝突。約半年がたちようやく、万真によって解禁される――
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