第14話:ぶつかり合った末……
万真が美玖に対して『話がある』というのは、伶花は万真との事前の打ち合わせでは聞いていたが、美玖に対しては伝えていなかった。これは友としての配慮なのか、それとも万真の味方なのか――どちらとも言えなかった。
「私はあの時から、気持ちは変わってなんかいない。だけど、野木くんが私のことどう思っているか、この半年、1度も聞いたことなかった。ただ、私のペースに合わせてくれてただけなんじゃないのかなって……」
「合わせてたのは認める。だがそろそろ、俺の気持ちも聞いてほしいと思ってたところなんだよ」
いつまでも美玖に振り回されるわけにいかないというのが、万真の今後の方針だった。
「野木くんの、気持ち……?」
「そうだ」
「……私は……私はっ! 野木君のこともっと知りたい。あと1年の付き合いになるから……。私のことどう思ってるの? 今まで教えてくれなかったのに、何で今更?」
「……ほんっとうに今更だよなぁ。俺――どう頑張っても、御園さんのこと1人の女性として見れないんだ。いきなり話しかけられて、いきなり遊びに誘われて……最初は楽しかったけど、部活の後輩に『ひどく疲れてません?』って言われたことでやっと、俺は振り回されていただけなんじゃないかってやっと気づいたんだ」
「……だったらどうしたいわけ?」
「出会った頃から変わらずに。同じゼミの1人としてこれまでも、これからも仲良く――」
美玖が期待するような言葉は、万真の口からもう聞けない。いくら粘っても。
「1人の女性として見れるのは――お姉さんしかいないってことだよね?」
「い、いやそんなことは――」
「そんなことある!! 手を出さなくなったとは言えど、お姉さんへの想いは変わってないでしょ!? 断ち切れないんでしょ!? 変わったんだと思ってた。信じてた。……でも、違ったんだね。期待した私がバカだった。振り向く気がないなら、もういい。どうせこれからもシスコンのまんまなんだから……!!」
美玖は悲しみと怒りを吐き捨て、泣きながら走り去っていった。
「ちょっと美玖、言い過ぎだっ――」
話に割り込もうとした伶花の制止も効かなかった。
何とも言えない空気の中でこの日の日程が終わってしまった。伶花が頭を抱えながら万真に打ち明ける。
「……実は、私も同じでした。入学して初めてのゼミで隣に座ったのが美玖でした。いきなり話しかけられたのも、遊びに誘われたのも、万真さんの時と同じです。あの子の性格にも問題があったんです。あの子は今まで、友達がいなかった。そう言ったのを聞いたのが忘れられず――私から『友達になろう』って言ったんです」
「そうだったんですか……」
「万真さんは何も悪くありません。私だったらあんなこと言い出せないと思います。よく言ってくれましたね。美玖にとっては『友達になろう』って言われたのが、未だに信じられないんでしょう。そんな気がします。万真さんの本音を聞いてたなんて言ったら、私……友達失格ですね」
「そうかもしれませんが、これで俺は御園さんにもう相手にされません。だから、河西さん。御園さんを1人にさせないで下さい。それこそ友達としての役目なんじゃないですか?」
「……はい。最善を尽くします」
翌日、部活にて昨日のことを報告した万真。これで後輩たちを安心させたところで、新年度に向け、新入生勧誘の準備が始まっていく。
――万真さんは何も悪くありません。
昨日の伶花の言葉。万真はその通りだと言い聞かせている。自分に片想いしてくれていた美玖を傷つけてしまったとは、思っていなかった――
☆☆☆
3月になり、今年も卒業式がやってきてしまった。去年のこの日、弟の目の前で涙していた姉・万葉。この日は飛びきりの笑顔だ。万真はまず弟として、卒業証書を持つ姉と一緒に記念写真を撮った。そして写真部の部長として、感謝とエールの言葉を送った。
「この1年で、万真は見違えるほどに変わったと思う。大人になった。だから、自信を持ってこの写真部を盛り上げていってね!」
帰り際、姉はそう言うも。
(俺、本当に変わったのかな――?)
自分は何も悪くないと分かっていても、美玖から『変わってない』と突きつけられていた。果たしてどっちなのか。姉がそう思うなら、万真自身『変わったんだ』と無理矢理思うことにしたのだった。
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