第13話:これが俺の本音だ
春休みに突入してから、万真は美玖と水族館デートとやらという伶花のお願いを実行する日がやってきた。伶花の突然の訪問があってから、美玖との関係性について見つめ直すようになった万真。
(ゼミ仲間の1人なんて言ったが、その割には親密過ぎる気もするぞ……?)
となると、友達になるのか。だが万真は自分からそれを望んだようには思っていない。美玖の思うがままになっているだけだ。だんだん疲れてきていた自分がいる。自分では気づかなかったが、翔太からの心配や伶花の襲来があったおかげで、ある意味助かったのである。
(何て言うべきか全然分からねぇ。有弥に相談すればよかったなぁー)
有弥は春休み中アルバイトで忙しく、相談の機会は作れなかった。とぼとぼと歩きながら、万真は美玖と伶花が待つ水族館へ向かった。本来ならばこの日は部活だったが取り止めにし、翌日にずらした。
歩くこと10分ほど。目的地である水族館『アクアスターズ』に着いた。既に美玖と伶花が来ていた。
「おはよー野木くんっ!」
「おはようございます、万真さん。今日はよろしくお願いします」
元気に手を振る美玖と、礼儀正しく会釈する伶花。伶花は万真の本音を聞いているが、美玖は何も聞いていない。自分が好きな男とまたデートができるからって、浮かれているに過ぎない。
(俺はどうしたいのか? ただそれだけだ。それを言う機会を貰えたんだ)
多少緊張した面持ちで、デートに臨んだ万真。
美玖に変に思われないように、万真は平然を装っていた。伶花は事前の打ち合わせでそれを知っており、万真は安心して事を進めることができた。予想できないのは、美玖の反応だけだ。
「ここの大きい水槽の前でツーショット、撮らせてもらってもいいですか?」
背後からメモを取りながら万真と美玖の様子を見守っていた伶花が、声をかけてくる。
「あ、はい。いいですよー」
「伶花、ばっちり決めてねー!」
どこにでもいるようなカップルのような、ツーショットが撮れた。
「……よし。万真さんとは違って本職ではありませんが、綺麗に撮れたと思います!」
2人にグーサインを送る伶花。被写体じゃないのに、どこか楽しそうだ。
アクアスターズ内を1周し、併設されている食堂で昼食の時間を取る。今まで平然を装ってきた万真の表情が曇る。
(どうしたら悲しまなくて済むかな……? 確かにこの1年間、同じゼミで過ごしてきた御園さんは悪い人じゃないのは分かってる。俺、他所の女の人の考え方が分からない。隣を歩く人が姉ちゃんだったら、そんな難しいこと考えないで済んだのに)
今頃、卒業旅行に向け準備に追われる姉の顔が思いっきり浮かんできてしまった。いけないと頭を振るも、その視線の先にいた美玖に見られてしまった。
「どうした野木くん?」
きょとんした美玖を見て、青ざめる万真。
(ど、どうしようね……? 怪しまれたか……?)
美玖の後ろから現れた伶花にも見られてしまう。
「どうしました万真さん?」
「ななな、何でもないです。さ、さて飯も揃ったことだし、食べましょう」
このまま何事もなく昼食タイムが終了。この後イルカショーが控えている。ショーが終わると最後に売店に寄り、解散となっている。
いつも通りでいようと思うと、ますます顔がこわばってくる万真。それでも美玖に怪しまれないためにも、心の底からイルカショーを楽しんでいた。
ショーが終わり、売店に寄る。お菓子やぬいぐるみが数多く並んでいる。美玖と伶花の女子組はぬいぐるみの可愛さに見とれている中、万真はため息をついていた。
(ああ見えても河西さんは俺の本音を知ってるんだ。別に難しいことなんかじゃないのに――)
何が原因で
(明日部活で報告しなきゃならないんだ。ここに来た感想も――御園さんとのことも)
美玖と伶花が出てきた。間もなく解散だ。
(しっかりしろ俺。写真部の部長を姉ちゃんから託されたんだ)
「……美玖! 万真さんから話があるみたいだよ!」
先に伶花が美玖に声をかける。
「うん、分かった。……どうしたの、野木くん」
伶花が数歩下がり、心配そうに見守る中。
「御園さん。今日はありがとう。話があるのは事実だ。これが俺の本音なんだ。しっかり聞いてほしい」
「……そうなんだ。私、野木くんに聞きたいことがあるんだけど……」
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