第10話:対立

 店番が終わり、美玖と別れブースに向かう万真のもとに、新聞部の女子部員が大慌てでやってくる。


「万真さんっ!」


「ど、どうしたんだ?」


「お、お姉さんが……は、早く来てくださいっ!」


 万真が彼女と足早に向かった先に見えたのは、受付で睨み合っている万葉と蒼依だった。


(う、嘘だろ? さっきの人が何でここに? で、何で姉ちゃんとこんなことになってんの?)


万真は愕然としていた。


「今更何しに来たの? もう場所なんてないわよ!?」


「通りすがりなだけに決まってるじゃない。4年が万葉1人。部長になっちゃって」


って――そんな言い方ないじゃない! 突然いなくなったあんたに言われたくない!」


「あらそう。だったら副部長は3年の子がなってる……って、君はさっきの?」


先に万真に気づいたのは蒼依だった。


「あ、はい。って……貴方はとどんな関係なんですか?」


「……まさか、さっき会ったのが万葉の弟だとは。よく見たら双子みたいに似てるよね」


「よく言われますよ。その……言いにくいんですけど、今俺が副部長ですよ?」


 やっと怒りが収まった万葉がようやく口を開く。


「万真、今まで黙っててごめん。話したくないだろうなって気遣ってくれてたけど……。私と一緒に写真部に入部したのが、この人。山田蒼依さんなの」


「そうだったのか……。というか、姉ちゃんは何も悪くないよ。ただ――周りの人たちが心配そうにこっちを見てるぞ?」


万真を呼んだ女子部員をはじめ、多くのお客さんが心配そうに3人を見ている。


「えっと……場所変えない? 食堂なら誰もいないし、お互いに言いたいこと吐けばいいんじゃないか? 俺が間に入るから――」


「万真? 私の次、受付でしょ? 誰もいないわけには――」


女子部員が姉弟の会話に割って入る。


「あのっ! 私が何とかしますから。万真さんの次立花たちばなくんでしたよね? 可能なら早めに来れないか連絡しますよ? 実は……同じゼミなので」


「申し訳ない。翔太には後で事情説明するから、そう伝えておいてくれないか?」


「はいっ! お任せください!」


女子部員に見送られ、万真は姉と蒼依の3人で食堂へ移動することになった。


 場所を食堂に変え、先に万真が口を開く。


「途中からしか話聞いてないですけど……俺も、姉ちゃんが部長になったって言い方は、ないと思います。だったら俺はどうなるんですか? 蒼依さんがもしそのまま部活にいたら、俺は今副部長になんてなってないですよ? だから、って言い方は気に食いません!」


「そこまで言うなら……失礼したわね。万葉も」


野木姉弟の顔を見ながら、蒼依は反省の言葉を述べた。


「蒼依。退部してから今まで、一体何してたの? 全く顔合わせなくなっちゃって」


 退部から3年、謎に包まれていた蒼依の大学生活。


「ずっと帰宅部だった。ゼミとか講義は仕方ないけどさぁ、何だかのが怖くなっちゃって。だから、毎日ひっそり講義受けて、単位取って。ここまで来た。早めに就活のために動いて、内定取ったばかり」


「……やっぱり、怖くなったのか」


(……何のこと? 男と関わるのが怖い?)


『間に入る』と宣言した張本人の万真だけ、話についていけない。それもあるが、1番気になることがあった。


「あの、蒼依さん?」


「はい?」


「蒼依さんは、姉ちゃんに恨みでもあったんですか?」


万真の問いに、蒼依は迷いなく答える。


「いや。万葉に恨みなんてないよ。私がいた頃の写真部のメンバーは、もう万葉しかいないから。私が突然いなくなったことに、ずっとよく思ってなかったのよ」


蒼依の答えは否定だった。


「そうだったんですか……。なら、恨みは誰にあったんですか?」


「……湊斗みなと先輩でしょ? 多分」


(……何で? 何で湊斗先輩が関わってくる?)


姉の言葉に、またしても万真は愕然とする。


「そう、だね……」


蒼依は言葉を詰まらせながら、万真の方を向く。


「万真くん。お世話になった先輩のことを悪く言うつもりはない。だけど私は――湊斗先輩のせいでただ、居づらくなっただけなの」


「……姉ちゃんも、知ってたの?」


姉にも問いかける万真。


れん先輩から何となくしか聞いてない。だけど、そんな空気はあったのは間違いなかった」


 万真が受験生だった頃、青城大学の写真部に何があったのか。万葉と蒼依の2人から語られることとなる――

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