第3章:姉と蒼依
第9話:大学祭、開幕
10月に入り、大学祭がやってきた。新聞部と写真部の合同企画で作った記事が完成。『いいものができた』と柏部長は鼻が高い。万真たちは新聞部の部員たちと談笑しながら、ブースの準備を進めていた。
「それでは、今日と明日の2日間よろしくお願いします!」
柏部長の挨拶で一旦解散となる。万真はゼミ室に戻ると、そこには美玖の姿があった。
「野木くん、清水くんなら先に外に行ったよー」
「ああ、教えてくれてありがとう」
海野ゼミの模擬店の場所は、去年に続き外だ。やっと暑さが和らいだ中、偶然にも1日目の店番を1時間、一緒にすることになった2人。
「店番終わったらすぐ部活の方行くから、バタバタするかもしれん」
「そうなんだね。頑張れ、副部長さん」
先週末、再び2人で会い食事をすると思っていたのだが、駅前のカラオケ店に行く羽目になった。美玖のいきなりの予定変更に振り回された万真だったが、何だかんだで充実した休日になった。姉と仲直りできたのは美玖のおかげである。そのご恩もあってか、女友達というよりかは、ゼミの仲間の1人として――こうして恩返しをしているのである。
――美玖としては、好きな人とのデートになっているかもしれないが。
朝10時になり、大学祭1日目の幕が開いた。万真と美玖の店番は、14時~15時の1時間だ。万真はそれまで自由時間。実行委員の仕事もある翔太は合間を縫って、万真と昼食を取った。
「実行委員の仕事、どうだ?」
「大変ですよ。部活のブースの受付もあるからって理由つけて、あと2時間ぐらいは何とかフリーになりましたけど……。明日もそんな感じです。全く……有弥さんがお気楽で羨ましいです」
「それは言えてる。有弥のやつ、彼女連れてくるって言ってたし」
「さっき会いましたよ。手繋いで散策してましたよー。あーあ、俺もあんな可愛らしい彼女が欲しいです。兄さんはどうなんですか?」
(どう……って言われても、俺も何もないんだよなぁ)
そう思いながらも万真は、
「俺も何もないよ。さて、そろそろゼミの店番の時間だ」
「俺もそろそろ戻らないとです。兄さん、変わりましたね」
満面の笑みを浮かべ、翔太と別れる万真。弟からの『変わりましたね』という言葉は、何より嬉しかった。
前の人と交代し、万真は美玖と1時間、2人で店番をすることになる。
「今日、いい天気でよかったな」
先に口を開いたのは万真。
「そうだねー。やっと秋って感じしてきたね――あっ、いらっしゃいませー!」
ゼミの出し物はみたらし団子だ。あんこや醤油、ごまの3種類から選べるようになっている。秋っぽいからって、ゼミメンバーの1人のその意見が採用になっただけなのだが。交代して間もなく、お客さんがやってくる。
「醤油1つください」
「「かしこまりましたー!」」
お昼時が過ぎようとしているこの時間帯、体育館でのイベントに人が集まっている。だからか、比較的人出は
「観に行きたかったなー。有志のやつ」
「私これ終わったら、行ってこようかなー」
と、万真と美玖は退屈そうな会話を交わしていた。
疎らのわりにはぼちぼちと模擬店に人がやってくる。交代まであと20分ぐらいになったところで、女子大学生と
「あんこ1つください」
この女性の正体は、教養学部4年の
蒼依が去った後、周りの様子を気にする美玖。
「どうした、きょろきょろして? 他んとこもそんなに来てないだろ?」
「そうだけどね――」
そう言いながら、そっと万真の手を握る美玖。
「……交代まで、こうしてていい?」
「あ、ああ。いいけど……」
万真は何がしたいのだろうと思いつつも、座りながら美玖と恋人つなぎを地味にやっていた。彼女の手は、ほんのり温かった。
同じ頃、新聞部と写真部の合同ブースで受付をしていた万葉。こちらも何かとはかどっている。そんな中、万葉の前に現れたのは。
「……久しぶりね、万葉」
ついさっき、海野ゼミのみたらし団子のあんこを買って食べていた、蒼依だった。
「……は、はあ。今更どうしたんですか? 蒼依」
お互いに望まない、約3年ぶりの再会。ここまで和やかなはずの空気が一変してしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます