第8話:告白の受け止め

 美玖が帰ってからも呆然と立ち尽くす万真。そんな彼を迎えに来たのは、姉・万葉だった。


「どうした万真? 部活は終わったんでしょ?」


「あ、ああ。終わったけど」


どうにも落ち着かない声しか出ない。


(姉ちゃん……俺、どうしたらいいんだ?)


まだ戸惑いが隠せない。美玖のことはそこまでよく知らない。だから、嬉しいとは言いがたい。


「なら、いいけど。立ちんぼしてたから何かやらかしたのかと思ったよ」


「何もやらかしてねーよ。来週の取材のやつ、ばっちり説明したからな! 姉ちゃん、何も心配いらねぇから」


弟の様子を心配した姉と、姉の分まで役目を果たした弟。姉のためならなんだってやる精神の万真に、笑顔が戻ってきた。


 そして翌週、新聞部との合同取材が無事終了。新聞部の柏部長を『やるな』という顔にさせた。写真部の副部長として、万真の影の努力が実った1日になった。


☆☆☆


 夏休みが終わり、考査の結果が次々と判明してくる頃だ。


(今日ゼミかぁ。いつものように御園さん、隣に座ってくるだろうなぁ)


あのことがあってから、美玖とは初めて顔を合わせる。思わず溜め息が出る万真。昼休み、食堂にて浮かない顔をしつつも、有弥と向かい合わせに席につく。


「どうしたんじゃ万真? 今日ずっと暗い顔してるぞ?」


 翔太は大学祭の実行委員会に参加するため、この日の昼休みは不在。翔太がいる時でもよかったのだが、あいにくこの日はゼミでもう手遅れだ。


「それがなー……。夏休みの時のことだ。有弥が彼女さんとデートした日や」


「あー、あの時か。姉貴が就活でいなかった時」


「そう。部活終わって帰ろうとしたら、ばったり御園さんと会って。はぁ……どんな顔して会えばいいものか……」


「まあ、あっちも部活かサークル入ってるだろうから、大学来ることはあるだろうし。……ん? ? それにしても、偶然が過ぎないか?」


有弥が美玖の行動に疑問を抱く。


「俺には何とも言えないが。俺に『会いたかった』って。しまいには――告白、された。最後に、その……キス、された」


「うわーそう来たかぁ。そりゃあ顔合わせるのも気まずくなるわ。この後ゼミだし。あの方も何考えてるか、分からんな」


「全くその通り。どうやら俺のこと、ずっと後ろから見てたそうだ。御園さんが」


「なるほどなぁ。さて、そろそろ行かないとだな」


ゆっくり立ち上がり、食器を戻す万真と有弥。ゼミではいつも通りにするしか、今の万真にはできない。


 ゼミ室に着くと、先に美玖が来ていた。いつもの席に座っている。


「あ、やっほー! 野木くんに清水くん」


挨拶する美玖はいつも通りで、逆に気味が悪い。今日も暑いのに、万真だけ一瞬、悪寒がした。


「おう、やっほー」


「やっほー」


万真と有弥は適当に返し、いつもの席に座る。


は、本気だったのかなぁ)


姉以外に好意を寄せたことがない万真にとって、美玖からの告白をどう受け止めるべきか分からなかった。だから、美玖のことを知ろうともしなかった。


――告白された時のは、どこに行ったのだろう。


 ゼミナールが終わり、足早に帰っていく美玖だったが、その表情はどこか幸せそうだ。


「ま、そういうことだろ」


有弥は何か察したようだ。


「何が?」


「会えて嬉しかったんじゃないか? 多分な」


万真は首を傾げたが、気持ちを切り替え部活へと向かっていく。その道中で、帰ったはずの美玖が追いかけてくる。


「野木くんっ!」


「ん? どうした御園さん?」


「大学祭の準備で忙しいのは分かるんだけど……近いうちにまた、一緒に食事したいな、なんて……」


「えっと……友達とかじゃなくていいのか?」


万真が思わず出してしまった言葉に、美玖が返事に困ってしまう。しまったと思い、発言を何とか撤回しようとし、出した答えは。


「うーん……週末空いてるから、それでどう?」


その答えを聞き、美玖は安堵する。


「……いいよっ! 予定空けとくから、それでよろしくっ!」


 美玖が帰り、再び部室へと向かう万真の本心は。


(友達と言えるような人がいないのかな。じゃあ俺が、御園さんのに応えていくしかないな。なかなかに、面白い子だ)


 この頃、大学祭の準備も大詰めだ。万真たちが所属する海野うみのゼミの模擬店出店の方は店番決めだけで他のことは終わっているが、写真部としては新聞部と協力しながらの記事作りが進んでいる。


 そんな中、部長の万葉のすぐ近くまで忍び込む者がいたのである――

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