第5話:続・暴走の末路

―万真&翔太サイド―




 万真と翔太は、青城大学から歩いて数分のところにあるカフェ『キサキ』に移動する。そのカフェは、青城大学の学生たちをはじめ様々な人が集まり、賑わっている。


「……まずは、翔太と那奈、仁奈に謝らないといけない」


「何故です? 兄さん何か悪いことした覚えはないですよ?」


「いや、ある。あの日の夜、ゆっくり休みたいからって俺は先に部屋に戻った。でもそれは、翔太たちに怪しまれないためのだった。本当は、姉ちゃんと話がしたかった」


「……でしょうね。俺も最初はそんな気はしてました。だけど、兄さんの言うことを信じて、那奈・仁奈と一緒にゲーセンで時間潰してきました」


 2人が注文したジュースがそれぞれ届き、一口お互い飲んでから。


「それで、姉さんとゆっくりお話しできたんですか?」


「ああ。だが――」


「だが?」


「姉ちゃんに、


「……え? はい?」


翔太は混乱し、言葉が出ない。


「先輩が卒業して、姉ちゃんはきっと寂しいんだろうと俺は思い込んでた。だから、押し倒してまで、俺は聞いたんだ。『本当は皆といないと寂しいのか? 俺だけじゃ力不足か?』って」


「お、押し倒して、までって……。兄さん、気持ちは分かりますけど、やり過ぎですよ!?」


「今思えば、やり過ぎてしまった。姉ちゃんに正面から向き合えなくなってしまった……。でもあの時は、無我夢中だった。姉ちゃんは違わないって――泣かせてしまったから、弟の俺が。なのに俺は、言ってしまった。姉ちゃんのことが1人の女として好きだと」


「姉さんへの告白が、本来の目的だったんですね……」


「『本気で言ってる?』って言われたよ」


「まあ、そりゃあそうですよね。姉弟ですもんね」


 万真が先に飲み干し、一息ついてから。


「遊びに思われたのが気に食わなかった俺は、身体で教えてやろうとした。それが――姉ちゃんへ捧ぐ、ファーストキスだった」


「え、えっ……兄さんが、姉さんに……」


翔太は想像してしまったのか、むせてしまう。


「ご、ごめん。変なこと言ってしまって。でも本気で姉ちゃんにぶつかった証なんだ。そして翔太。お前がLINE送ってきたおかげで、俺はやっと目が覚めたんだ」


「はい? 何でですか?」


「……を、俺はやりそうだったからよ。何が言いたいか分かるだろ?」


「……はい、分かりますけど? 遊び尽くしたから、兄さんにLINEして聞いただけなのに、意外な形で俺が止めに入っていたんですね? なら、どういたしましてです」


 万真は電車通いの翔太を見送るため、駅まで一緒に向かう。


「兄さん。姉さんと1日でも仲直りしてくれないと、俺たち後輩もしんどいので。って言っても時間はかかると思います。そういう時こそ、俺にいつでも相談してくださいね?」


「ああ。ありがとう。今日は付き合わせちゃって悪かったな。また明日なー」






 帰宅した万真宛に、有弥からLINEが来ていた。


『お前の姉貴と帰る前ばったり会って、色々話聞かせてもらったぞ! お前の気持ちは分からなくもないが、身内にあんなことしちゃダメだろ。姉貴めっちゃ困ってたぞ? 仲直りって言ったって時間はかかると思う。俺も協力するから、お前から何とかせい』


(有弥も聞いてしまったかぁ……)


先に夕食を食べ終わっている姉に声をかけることができず、黙々食べ始めた万真であった。


☆☆☆


 それから万真は姉へ謝罪の機会をつかもうとしたが、苦戦していた。あれから1か月がたち、6月の中旬に入ろうとしている。部活では2回に1回、姉は欠席している。翔太たちからますます心配の声が上がってくる。同じ空気を吸いたくないのだろうか。


(俺は本当に、取り返しのつかないのことをしたのか――?)


そんなことを考えていると、ゼミナールの日がやってきてしまった。美玖は変わらず万真の左隣に毎度座り続けている。


「万真、本当に大丈夫か? 昨日姉貴と会ったけど、はぐらかされてしまって。俺らの想像以上に、姉貴の心のダメージはでかかったんじゃないか?」


「ああ、そうだな……」


美玖が静かに2人の会話を聞いている。2人はそれに気づかぬまま、ゼミナールが始まる。


 ゼミナールが終わると、美玖が声をかけてくる。


「野木くん。野木くんがいいなら、近いうちにちょっと付き合ってもらえないかな?」


美玖の思惑はいかに――?

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