第4話:暴走の末路

 翌日、チェックアウト前の男子部屋。


「兄さん? 姉さんと急に何があったんですか? お互い冷たい目で見ていたような――」


朝食の時のぎこちない様子を見た翔太が心配そうに万真に訳を尋ねる。


「――、話したくない」


「そうですか……。那奈と仁奈も心配してましたよ? とりあえずLINEで『部長と副部長の前にご姉弟だから、お2人の問題。気にしないで!』って促しておきましたけど……」


昨夜、姉に対してやったことは正気だ。だが、翔太からLINEがあの時飛んでこなかったら――取り返しのつかない事態になっていたかもしれない。まだ、未遂で済んだのだ。


(翔太――ありがとう)


心の中で翔太へお礼をした万真のGWは、こうして幕を閉じたのである――


☆☆☆


 GWが終わり、暫くたったが万真の口から姉の話が全くない。


「最近、姉貴元気にしてるか? お前から何も言わないからどうしてんのか分からんのよ……。翔太、部活の合宿の時に一体何があったのか聞いてる?」


昼休み、万真は有弥と翔太の3人で食堂に来ている。異変を感じた有弥は万真に訳を探ろうとするが、万真本人は口を固く閉ざしたままだ。


「いやー……まじで急だったんで、正直俺も分からないんですよ。あんなに仲良かったのに、俺ら後輩たちがまるで別世界にいるような感覚になってしまって……」


「……俺は、姉ちゃんに避けられてる気がする。俺がしたことって、そんなにのか?」


やっと万真が口を開く。


「……何やったんですか?」


「……今日、翔太も4限までだろ? 一緒に帰るなら、話す」


「おーい、3限までの俺は仲間外れかぁー!?」


有弥のこの言葉に反応せず、万真は食器返却口へと足早に歩いていった。


 そして3限目が終了。有弥は先に帰ることになるが、経済学部の玄関前で万葉とばったり会う。


「おっと……万真の姉貴、お久しぶりです」


「有弥くん。本当だね、お久しぶりです。万真と一緒じゃないんだね?」


「はい、俺は3限までなんで。姉貴と全然会わないんで、どうしてんだろうなって思ってたところなんですよ?」


「それはね――外出て話そうか」


 その後4限目が終了。先に出てきた万真は翔太と待ち合わせし、帰り道。


「――で、姉さんと何があったんですか?」


「……あの日の夜、翔太たちと一旦別れてからの話になるな」


そして、万葉は有弥に。万真は翔太に。あの夜あったことを打ち明かす。






―万葉&有弥サイド―




「……万真が翔太、1年の双子ちゃんと離れてまで、私と2人きりになりたかったのは何でだろうって思ってたけど、別にただゆっくり話したかっただけなんだろうなって私は思ってた」


「ってことは、万真の目的はそうじゃ……なかったんですか……?」


「そうなの」


「あいつは一体、何やらかしたんですか?」


 万葉は1つため息をついてから、重い口を開く。


「……私を押し倒して、『本当は皆といないと寂しいのか? 俺だけじゃ力不足?』って、真剣な顔して聞いてきた。私は必死に否定したんだけど、違わないじゃんって。そしたら『こんな弟でごめん。これだけは言わせて。俺は姉ちゃんのことが好きだ――1人の女として』って言われた」


「うぅわ……本気で言ったんですか、あいつ……。姉貴のことが好きだって聞いてはいたけど、まさかそんなことになるとは俺、全く想定つきませんでした……」


「有弥くん、聞いてたの!? そこもびっくりなんだけど……終わらなかった」


え!? と言わんばかりの顔をする有弥を前に、万葉の話は続く。


「……キス、してきた」


「……まじで言ってます? 姉貴?」


「まじです。ファーストキスの相手が、まさか弟になるとは――」


「い、いやいやいや。何でそんな大事なものを、軽い気持ちであいつは奪ったんでしょう? 本人としてはそんなつもりじゃなかったのは、友達の俺でも分かりますけど。もしかしたら万真も、姉貴かもしれませんよ?」


「あー、嫌な悪寒がする……」


 この日は暖かい。だが、万葉が嫌な悪寒を訴えるぐらいだから、相当怖かったんだろうなと有弥は察していた。


「大丈夫ですか? 温かいものでも飲みに行きます?」


「うん、そうしようかしら。それと――」


「それと?」


「万真はしたのに、私から逃げた。反省してるかもしれないけど、近寄りがたいのかなぁ」


「姉貴、めちゃくちゃ怒ってるわけじゃないんですか?」


「まあ、怒ってるけど。万真には内緒ね。いつも通り接してあげて」


「分かりました、そうしときます」


最寄りのコンビニで、温かいコーヒーを買うことにすることにした万葉と有弥であった。




――――――




※次回第5話にて万真&翔太サイドをお送りいたします。

 その後また、時は進んでゆきます。

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