第3話:姉弟ではいられない?

 その発表に喜ぶのは那奈と仁奈だけだ。万真と翔太は呆然とするが、先に口を開いたのは翔太だ。


「姉さん。去年俺が入った時もそんな話出てましたよね? だけど、女性陣が姉さん1人だからって先輩方が逆に気を遣う羽目になって、取り止めになったはず……」


「そうよ。男女別にお部屋分かれるからね。だけどね、そんな私も今年で最後なのよ。できることは、やっておきたくて。空き講のうちに場所は抑えておいたから安心しといて」


「安心しといて――って、兄さんも何も知らなかったご様子で……?」


「うん、何も聞いておらん。姉ちゃんが勝手にやってくれたことだし――」


万真は平然とそう反応したが、その表情は何か企んでいるようにも見えた。


☆☆☆


 5月に突入。GWでなかなか宿の予約がしづらいというのに、よくできたなと姉に感心しながら、親睦会に臨むことになった万真。小さい部活なのだから、ただの歓迎会で済めばよかったものを。そんなことを思っているうちに自由時間になる。


 先に入浴を済ませ、夕食でバイキングを楽しむ一同。本心を打ち明けた翔太や有弥に何も相談せずここまで来てしまった万真は急に緊張に襲われる。


(なかなか2人になるチャンスなかったから、今晩こそは――)


 万葉は先に寝室部屋に戻っている。前を歩く翔太と那奈、仁奈に声をかける。


「あ、あのさ。3人とも申し訳ないんだけど――」


「はい?」


「どうしたんですか?」


姉と話がある、となんて言いにくい。だが、ここで引き下がってしまえばまたしてもチャンスが奪われる。どうしたのかという後輩たちの視線が痛い。


「……俺先に部屋に戻るからさ、3人で適当に時間潰してくれないか? 久々の長旅、疲れちゃってさー」


「分かりました。ゆっくり寝ててくださいね? まあ、俺が起こしますけど。じゃあ那奈、仁奈。行こうか」


何とかその場を乗り越えた。万真はエレベーターに乗り、姉のもとへ向かう。


 部屋にいる姉は、すぐに出てきた。


「万真、翔太たちと一緒じゃなかったの?」


「うん。ゆっくり休もうかって思って」


姉は何も疑いの目を持たない。


(そういう姉ちゃんは、1人きりになってどうしたかったんだよ?)


そう思いつつ、姉との距離を少しずつ詰めていく万真。


「姉ちゃん?」


「ん? どうした?」


「……先輩……蓮先輩のこと……まだ好き……なの?」


自分にを向けてくれないのは分かっていても、聞きたかった。でも心のどこかで、そんな姉を見てドキドキしたい、独占したいと思う自分がいた。


「……うん、そうだよ。万真も、?」


(どうして……見せてくるの……? 俺に向けたって――)


 無意識に体が動く。万真は自身の姉である万葉を押し倒していた。


「万真? どうした急に――」


「姉ちゃん。何でやろうだなんて言ったの? 本当は皆といないと寂しいのか?」


「ち、違うって――」


「違わないじゃん!」


姉の目には、涙が。


「弟の俺だけじゃ、力不足? 成人したばっかだけど、もう子供じゃないんだよ!」


「……」


姉は何も言い返せない。この空気なら、しれない。


「姉ちゃん。こんな弟でごめん。これだけは言わせて」


「?」


「……姉ちゃんのことが、好きだ。1人の女として」


「……本気で言ってる? それ?」


突然姉の表情が変わる。真剣そのものだ。


「本気じゃなきゃ、そんなこと言わねぇよ。遊びで言う訳ないだろう?」


姉を押し倒したまま、顎クイをする万真。


「俺が本気なこと、身体で教えてあげるよ」


顔を近づけると、姉が思わず目をつぶる。その隙を見て、その唇にキスをする。一瞬では終わらない。数秒間、唇を塞いでいた。


 万真が顔を離すと、困惑する姉が目の前にいた。


「……こんなの、いずれ現れるであろう……万真が本気で惚れた女の子にするもんじゃないの? 何でこんなことを?」


姉が怒り口調になっても、万真はお構いなし。


「俺は、周りの女に興味が持てない。、責任取ってもらえるかな?」


姉弟同士でキスをしてしまった時点で、もう姉弟ではいられないかもしれない。そんなことを知るよしもなく、これ以上の行為に及ぼうとする万真のスマホに翔太からLINEが飛んでくる。


『もしもし、兄さん? もうすぐ戻りますけど、まだ寝てますか?』


――まずい。


やっと目を覚ました万真は隣の男子用の部屋に逃げるように戻り、寝たふりをして翔太の戻りを待つことにしたのである。姉に対してやってしまったことを、一切謝ることなく。

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