第106話 海辺の休暇(3)

 俺と師匠は森に、ルリアーナは海へと向かった。手分けした方が、早く食材が集まるからね。


「それじゃあ、適当に狩っていきましょう」


 アンナがおいしい肉をご所望なので、当面は美味しい肉を主に探す予定だ。できればウシ型の魔物がいるといいな。ん?食べきれないだろって?いいんだ、余った分はマジックバックに入れて持って帰ればいいからね。

 この世界では、あまり畜産が発展していない。一つは、食肉は魔物の肉で補えるからだ。冒険者が人気のある職業だから、魔物の肉の供給が止まることは基本無い。卵とかも採取できるしね。なんならそのための任務もあるくらいだし。

 もう一つは魔物の肉がおいしいからだ。魔物同士ですら弱肉強食がある世界、そこに人の手が加わった厳しい環境の中で生活している魔物たちの肉は、優しい環境で育った洋食の魔物とは一線を画すレベルで美味しさが違う。

 ただまあ、乳製品は高級品として扱われる。あれだけは基本養殖でしか手に入らないからね。

 森に入ってから数分、初めに俺達と出会ったのは、フォエラフィという鹿の魔物だ。


「あんまり傷つけないように仕留めてね」

「任せて」


 一撃で仕留めるのは今までずっとやってきたことだ。今までは風の刃で首をはねていたが、今回わ別の趣向でやってみよう。用いる魔法は相変わらず風だが、その形を刃ではなく小さな弾丸の形に圧縮する。そしてそれをフォエラフィの眉間めがけて勢いよく弾き出すのだ。

 弾かれた風の弾丸はフォエラフィの眉間を貫き、脳細胞を破壊して貫通した。結果、獲物は力を失い地面に倒れこんだ。


「まずは一匹」


 今回、なぜこんな仕留め方をしたのかというと、あまり血を流したくなかったからだ。血を流せば、それだけ匂いにつられて多くの魔物が寄ってくる。他の場所ならまだしも、手つかずの場所ならその量は想定を遥かに凌駕してくる可能性が高い。

 本来なら、これで帰ってもいいけど……。


「この肉だけじゃ飽きるよね」


 というわけで、あと何種類か狩ることにした。しばらくは歩いて探していたが、出会った時に戦闘を避けられないという理由から空を跳んで探していた。結果、三十分ほどかけて、ミノロスという牛のような魔物と、ブルボアという猪のような魔物を狩ることができた。

 師匠曰く、ブルボアの肉がおいしいらしい。


「あれよ。私たちがアンベルクで再会したときに食べてたやつよ」


 ああ、あの時角煮で食べてたやつか。あれ、横から見ててすごくおいしそうだったんだよね。


「それじゃあ、そろそろ帰るわよ」


 浜辺に帰ると、すでにルリアーナは海から帰ってきており、アンナはバーベキューの準備を終えて待っていた。


「おかえり、なに狩ってきたの」


 行く前と比べて幾分か元気そうなアンナが聞いてきたので、俺は狩ってきた三匹を目の前に並べた。


「おお~」

「これってもう血抜きとかしたの?」


 あ、忘れてた。


「じゃあ、私がしてくるよ。近くに川があるし」


 アンナがそう言ってくれたので、血抜きは彼女に任せることに。とはいえ、この量を運べるのは俺だけなので、俺もついて行くことになるのだが。

 川について、アンナに魔物とナイフを渡すと、流れるような手つきで処理を始める。

 首に切りこみを入れて、そこから全身の皮を丁寧に剝いでいく。その後、腹を開いて庁などの内臓を取り出し、そこを川の水を用いてしっかりと洗い流す。最後に、適当に部位ごとに切り分けると一匹目が終わる。これをあと二匹分こなす。

 アンナの手つきに見とれているといつの間にか全ての血抜きと解体が終わっていた。


「すごくきれいにこなすよね」

「昔、かなりやってたからね」


 そう言いながら、アンナは使い終わったナイフを渡してくる。受け取ったナイフをマジックバックに仕舞い、俺たちは師匠達のところに戻った。戻ると、網の横にルリアーナがとってきたであろう魚や貝などがずらーっと並んでいた。その横に、さっき切り分けた肉たちも並べていく。


「よし、じゃあ焼いていこう」


 網がかなり大きいから、結構な量を一度に焼くことができる。多くの肉や魚を並べて、焼けたものから食べていく。バーベキュー独特に匂いが、どんどん食欲を掻き立てていく。なんかもう目減に食べられるんじゃないかな。

 山のようにあった食材がみるみるうちに消えていった。やがて最後の一切れを食べきったときには、全員満腹となっていた。


 バーベキューの後は、各々好きなことをしていた。師匠は相変わらず泳いでいたし、ルリアーナは浜辺で寝てたし、アンナは軽く運動してたし。ちなみに俺は浮き輪みたいなものを魔法で作って海の上にぷかぷか浮かんでいた。

 準備をし始めてからだいぶたったからか、太陽はもう傾いている。あの食事は昼ご飯兼晩御飯だな。というか、あれ以上食べれる気がしない。しょうがいないと思う。ブルボアの肉がおいしすぎたんだから。

 ともあれ、夕日によって赤く染まっていく空を見上げなら少し思ったんだ。

 こんな日々がずっと続けばいいなって。


「カルラ―、みんなでお風呂に入るけどきますかー?」


 浜辺からアンナが声を掛けてくる。ああ、もうそんな時間か。


「今行くー!」


 俺は浮き輪を消し、海上を飛びながらアンナ達の方へと向かっていく。今日は最高の一日だった。来年も、また海に来れるといいな。

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