第107話 いざ、アイヘンヴァルデへ
夏の暑さももう過ぎ去り、だんだんと寒くなっていく時期となった今日、ギルド長から指定された日だった。
「ちゃんと約束通り来てくれたね」
「まあ、一応仕事ですから」
ヴェルトスさんと軽く挨拶を交わし、話は本題へと移っていく。
「とりあえず、今後の日程について説明するよ。今から君たちにはオリヴィアの『テレポート』でアイヘンヴァルデ王国の首都、ハルシュタインに向かってもらう。そこからは君たち三人で行動してもらう予定だ」
「師匠は?」
「君たちを送り届けた後にこっちに帰ってきてもらう。彼女には別の仕事があるしな」
一緒に来てた師匠が何やら不満そうにしているが、まあいつものことなので放っておこう。それにしても、全く知らないところで三人だけか。うまくやれるか心配だ。
「向こうに着いたら、向こうの職員がいるはずだから彼らの指示に従ってくれ。それとこれを渡しておく」
そう言ってヴェルトスさんは三つの腕輪を渡してくる。腕輪には青、赤、黄色の三食の宝石が埋め込まれており、それらを囲む輪が重なり合うような装飾がされていた。
「これを付けていれば、我が国の使節団として認められる。逆に、それを付けてなかったらただの不法入国者だから気をつけてな」
俺はヴェルトスさんから腕輪を受け取り、アンナとルリアーナにそれぞれ一個ずつ渡した。嵌めるには大きすぎてすぐ落ちてしまうんじゃないかと思ったが、着けると魔法の効果なのか、自分のサイズにぴったりと収まった。
「一応予定では三日となっているが長くなったり短くなったりするかもしれない。その間の宿泊先も向こうが用意してくれるから安心してくれ。すべてが終わり次第、カルラのテレポートでこっちに帰ってきて私に報告してくれればいい」
流れ自体は簡単なものだね。
「実は、あともう一人追加で行ってもらうんだけど……そろそろ来るかな」
「全く、なぜそんなに的確なんですか。……気持ち悪いですよ」
そう言いながら入ってきた人物は、恰幅のいいおじさんだった。
「フェリックスさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです、お三方。みなさん、その装備を愛用していただいてるようで何よりで」
この様子だと、フェリックスさんが追加の一人なのかな。
「フェリックスには君たちについて行ってもらって交渉を担当してもらおうと思っている」
「最初はあなたが行くって聞いてびっくりしましたよ。必ず不利な条件を突き出されるじゃないですか」
「ぐ……否定しがたい……」
商売人であるフェリックスさんと、冒険者ギルドのトップであるヴェルトスさんでは交渉のうまさには大きな違いがあるだろう。ただ、統率という面においてはヴェルトスさんに軍配が上がるだろうけど。何事も適材適所ってやつだ。
「つまり、私達の任務はフェリックスさんの護衛も入ってると?」
「そう言うことだ」
「信頼してますよ」
アンナの質問に帰ってきた答えは肯定だった。まあ、護衛と言っても特にすることはないだろうけど。形だけという扱いだろう。
「さて、全員そろったことだしそろそろ向かってもらおうか」
ヴェルトスさんがそう言うと、師匠は詠唱を始める。それと同時に、俺たちは師匠の下へ近寄る。
「動かないでね、『テレポート』」
師匠の言葉と同時に光包み込まれる。テレポートが完了し、光が晴れると、目の前にはハルシュタインへと続く大きな門が強い存在感を発していた。
どうやら街の外にテレポートした見たい。近くにいる衛兵に話しかけ、腕輪を見せるとすんなり入国することができた。見上げるほど大きな門をくぐりぬけると、やっとハルシュタインの街並みを見ることができた。
建築様式はアンベルクと似たようなものだが、石造りだったアンベルクとは違い、こちらはレンガを基調とした建物が多くみられた。あとは何といっても大きな城だろう。門から街に入って正面に白がそびえたっている。
「それじゃあ、私はそろそろ帰るわね」
「ちゃんと仕事をしてください」
「言われなくてもちゃんとするわよ……それじゃあ」
それだけ言い残して、師匠は目の前から消えた。帰ってもサボらないといいけど。
「私たちはあのお城に向かいましょうか」
フェリックスさんの言葉に従い、大通りを歩きながら城に向かう。この街の構造は単純で、正門から城までの大きな一本道とそこから派生する小さな道が続いていた。
しばらく歩いていると、その街並みに変化が現れた。
「なんか雰囲気が変わったね」
正門から入ってすぐは屋台や店などが数多く並んでいたのだが、ここまでくるとその景色が一変、高級そうな家ばかりが並ぶようになっていた。
「恐らく、この辺は貴族街なのでしょう。その証拠に、出歩いている人の服も高品質なものが多いですし」
言われてみると、通行人が良く宝飾品を身に着けている気がする。どこの国の首都も、真ん中に近づくと貴族街になるのだろうか。やがて、そんな貴族街も抜けて。
「大きわね」
見上げるほど大きな城の前まで来ていた。同じレンガで建築されているものの、今まで見てきた赤い物ではなく、白く塗っているようで多くの光を反射していた。赤い街並みの中にこの白い建築物……これも、この城の存在感を大きくしている要因なのだろうか。
「すいません、国王に用事があるのですが」
気が付くと、フェリックスさんが扉を警護していた衛兵に話しかけていた。
「令状等はあるのか」
「ええ、私たちはシルトヴェルトからの使者でして」
そう言ってフェリックスさんは俺たちの方を見てくる。腕輪を見せろ、ということだろう。俺たちは衛兵にヴェルトスさんにもらった腕輪を見せた。
「ふむ、確かに使者殿の様だ。中に入れ」
衛兵はそう言って、大きな扉を開けてくれた。
俺たちは衛兵に一言礼を言ってから城の中へと進んでいった。
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