第104話  海辺の休暇(1)

「海だー!」

 

 師匠の提案に乗り、俺たちは海に来ていた。


「それにしても、よくこんなところ見つけたね」

「数年前、カルラと一緒に来た場所なのよ」


 ルリアーナの素朴な疑問に師匠はそう答える。

 俺たちの目の前には、太陽の光を反射して輝いて見えるほどの白い砂浜と、透き通るような綺麗な海が広がっていた。こんなの、日本じゃ見られなかったな。

 さて、ここはどこなのか。俺達が普段活動しているシルトヴェルト共和国には、海なんてものが存在しない。だから、海産物が高いんだけど……その話はまた今度。とにかく、じゃあ、俺たちが今どこにいるのかというと、シルトヴェルト共和国から出て東に向かった先、今はもう空白地帯となってしまった場所にいる。他の国に勝手に入ると面倒なことになりそうだからね。その点、ここらは誰のものでもないから気楽に使える。


「でも、そんな場所なら、なんでどこの国も取らないの?」


 アンナの疑問は正常だ。国が滅んで空白となっているなら、なぜどこの国も占領しに来ないのか。その答えは単純、国が滅んだあとここら一帯は魔物の領域となってしまったからだ。


「過去にノヴァリスタン神聖帝国が開拓のために出兵したことがあったのよ」


 その結果は言うまでもないだろう。出兵は失敗し、部隊の九割は死亡、または行方不明となり、帰ってきたのは一割だった。その事件から、どこの国もこの地域に手を出すことはなかった。これだけ広大な魔物の領域を開拓しようという考えが間違いだったのだ。そんな地域のなか、この場所だけは奇跡的に魔物の領域から外れていた。


「そんな場所なら、国とかに言わなくていいの?」

「いいのいいの、どうせこんなところ普通の人は来れないんだから」

「いいんだ……」


 実際、師匠の言っていることは正しい。少し内陸に行けば魔物と会えるし、沖の方に出ても魔物と会える。唯一通れそうな空も、ここに来るまでの間に魔物がたくさんいる。実際数年前に師匠と来た時は移動中にワイバーンとかに襲われて大変だった。今回はテレポートだったから楽だったけれど。


「そんなこと良いから、早く着替えようよ!」


 ルリアーナが待ちきれないといった感じでそう声を掛けてくる。今俺たちは普段着のままだ。海で遊ぶんなら水着に着替えないといけない。あまりにも急な話だったし、内陸の国だから水着なんか用意できない、なんて思ってたら師匠がもうすでに買っていた。師匠曰く、いつでも海に行けるよう、前々から準備してたらしい。


「それもそうね。それじゃあ、水着はもう渡してあるから、各自で着替えること」

「「「はーい」」」


 俺たちは着替えるために、家の中に入った。ちなみにこの家は、師匠が遊びに来た時に困らないよう建てたものだ。その家で、俺たちは別々の部屋に分かれた着替えていた。理由は単純で、着替え終わるまで、みんなどんな水着なのか師匠が隠したからだ。着た姿でお披露目といった感じになっている。

 自分の服を脱いで、師匠から渡された袋を見てみる。中から出てきたのは、水色ビキニ型のトップスにミニスカ風のボトムスといったかわいらしい水着だった。なんだかんだ言って女物の水着を着るのは今回が始めてだ。前回来た時は水着なんかなかったから海に潜ったりしなかったし。

 手早く着替えて近くにあった姿見鏡で自分の姿を見てみる。


「おお」


 動くたびに髪とスカートが揺れて、我ながら結構可愛いんじゃないかなと思った。まるで自分が自分じゃないみたい。

 ともかく、着替え終わったため俺は部屋を出て、外に向かった。


「やっと来た!おそいよー!」


 外に出ると、すでに俺以外全員そろっていた。そして自分のことを可愛いと思ってしまったことを後悔した。

 まずルリアーナ。ピンク色のフリルの付いた可愛く、露出が多めの水着だ。ルリアーナの私服は割と露出多めなことが多いが、そこはやはり水着というべきか、普段よりも露出は多かった。

 次にアンナ。アンナは先程のルリアーナとは違い、白いワンピース型の水着だった。普段服で隠れている腕や脚が露出しており、日に焼けていない綺麗な肌が露わとなっている。水着が白いからか、彼女の黒髪が強調され、普段よりもきれいに見える。そんな肌を隠そうと身をよじっているのがなおさら可愛い。

 最後に師匠。この中の最年長ということで、大人の余裕というべきか、王道の黒いビキニだった。普段から主張の激しい大きな胸が水着によってより存在感を増しており、魔女と言っても差し支えないだろう。他の2人が可愛い水着なのに対して、彼女だけは美しいといった感想が出てきた。いったいこの人は何歳なのだろう。

 なにはともあれ師匠、ナイスセンスだ。


「カルラもかわいいじゃん!」


 みんながすごすぎて、自分にちょっぴり自信がなくなっていると、ルリアーナがそう言って励ましてくれた。もしかしたら、自分より他の人が良く見えてしまうのは人間の性なのかもしれない。

 ともかく、全員水着に着替えて外に出てきたのだ。となればやることは一つ!


「海に入るよ!」


 俺は皆と一緒に綺麗な海へと走って行った。

 この束の間の休暇はまだ始まったばかりだ。

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