第103話  使節団

「「「使節団?」」」


 俺を含めたいつものメンバーは冒険者ギルドの一室で驚きの声を上げる。この現状を説明にするには、少し時を遡る必要性がある。


 結局、シルフィが泣き止むまで抱きしめ続けていた俺の服はぐしょぐしょに濡れていた。まあ、今着てるのは普段着だから別にいいんだけどさ。とにかく、シルフィがかなりつらい思いをしてきたことが分かった。それと、「探究者シーカーズ」がかなり非人道的な組織だということも。

 ちなみに、シルフィは泣きつかれたのかそのまま眠ってしまった。俺が抱きしめていたことで、安心感が生まれたのもあるのかもだけど。


「協力、ありがとうございました」


 この服のままじゃ外を歩けないので、いったん家に帰ってから動こう、そう思って病室を去ろうとすると、ギルド職員の人に声を掛けられた。そう言えば、これって聞き取りだったんだよね。最後の方は忘れてたよ。


「あ、そう言えばギルド長がカルラさん達のこと呼んでましたよ」

「……またぁ?」


 あの人に呼ばれるときは、大体何かが起こったときだ。今回はあんまり面倒なことじゃないといいけど……。そんなことを思いながらいったん家に帰って着替え、冒険者ギルドへと向かった。

 それで現在へと至る。


「そう、君たちに使節団として他国に行ってもらいたくてね」


 ずいぶんと急な話だな。キメラを倒して帰ってきたと思ったら、次は別の国に行け?あまりにも忙しすぎる。


「いや、今すぐってわけじゃないんだ」


 面倒だなぁという俺の気持ちが伝わってしまったのか、ヴェルトスさんは慌てて訂正をする。


「そもそも、なんで使節団なんかが?国際会議まではまだ半年近くあるのに」


 そんなヴェルトスさんに師匠が質問する。

 実はこの世界、国際会議という物があるのだ。俺も最近知ったんだけど。現在、この世界には4つの国が存在する。今いるこの国、シルトヴェルト共和国を中心として、北にアイヘンヴァルデ王国、西にアイセリオン同盟、南にノヴァリスタン神聖帝国が存在する。ちなみに昔は東にも国があったらしいが、今滅んでしまっていて空白地帯となっている。そして毎年一回、すべての国の代表が集まり、平和を維持するための会議をするそうだ。……実際は自慢大会みたいなものになってることもあるらしいが。ちなみに主催国は毎年交代していって、今年はアイヘンヴァルデ王国であるらしい。

 そんな国際会議だが、師匠が言った通り開催まであと半年近くある。そもそも、国際会議のための使節団だったとして、俺が採用されるのはおかしい気もするけど。


「それが、一か月後に変更されたんだ」


 ……え?今なんて?


「一か月後に国際会議が行われるんだ」


 いや、二回言われても。……なんで?


「どうして急にそんなことが?」

「それが……『探究者シーカーズ』の件で」


 探究者シーカーズ。ラファイエットに協力している組織の名前なのは記憶に新しい。でもどうしてそれが?


「実は、君たちがラファイエットと出会う前から探究者シーカーズは存在していた。それで、ここ最近世界中で目撃情報が出ているんだ」


 ヴェルトスさん曰く、世界中に出没している探究者シーカーズは結構な被害を出しているらしい。アイセリオン同盟内の一つの都市が壊されるといったことも起こっているようだ。


「そんなときに、この国でも確認されたから、一度みんなで集まって対策を考えようという話になったんだ」


 それで国際会議が急遽行われるようになったわけね。これで一つ目の疑問は解決した。けど、もう一つ疑問がある。


「なんで私たちなの?」


 そう。本来使節団とは、国のお偉いさんたちがいくものなのだ。なんせ国の代表としていくのだから。なのに、師匠はともかく、俺達一介の冒険者がなぜ行くことになっているのだろうか。


「ああ、それなら簡単な話だよ。単純に、君たちが探究者シーカーズと出会っているからだ。実際に会っている人間の意見は貴重だからね」

「……そう、ね。ちなみに、この話って断ることは……」

「できないよ、国からの依頼だし。それに結構報酬も出ると思うけど」


 正直、お金にはあんまり困ってないんだよなぁ。けど断れないかぁ。面倒ごとが起こらないといいなぁ。


「わかったよ、引き受ける」

「そう言ってくれて助かるよ。とりあえず、出発まであと一か月近くあるから、それまでは好きにしてくれて構わない。当日は朝、このギルドに集合してくれ」


 とまあ、そんな感じで話はまとまり、俺たちの国際会議出席が決まった。


「出発まであと一か月、それまで何して過ごそうか」

「依頼とかやってもいいけどね~。実践的な訓練にもなるし」

「日々の訓練は欠かせないわね」


 各々が提案をしてくる。だが悲しいかな、全て訓練絡みだ。もっと遊ぶとかあるだろうに。……まあ、あんまりそうも言ってられないか。


「それにしても、大分暑くなってきたね」


 突然、ルリアーナがそう言いだす。実際、最近は暑い。日本でいうところの八月中旬ぐらいの時期だから、暑いのは不思議じゃないんだけど。


「そんな暑い中で毎日訓練してても疲れそうじゃない?そこで……」


 今まで黙っていた師匠が口を開く。


「みんなで海に行かない?」


 師匠は、そんな魅力的な提案をしたのだった。

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