第101話 少女に執着した訳(3)
それからというもの、俺は毎日のようにルルに魔法を教えていた。修行が終わった後だったから夕方に向かい、一時間ほど教えて帰る。そんなことを繰り返していたのだ。
ルルの魔法の才能は以外にもすごいものだった。一通り魔法が使えるほど、マナの総量の増加、コントロールの練習をしてから魔法を使わせてみたのだが、精度がものすごくいい。しかも、みるみる魔法を覚えていく。
それが面白く思えたので、数多くの魔法を覚えさせた。光を出す魔法や、水を出す魔法……とどれも生活に使うと便利のものばかりで、人に危害を加えられるような魔法ではないけど、一つだけ約束をして魔法を教えていた。
「絶対に人に迷惑をかけるような使い方はしないこと。特に人に向けて使ってはいけないよ」
これが、俺とルルの間でした約束だ。魔法を教えるということは、その後のことまでも責任を取らなければならないと思ってる。ちなみに、この約束を破ったらもう魔法は教えないし、魔法の力を奪うと脅しも入れている。さらに、ヨハンさん達にはしっかり監視しておくように言っている。ここまですれば、流石に迷惑をかけることはないだろう。
それからしばらく経ったある日、俺は師匠にルルの話をしていた。
「前に行商人の一家を助けたって言ったでしょ?」
「そう言えば言ってたわね。それがどうしたの?」
「あの一家の娘が魔法の才能を持ってたから今教えてるんだよね」
「……あなたが教えてるってこと?」
師匠はこちらを真っすぐ観て聞いてくる。俺はその質問に、首を縦に振った。
「言っておくけど、何かが起こったら」
「私が責任取らないといけない、でしょ。分かってるよ。ちゃんと対処もしてるし」
教えてる魔法は制限掛けてるからね。人を傷つけられない魔法ばかりだ。ルルが魔法を使えるのはあの一家しか知らないし。
「それよりね、本当にすごいんだよ。教えた魔法を片っ端からすぐ覚えて言っちゃうんだよね」
「それカルラが言う?」
「私は、まあ……。とにかく、あの子は将来名を馳せるだろうね」
冒険者になるかどうかは分からないけど。
「そこまで言うなら、私も見てみたいわね」
場合によっては、私が教えてもいいし。師匠がそう言うので、今日は師匠もつれていくことにした。修行が終わった後、師匠と共に、ルルの家へと向かう。ただ、この日は少し様子が違った。
家に近づくにつれて、だんだんと周りが騒がしくなっていく。胸騒ぎがする。歩く速さが早くなる。やがて家に着いたとき、この騒ぎの招待を知った。
家が燃えていたのだ。
どういうこと?状況に理解が追い付けないでいると、男たちに押さえつけられているヨハンさんがいた。
「頼む話してくれ!中に妻と娘が!」
家はまだ燃えている。今普通の人間が入ると、いとも簡単に焼け死ぬだろう。
思うより先に、身体が動いていた。
「おい、死ぬぞ!」
誰かのそんな言葉を背に、俺は家の中に飛び込んだ。マナ障壁が使える俺なら、何の問題もなく燃えている家の中で動ける。水を辺りに撒き、少しづつ消火しながら、カタリナさんとルルを探す。
「いた!」
崩れ落ちた木材の下に、倒れているカタリナさんとルルを見つけた。
「生きてますか!」
問いかけてみるが、返事がない。大丈夫、きっと生きているはずだ。俺は二人を担いで、自身のマナ障壁の中に入れて外へと運び出す。
俺が家の外に出ると、おおぉという声が上がった。
「カタリナ!ルル!」
すぐにヨハンさんが駆け寄ってくる。
「生きてるかどうかわかりません、すぐに治療をお願いします!」
そこまで言い切ったときだろうか。遠くの方で、この現場を離れていくローブを着た四人組が見えた。明らかに不自然な服装、この周辺の住民じゃない感じ。
「師匠、着いてきてくれる?」
カタリナさん達のことはヨハンさんに任せて、俺は師匠と共に、そいつらを追いかけ始めた。
追いかけて、正解だったかもしれない。彼らは、町を出て、森の中へと入っていく。森に入ってからしばらくたったときだろうか。彼らはフードを取って話し始めた。
「大成功だったっすね」
「あの程度簡単でしょ」
「家の特定が少し面倒だったけどな」
「これで、あの時のお返しはしっかりできたってわけだ」
ガハハハと男たちは笑う。話している内容的に、彼らが放火したと考えて間違いなさそうだ。にしても、お返し?いったいどういう……。そう思ていると、彼らの顔がちらっと見えた。その時俺はすべてを理解した。気が付くと、彼らを魔法で吹き飛ばしていた。
「何が大成功だ、何が簡単だ、ふざけるな。その程度のことで、お前たちは放火したのか!」
俺は彼ら……山賊たちに向けて、そう怒鳴る。
「お前は……あの時のガキか!」
「理由はなんだ?あの時の腹いせか?なあ、答えろよ!」
俺は火球を浮かべながら、山賊たちを問いただす。
「お、お前は関係ないだろ!」
「五月蠅いよ」
俺はその場に合った火球を山賊の顔すれすれに投げつける。
「人の物を奪うのに失敗した、そんな自分勝手な理由で、一つの幸せな家庭を、お前たちはぶち壊したんだ。どう責任取るんだよ」
俺は再び問いかけるが、本能的に死を悟っているのか、言葉を発することなくがたがたと震えるばかりだった。
「はぁ……もういいよ。その命をもってで償え」
俺は浮かべた火球の目標を山賊たちに合わせる。その時、俺の肩に、手が置かれた。
「殺してもいいけど、もう戻れなくなるよ」
そう言ったのは師匠だった。
「人を殺すのは、カルラの力をもってしては容易いわよ。ただそれは、これからのあなたを苦しめることになるわ。人間、決断する時は楽な方に頼りたくなっちゃうの。人を一人殺すと、これからの選択肢に、殺すという方法が入ってくる。しかも、それは簡単だからそれを選びがちになる。そしてそのうち、抵抗感がなくなる。」
「でも……」
「あなたにはその覚悟があるの?」
「……」
そこまで言われると、俺は返す言葉を見つけられなかった。別に、覚悟がないわけじゃない。ただ、それをすると人ではなくなってしまう気がした。
「……わかったよ」
俺はそう言って、浮かべていた火球をすべて消し去った。
「まあ、とはいえ、あなた達を許すわけではないけどね」
師匠は微笑みながらそう言った。そのあとはまあ……。後日、町の目の前に体がボロボロな山賊たちが転がっていたとだけ言っておこう。
――――――――
「とまあ、そんなことがあったのよ」
「カタリナさんとルルはどうだったの?」
アンナが、そう問いかけてくる。
「後日、亡くなったことをヨハンさんから伝えられたよ。散々誤ったんだ。実際、私がマナ障壁を教えていれば、死ぬことはなかったのかもしれないし」
結局、俺はルル達を助けられなかったんだ。マナ障壁を教えていれば死ななかったかもしれないし、山賊が出たという時点で、警戒をして、山賊確保に乗り出していればあんなことは起こらなかったかもしれない。
「キメラの中にいた娘が、ルルと重なって見えたんだ。だから、助けないとって思って……ごめんね、個人的な理由で二人を危険にさらして」
キメラの討伐は本来ならもっと簡単だったんだ。
「大丈夫だよ、あの娘を助けることは賛成だったし」
「これからもさ、目の前の命だけでも救っていこうよ」
二人は、そんな言葉を俺にかけてくれた。
改めて俺は、仲間に恵まれているなと感じた。
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