第99話 少女に執着した訳(1)

 話し合いが終わった後、俺たちは一度家に帰った。もちろん、師匠も一緒だ。俺が作った料理をみんなで食べていた時、ふとアンナがこんな事を言い始めた。


「そういえば、カルラはどうしてあそこまであの少女を救うことに執着していたの?」

「確かに。あ、いや、救うのが間違ってたってたっていう訳じゃないんだけどさ。やっぱり、普通に倒すより危険じゃん?」


 ルリアーナもそんなことを言ってきた。まあ、言いたいことはわかる。赤の他人だから別に助ける必要性はなかったし、そもそも助けれるかどうかすらわからなかった。アンナ達がそう思うのも無理ないだろう。同じ立場だったら、俺だってそう思う。


「少し、長くなるけどいいかな?」


 俺は、二人に確認を取ってあの子に執着していた理由を話すことにした。


「これは、俺がまだ師匠と二人で修行していた時の話なんだけどね」


 その日は、いつも通り母さんに別れを告げ、師匠との修行場所に向かっていたんだ。そしたら、道の先が騒がしかった。なるべく気配を消しながら近づいてみると、ちょうど山賊たちが行商人の親子を襲っている所だった。この時は今よりもずっと弱かったし、まだ自分の力に自身がなかった。だから、少し様子をうかがっていたんだ。

 山賊の数は剣を持っている人が二人、弓を持っているものが二人の計四人だった。その四人は親子のいる場所を囲み、脅しながらじりじりと距離を詰めていた。


「金目の物を置いていきな。そうすれば、命は助けてやる」

「俺たちは金目のものは持っていない!俺たちが扱っているのは日用品ばかりだ!」


 父親らしき人物が、妻と娘を守りながらそう叫ぶ。


「おいおい俺たちを誰だと思ってる。その貨物の中に指輪が入ってるだろう?」

「……ない!」

「俺たちだって暴力を振りたいわけじゃあないんだ。できれば話し合いで解決したい。俺たちはお金を得られて幸せ、お前たちは命が助かって幸せ。お互い得な話だろ?」

「くっ……」


 そんな無茶な話があるか。剣を構えながら話し合いをしたいって……。


「悪いけど、お前たちに渡せるものはない!」


 父親はそう大声で叫び、懐から短剣を取り出して構える。応戦する気か。


「そうか。そういうことになっちまうなら……こうするしかないよなぁ!」

 

 そう言って、山賊のリーダーらしき人が剣を振り被る。このままじゃ死人が出るな。そう思った俺は近くにあった岩を山賊のリーダーの手に向けて放った。見事岩は命中し、リーダーが痛みでひるんでる間に、行商人家族の前に向かう。


「誰だお前は!」


 急に現れた俺に対して、リーダーは怒声を浴びせる。


「こんなことやめて、真面目に働いたらどうなの?」


 俺は山賊たちにそんなことを言う。


「このガキッ!」


 今まで黙っていた弓を持ったものがこちらに向けて矢を放ってくる。俺は、その攻撃をマナ障壁を使って遮る。その後も、剣やら弓やらで攻撃を仕掛けてくるが、そのすべてをマナ障壁によって完璧に防ぐ。ひとしきり攻撃を受けきったところで、俺は反撃に出た。


「そろそろ引き上げたら?こちらに攻撃は届かないよ。それとも痛い目とわからない?」

 

 そう言いながら、俺は人一人分程の大きさの火球を作り出す。


「こっちはあなたたちから逃げられて幸せ、そっちは命が助かって幸せ。お互い得な話じゃない?」


 さっきのリーダーの言葉をまねながら俺はそう問いかける。


「くっ……覚えてろよ!」


 すると、それだけ言い残して山賊たちは逃げるように去っていった。完全に去っていったことを確認してから、俺は火球を消す。正直、去ってくれて助かった。あの火球を打っても多分殺すことはできなかったからね。あのまま続けてたら負けてたかもしれない。


「あの……助けてくださり、ありがとうございました」


 一息ついてると、後ろにいた男性から声を掛けられた。


「いや、たまたま通りかかっただけなので。大したことはしてないですよ」

「そう謙遜されなくても……おかげで助かりました」

「おねぇちゃん強かった!」

 

 俺と男性が日本人のような会話をしていた中、突然、少女がそんなことを言ってきた。この時の俺は十歳で少女は二歳ほど年下っぽかった。だからまあお姉ちゃんと呼ばれるのは間違っていない。というか嬉しい。もっと言ってくれ。


「ほら、ルルもお礼を言って」

「おねぇちゃん、ありがとう!」


 ルル、と呼ばれた少女は眩しい程の笑顔でお礼を言ってくれた。うん、人助けもいいものだね。


「今すぐにお礼はできないんですけど……何かあったっらうちに寄ってください。その時は飛び切りのおもてなしをしますので」


 そう言われ、女性から住所と名前の書かれた紙をもらった。よく見てみると、この親子はも近くの村、リバーウッドに住んでいるようだった。家も近いし、また今度寄ってみようかな。

 そんなことを考えながら、家族と別れを告げ、俺は師匠の所へと向かった。俺は修行をしながら、師匠にさっきのことを話した。


「さすがね、山賊程度簡単に倒せるなんて」

「師匠の鍛え方がいいからね」

「それでも、私にはまだ勝てないけどね。それにしても、山賊なんて珍しいわね。この辺で見るの医は初めてかもしれないわ」


 確かに、こんなところで何をしていたんだろう。この時はまだ、そのことを深く考えてはいなかった。

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