第98話 探究者

 全身が痛い。あの大爆発は目爆か。それも、即死級の。でも死んでないのは、誰かが俺のことを魔法で吹き飛ばしてくれたからだ。その結果俺は壁に激突し、壁に張り付いていた卵を砕いた。お陰で前面は魔物の血液、後面は卵の内容物で気持ち悪くなった。

 自身の体を見て、自立った外傷がないことを確かめると、自爆した魔物の方へと視線を移す。爆発した地点に小さめのクレーターができており、小さな血だまりができていた。その中に子供……少女が倒れていた。俺に、その少女に近づき、脈を確認する。うん、生きている。

 

「カルラ、大丈夫だった……ってその子は?」

「……多分、この子が魔物の中にいた子だよ」


 俺は魔物が爆発する直前、創り出した魔法を中にいた子供に向けて発動、その後、マナ障壁で保護したのだ。今思えば、なぜ自分を優先しなかったのだろうと思ったが、その結果少女は助かったのでよしとしよう。


「とりあえず、魔物の討伐は成功したし、その子を連れてギルドに……」


 師匠がそう言った途端、入口の方からパチパチパチと拍手の音が鳴り響く。


「いやいや、おめでとうございます」


 声がした方を見ると、そこには赤と黒を基調としたピエロが立っていた。


「誰だ、お前は!」


 俺がそう叫ぶとほぼ同時に、アンナがそのピエロへと斬りかかる。が、アンナの剣がピエロの身体に触れた瞬間、ピエロの身体はぶれた。まるでホログラムかのように。


「おっと、いきなり攻撃するなんて野蛮ですね。まあ、今の僕には攻撃が効かないのですが。そもそもここにいませんし」


 ホログラムみたいな技術はこの世界に存在しない。なら、あのピエロは魔法の効果でそうなっているのか。


「安心してくださいよ。僕に君たちを攻撃する意思はありません」


 そう言ってピエロは両手を上げ、危害を加えないことを伝えてくる。


「そう、ならあなたは何者で何をしに来たのかを説明して」

「よくぞ聞いてくれました!僕は探究者シーカーズの幹部、グレゴールといいます。以後、お見知りおきを」


 グレゴール……それがこのピエロの名前か。それにしても探究者シーカーズ?聞いたことがない。


「ラファイエットが作製した魔物を観察しに来たのですが、いやはや、まさか討伐されるとは」

「ラファイエット?!あなたとどんな関係なの?」


 ラファイエット、その名前が出て俺たちは身構える。


「どういった関係といわれましても……上司と部下?いや、それも違いますし……そうですね、協力者、といったところですか。それにしても、彼とお知り合いで?」

「知り合いも何も……」

「敵よ。ラファイエットは、私たちの敵」


 アンナが、強くそう言った。


「敵……あ、もしかしてあなた達がカルラさんたちですね!ということは……そこの剣を持っている方がアンナさんですか?いや、あの状態からそこまで戻れるなんて、僕、感激します!」


 どうも、グレゴールは俺たちのことを知っているらしい。同じ組織にいるのなら、それも当然か。


「それにしても、あの状態から人間に戻れるなんて。これは後でラファイエットに報告しないとですね。それに魔物が討伐されたことも」


 グレゴールは表情を変えないまま、そう言う。あのニコニコした表情、仮面なのか?


「ともかく、討伐おめでとうございます。それじゃあ、僕はここらへんで」


 そう言ってグレゴールの身体はブレて、そのまま消滅した。あまりに突然のことで驚き、俺たちは声が出せなかった。


「帰りましょうか、ギルドに」


 しばらくして、師匠がそう口にする。それから俺たちは少女を連れて、アンベルクの冒険者ギルドに戻ってきた。戻ってきてすぐ、俺達はヴェルトスさんと先ほどのことで話をした。ひとしきり、ヴェルトスさんに起こったことを説明する。


「その探究者シーカーズというのには心当たりがある」


 そう言ってヴェルトスさんは棚から一つ、書類を持ってきて広げる。


「アンナが誘拐された事件の後、君たちが訓練している間、私達もラファイエットについて調べていたんだ。すると、取引の履歴が見つかってね。間に様々な人を経由していたから追うのが大変だったが……彼の研究材料は主に一つの組織が元となっていた。それが、先程話に出てきていた探究者シーカーズだ」


 間違いないね。十中八九、ラファイエットが所属している組織は探究者シーカーズだ。しかも、グレゴールの話からすると、彼は未だに研究を続けている。しかも、あのキメラを創れるほどに進化していた。あれが大量に生産され、一気に攻めてきたとしたら。考えただけでもぞっとする。


「君たちのおかげで情報に信憑性が出てきたよ、ありがとう。この情報をもとに、私たちは再び調べてみることにするよ」

「あの少女はどうなったんですか?」

「今は治療院で様子を見てる。大丈夫だと判断され次第、退院という形になっている。そのあとはこちらで保護するつもりだ」

「彼女の両親とかは」

「……そもそも彼女には戸籍がなかったんだ」

「え?」

「あの組織内で生まれた子供なのか、登録をしてない子なのか、はたまた、戸籍を消されたか。理由はどうであれ、戸籍がないならこちらが管理している孤児院に入れる」

「そう、ですか」

 

 そのあとは、今後のことについて少しだけ話し、あの話し合いは解散となった。

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