第97話 キメラ

 人間の顔がなぜあそこに?喰われたのか?いや、そんな感じじゃ……。俺が呆気にとられていると、獅子は横から飛んできていた巨大な氷による攻撃をまともに喰らい、飛んで行った。

 

「なに急にボーッとしてるの!」

 

 横から師匠が飛んでくる。さっきの攻撃は師匠のだったのか。


「……人の顔があったっんだよ」

「え?」

「『たすけて』って言ってたんだよ」

「でもあの魔物のどこに人間が」

「口の中。喰われているようを感いでもなかったから、多分寄生されてる」

「……やることは変わらないわよ。あの魔物は殺す」

「分かってる。だけど」

 

 すごく、苦しそうだった。助けを、こちらに求めてきたんだそれにまだ……。


「子供だったんだ。私達よりも小さな」

「……はぁ。分かったわ。でも最優先は魔物の討伐よ」

 

 魔物の中に人がいる。それを助けるためにはただ殺すだけじゃ無理だ。人間を傷つけないように、魔物だけを殺す……。そんなことをしていれば、こちらが殺されるかもしれない。だから師匠はあまり乗り気じゃないのだろう。けど、それを受け入れてくれた。

 

「ありがとう」

「いいのよ。その代わりがんばってね」

 

 師匠はそういって微笑んだ。

 

「アンナちゃん、ルリアーナちゃん!その魔物の中には、人の子供が入ってるわ。奇生されているらしいから助けようと思う。まずは足を狙って動きを止めて!」

 

 師匠は二人に指示を出し、こちらに向きなおった。

 

「それで、どうやって救うつもりなの?」

「ひとつだけ、考えがあるんだ」

 

 ラファイエット戦にて、最後に彼の腕を奪った魔法……正確に言えば、あの剣であれば、中の子供を助けることができるはず。

 

「あの剣は斬りたい物だけを斬る。多分、そんな能力を持っているから」

 

 俺は魔法の詠唱を始める。魔法陣が白く輝やき、半透明の刀身が具現化する。

 

「『カタスケヴィ・ケノッサススパティ』」

 

 あの時と同じ剣が、俺の手の中に出現する。俺はその剣を握りしめ、自身の体に身体強化をかけ、二人が戦っている場所に向かう。

 

「ルリアーナ、魔法をお願い!」

 

 俺がそう言うと、身体がより軽くなる。剣を構え、キメラの全体像を見る。アンナとルリアーナが戦い始めて約十分、そのキメラの体には小さな傷が無数にできている。が、大きな傷は見当たらなかった。

 

「足は切り落とせそう?」

「やってるけど!」

「斬ったそばから再生してくるの!」

 

 二人はそう返しながらキメラの右足を切り落とす。しかし、切り口がグニョグニョと動き、約十秒後には再生されていた。この再生力……子供を救うどころか、本当に倒せるのか?二人は、キメラが足を再生する間に、こちらへ戻ってきていた。

 

「それで、どうすればいい?」

 

 ルリアーナが、挙についた血を振り払いながらきいてくる。どうやって戦っているんだ?と思いよく見てみると、挙の周りにメリテンサックのように風の刃をまとわせていた。それで斬っていたのか、賢いな。

 

「子供が寄生されているって本当なの?」

「うん。口の奥に子供の顔が見えた」

 

 あの子のことは、できるなら助けたい。

 

「師匠!あのキメラの足を凍らせることってできる?」

「できるわよ、少し時間がかかるけど」

「それじゃあ、三人で時間をかせぐよ」

 

 俺がそう言うと三人でキメラに飛びかかった。アンナが剣で斬りつけ、ルリアーナが殴り、俺が魔法で接護する。あのキメラを殺せないから、俺の魔法はある程度の威力で抑えており、アンナヤルリアーナが避けられない攻撃が来た時に、魔法で防害するといった感じだ。

 

「準備できたわよ!」

 

 後方から師匠の声が聞える。

 

「合図したらお願い!二人とも、足を一本切断できる?」

 

 俺がそう聞くと、二人はキメラの右足を切断する。だがキメラは持ち前の再生力で、足を再生させていく。三秒もすれはすぐに再び動き出すだろう。しかし、今動けなければそれで良い。

 

「師匠、今!」

 師匠は俺の合図に応じて、キメラの足を根元まで凍らせる。それは、たった今生えきった足も含まれる。結果、キメラはその場から動けなくなっていた。

 

「よし、成功」

「喜ぶのはまだ早いわよ。これからどうするの?」

「これで斬りつけて、子供を助ける」

 

 俺は半透明の剣を師匠に見せながら答える。その後、俺はキメラに飛び乗る。キメラの中にいる子供を頭でイメージしながら剣をつき立てるが

 

「なっ?!」

 

 俺が付きたてた剣は、火花を散らして弾かれた。よく考えてみると、それは当たり前だった。アンナとルリアーナの二人がりで斬っていたものを、俺一人でできる訳がなかったのだ。かといって、二人の力を借りれば、中の子供を傷つけてしまうかもしれない。どうすれば……。その時、ピシッという音がしたから鳴った。師匠の魔法に亀裂が入ったのだ。時間がない。

 

「今ここで、魔法をつくるしかない!」

 

 中にいる子供と魔物のつながりを切り離す。そんな魔法。魔法陣を展開し、マナを込める。

 

「できた!!」

 

 俺は集中して魔法を構築することに成功した。だからだろうか。俺は魔物に起きている変化に気がつかなかった。

 

「膨張している?」

「カルラ、逃げて!」

 

 そんな誰かの声が聞こえた瞬間、魔物を中心とした大爆発が起きた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る