第96話 ???の叫び

 『テレポート』の光が晴れると、目の前には街へと続く門があった。門にかけてある看板には、「ようこそ、リサディエットへ」と書いてある。


「リサディエットって……」

「今回の依頼場所、ヘクセンに一番近い街よ。今日はここから進むことになるわ」


 師匠が報告しに行ったときに、この依頼の追加の情報をもらったらしい。ヘクセンっていうのは、今回の魔物の巣のことらしい。で、それはリサディエットの周りにある、森の中にあるのだとか。詳しい場所は自分たちで探してくれ、ということらしい。なんと無責任な……と思ったけれど、何でも森の中には魔物が多く、調査が少し危険でしきれていないらしい。


「また森かぁ」


 確かに、森にはいい思い出がない。ドゥルガとかドゥルガとかドゥルガとか。頼むからまたドラゴンとかでないでくれよ……。


「まあ、魔物の巣だし森の中にあるよね」


 そんなわけで、俺たちは森の中を進んでいった。

 森に入り、一時間が経過したが、いまだにヘクセンを見つけられていなかった。


「にしても、魔物の数多い気がしない?」


 アンナがそんなことを言いながら、魔物を斬りつける。森に入ってから、俺たちはほとんどずっと戦い続けていた。確かに、魔物の量が多いとは聞いていたが、この量は以上だ。調査が進まなかったのも納得。一匹一匹は弱く、そこまで疲れることはないのだが、如何せん数が多い。やはり、ヘクセンが原因なのか?

 魔物の種類は多く、獅子のようなものや虎のようなもの、鳥のようなもの、蛇のようなものと様々だった。それぞれによって攻撃方法が違うというのも面倒だった。


「このままだと、先にマナが切れそうね。アンナちゃんとルリアーナちゃんお願いできる?」

「問題ないですよ」「おっけー!」


 師匠の言葉に、二人は近接攻撃で応える。二人なら、そこまで疲労がたまることはないだろう。そこからは、アンナとルリアーナ主体の戦いにかえ、森の奥へと進んでいく。奥に行けば行くほど、魔物の量が増えていく。魔物の巣が近づいている証だか。魔物の量が増えるにつれて、俺たちもアンナに加勢する。そしてついに……


「見つけた」


 崖の麓に大きく空いた穴。そこだけ周りの木々はなくなっており、視界が開けていた。中からは、明らかな敵意が放たれていた。まるで入ってくるなと言わんばかりに。師匠もそれに気が付いているのか、少し顔をゆがませていた。帰りたいのはやまやまだが、ここで引くわけにもいかない。

 魔物の量が増えていることが依頼書に書かれていなかったということは、状況が悪化しているということ。中の魔物が出てこなかったとしても、増えた魔物は目値へと向かうかもしれない。冒険者として、それはさすがに見過ごせないよなぁ。


「気を引き締めて。相手がどんなものかすらわかってないから」


 師匠はそう言って先陣を切る。俺たちは後を追う形で穴へと入っていった。

 穴の中はじめじめとしており、奥からは血生臭い匂いが漂ってくる。俺は、魔法で明かりを出し、あたりを照らしながら進んでいく。この穴の終点は思いのほか近く、大きな空間へと出た。


「……何もない?」


 アンナが、そうつぶやく。実際、この広い空間には何もないように見えた。暗くて奥の方はまだ見えないが……。


「とりあえず、全体を照らすわよ」

 

 支障はそう言って、魔法の準備を始めた。その瞬間、奥の暗闇から、四つの赤い目が浮かび上がった。俺が急いで四人を覆うマナ障壁を展開する。それと同時に赤い目の正体が攻撃を仕掛けてくるが、マナ障壁がそれを許さない。


「照らすわよ!」


 師匠は完成した魔法を上に打ち上げ、弾けさせる。それにより、この空間の全容が露わになった。それを見た俺は言葉を失った。壁のどこを見ても卵卵卵卵……おびただしい量の卵が壁に敷き詰められていた。そして、その中心に佇む魔物。

 先ほど俺たちを攻撃してきた魔物は、一言で言うと、見上げるほど大きな異形そのものだっだ。獅子の頭二つに虎の胴、鳥の翼に蛇の尾。ぬえとグリフィンを混ぜたようなキメラ、そんな魔物がこちらを睨みつけていた。

 目が四つに見えたから二体いるのかなと思ったが、なるほど、頭が二つあるのか。


「私とカルラは魔法で援護、アンナとルリアーナは標的を攻撃!」

「はい!」「任せて!」


 さすが師匠、状況の確認から判断までが速い。今まで見たことない魔物で、どんな動きをするのかわからないからこそ、二人に最前線を任せて、様子を見る。

 ルリアーナの身体強化に自身の身体強化を重ね掛けしたアンナの速度は音速を超える。本来なら空気との摩擦熱によって体が発火してもおかしくない速度だが、彼女はマナ障壁を体に纏わせることによってそれを防いでいる。その速度を身体強化によって底上げされた筋力が繰り出す攻撃は、キメラの身体を容易く切り裂く……はずだった。


「……っ!!」


 彼女の剣がキメラの身体に触れた瞬間、金属と金属がぶつかりあったような火花が散る。彼女の攻撃は、金属程度なら豆腐のように切り裂けるはず。それができないということは……悔過、彼女の攻撃は、キメラの身体に小さな傷をつけるだけにとどまった。だが、それだけで彼女は終わらない。すぐに体勢を変え、次の攻撃に移る。その間、師匠と俺は魔法で、攻撃をものともせず、俺に飛びつき、攻撃してくる。幸い、マナ障壁を破るほどの攻撃ではないが……時間の問題だな。

 ふと、声が聞こえた。


「タ……スケ……テ……」


 かすれていて、苦しそうな声。俺はその声の主を探した。そして、その声の主を見つけた時、俺は声を失った。

 獅子の口の奥に、人間の顔があった。



――お詫び――

 この話を上げるときに、93話目を上げずに話を続けていたことに気が付きました。本当に申し訳ありません。投稿しておいたので、そちらも併せて読んでくださるとうれしいです。

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