第95話 恐れ

 さて、結局魔法の本質とは何か。それを理解するには古代魔法を覚えた時のことを思い出さなければならない。

 あの時、俺は魂の認識をした。じゃないと古代魔法を使えなかったからね。古代魔法を使うには、魂を通じてマナを抽出する必要があった。魔法の本質の答えはこれだ。

 新古魔法は古代魔法の延長線上だったため、この方法を用いていた。しかし、普段の魔法はそんな面倒なことをしていなかった。歴史が過ぎ去っていく中で、魂を認識するといった概念が消えてしまったのだろう。だからこそ、名称が「魂の本質」に代わっていたのだろう。

 そんなことを師匠達に説明した。

 

「魂の認識……ねぇ。確かに言われてみると、理解の仕方には自己と向き合う方法が多かったわね」

 「一緒にやったとき、カルラだけ変化がないって言ってたけど、もうすでに気が付いていたから、変化がなかったんだね」


 そうなんだよねぇ。もっと早く気が付けばよかった。


「でも、アンナの言葉で気が付くことができたから。ありがと」

「……どういたしまして」


 アンナのあの言葉がなければ、気が付かなかったかもしれない。だから本当に感謝してる。


「よし、全員魔法の本質を理解したっぽいし、一回依頼を受けてみようか。ちょうどいいやつがあるんだよね」


 そう言って、師匠は一枚の紙を取り出した。それは、冒険者ギルドが発行している依頼書だった。


「なんでそんなものを持ってるんですか?」


 アンナの言う通りだ。なんで持ってるんだ?


「最近任されてね。普通の冒険者だったら死ぬ恐れがあるって言われてるやつでね。近々、一人で行こうと思ってたんだけど、いい機会だしみんなで行っちゃおうかなって」


 そう言って紙の内容を見せてくる。


「何々……村の近隣で大きな魔物の巣と思われる洞窟を発見、正体は不明だが、被害が出る前に討伐を求む……ってこれのどこが危険なんですか?」


 正体がわからないだけならば、普通の冒険者なら死ぬといった結論にはならないはずだ。弱い魔物の巣である可能性もあるわけだし。


「そう思うでしょ?実際、勇気ある子たちが一週間前に向かったんだけど……」


 そこで師匠は言うのをやめた。続く言葉は一つしかない。だから師匠に来たのか。


「大丈夫なの?もしかしたら師匠よりも強いかも」

「そんなのほとんどないから安心して。仮に強かったとしても、あなたたちが居るじゃない」

「でもラファイエットが襲ってくるかも」

「そっちの方も心配はないわ。今のところ動きはないし、途中に護衛もつく」

「でも……」

「カルラ、恐れていても何も始まらないわよ」


 恐れている。一体何を?正体の分からない魔物が?いや違う。……失うことが、怖いんだ。ラファイエットとの戦いで、俺は、俺たちはアンナを失いかけた。あの時は、運がよかっただけかもしれない。失いたくないんだ。そんな俺の方に手が優しく置かれた。その手はアンナのものだった。


「もう、あんなことにはならないよ。私たちはあの時よりも強くなった」


 もう一方の方にも、手が置かれた。それはルリアーナのものだった。


「ししょーとの特訓もしたし、ラファイエットのなんか簡単に倒せるよ!」

「だってさ。これでもまだ、何か言うつもり?それとも、二人を信用してないの?」

「……っ、それは」

「でしょ?ならいいじゃない。それに、危険なことなんてこれからもずっとあり続ける。そのたびにあなたはこうやって拒否し続けるの?私と出会った時のあなたは、そんな臆病じゃなかったはずよ」


 師匠は俺の眼を真っすぐに見つめながら、そう語り掛けてくる。確かに、少しおびえ過ぎだったかもしれない。


「わかった。その依頼、受けよう」

「よし、そうと決まれば話は早い。私は報告しに行ってくるから、各自で準備しておいてね。二時間後、ギルド前に集合で」


 師匠はそう言って、修練場を出ていった。俺は久々の依頼ということで喜んでいる二人に連れられ、準備をするために街へと繰り出した。準備と言っても、魔晶石にマナを込めてもらったり、ちょっとした食料品を買ったりといったものだけだった。野宿する用のものはもうすでにあるしね。

 しかも、マジックバックに入れればいいので、荷物はないに等しかった。

 そんなこんなであっという間に約束の時間になり……


「みんな準備は良い?」

「いいよ!」

「じゃあ行くよ。『テレポート』」

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