第93話 理解
師匠との修練を始めて約二週間、俺は未だに魔法の本質が理解できていなかった。ちなみに、ルリアーナとアンナは既に何かを掴んだようで、着々と強くなっていた。それぞれ別の方法だったから個人ごとに方法が違うというのは本当なのだろう。にしても、俺だけわからないのはおかしいって思いたくなるよね。
「カルラは全く新しい方法じゃないと無理なんじゃない?」
師匠曰く、今までの枠に当てはまらないって言うのはそこまで珍しいことじゃないらしい。という訳でうんうん唸っていると、突然師匠が話しかけてきた。
「そういえば、カルラって変な魔法使ってたよね?」
「……新古魔法のこと?何で知ってるの?あと、変な魔法はやめて」
「ごめんって。結構噂になってるのよ。それで、あれは一体何なの?」
「あたしもそれ気になってた」
「……私も」
いつの間にか集まってきていたアンナとルリアーナにも聞かれた。何ならアンナの指導者であるアレスも興味を持ってるようだし。……これは話さないといけないかな。
「少し長くなるけど」
そう前置きして俺は話し始めた。アンナとルリアーナがドゥルガの森に行ってる間、あの遺跡で書物を読み漁ってたこと、古代魔法というものがあったということ、それを現代の魔法を融合させたこと。あの世界……本物のカルラと会ったことは話さなかったけど、大体のことは話したはずだ。
「あの前に、そんなことがあったなんてね」
ルリアーナがそんな感想をこぼす。結局、新古魔法を実戦で使ったのはあれが初めてだったからね。あれで失敗してたらどうなってたことやら……。
「今使ってみてよ、その新古魔法って言うのを」
突然師匠がそんなことを言い始めた。しかも真顔で。
「いいけど……なんで?」
できれば、あんまり使いたくない。単純に疲れるし。
「一回受けてみたいのよ」
超真顔でそう答え、師匠は防ぐ準備を始めた。こうなった師匠は何を言っても聞かないからなぁ。まあ、久々に使うし、リハビリがてらやるしかないか。もう一度新古魔法のおさらいをしよう。
詠唱と魔法陣が必要な古代魔法と、それらが簡略され、マナを込めるだけで発動する現在魔法。それらを合わせた魔法は、準備に少し時間がかかる。両手を前に突き出し、魔法陣を展開する。最近気が付いたんだけど、子の魔法陣によってどんな魔法にするかを決めることもできるらしい。
「手加減しないで、全力で打ってきなさい」
少し離れた所から師匠が大声で言ってきた。全力ッて……少し不味くないか?流石に師匠を殺したくはないよ?
「安心しなさい、受け止め切ってあげるから!」
その言葉で思い出した。相手は師匠だ。絶対、俺の攻撃なんかじゃ死なない。必ず受け止め切ってくれる。
「お望み通り、全力で打つよ!」
俺は魔法陣にさらにマナを込める。魔法陣はこめられたマナに応じてその大きさを大きくしていく。普段なら、打った後のことも考えてマナを残すけど、今回だけはそんなことを考えなくてもよい。今の俺の全力を師匠にぶつける。
「ヴォイド・オブ・スカッター……いや、ヴォイド・オブ・スキゾニア!!」
俺が創り出した魔法は、ヴィルヴェルの群れを討伐したときのものと同じ。だが、違うところが二つある。一つ、魔法の構築に仕えた時間が長かったこと。もう一つは、前回は標的が複数いたのに対し、今回は標的が一つということ。
その結果、本来であれば、拳大ほどの刃が出現するはずだった魔法が、人二人分程の巨大な半透明の剣が出現する魔法となっていた。俺は目の前に出現したそれを見上げながら、右腕を上げる。
「ちゃんと受け止めてね」
俺はそう言って、高く上げた右腕を振り下ろした。巨大な剣は、俺れの右腕に呼応するかのように師匠に降りかかる。
師匠の『マナ障壁』と、『ヴォイド・オブ・スキゾニア』がぶつかり合ったとき、本来出るはずのない火花があたりに散る。せめぎあい、両者の魔法にひびが入る。ひとたび入ったひびは亀裂に代わり、そしてそれはどんどん大きくなっていく。やがて、パリンッとガラスが割れるような音が響き、両者の魔法が砕け散った。それと同時に俺は仰向けで倒れた。疲れた……。頭が痛い。やっぱり大規模の魔法を使うと、頭が痛くなる。
そんなことを考えていると、隣からドカッという音が聞こえた。どうやら、師匠も同じ状況らしい。アンナが俺を、ルリアーナが師匠を支えて起き上がらせてくれる。師匠も相当マナを使ったのか、非常に疲れた顔をしていた。
「引き分けで良いよね」
「いや、私の勝ちよ。私の方が長く立ってたし」
「でも、もう魔法使えないでしょ?」
「いいや?ほら」
師匠はそう言って、掌に水を浮かべる。それでどうやって攻撃するんだよ……。
「わかった、わかったって。師匠の勝ちで良いよ」
俺がそう言うと、師匠は満足そうに水を消した。師匠は相変わらず負けず嫌いだからなぁ……。いや、人のことは言えないか。
「それで、ししょーから見てカルラの魔法はどうだったの?」
数日前からルリアーナは師匠のことを『ししょー』と呼ぶようになっていた。てか、これ勝負じゃなかったじゃん。
「え?あぁ~えっとね」
ほら、師匠だって忘れてるよ。師匠は空気をリセットするかのように小さく咳払いをして、話をつづけた。
「見て、受けた感じ、マナの流れは均一でまとまっていたよ。弱点らしい弱点もなく、マナを効率よく魔法に変換している」
なるほど、つまり?
「魔法の本質を理解している」
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