第89話 弟子
「はい?」
俺の言葉を聞いた師匠は間の抜けた声と共に困惑の表情を浮かべていた。ルリアーナからの提案。それは師匠の弟子になること。どうせ今からすることは決まってないんだし、しばらくの間は暇だろう。
「どうして、急に?」
「うーん、いろいろあるけど……一番は強くなりたいから、かな」
俺は今まで師匠より強い人間に出会ったことがない。ラファイエットでさえ、師匠なら柔軟に対応できていただろう。少なくとも、俺はそう思っている。
「前に一緒にしなかったっけ?」
「あの時はあんまりできなかったじゃん」
それに、あの時は俺も教える側に回ってたし。その後の模擬戦で学ぶことは結構あったけど、それでも師匠に教えてもらいたいよね。
「今回は長期的にしてほしいんだ」
今回の目的、それは大きく分けて二つある。一つ目はさっきからずっと言っている戦力強化。単純に強くなろうと思ったからだ。今回の件を踏まえて、自分はまだまだ弱いままなんだっていうことを痛いほど理解した。このままだった次ラファイエットにあったとき、殺されてしまうだろう。……その時はきっとその場にいる全員が。だから師匠にいろいろ教えてもらいたいんだ。
二つ目は俺たちの現状から来ている。今の俺たちはラファイエットがいる組織に狙われている可能関が高い。いや、狙われている。ラファイエット一人ならばしばらくは安全だったが、組織となれば話は別。ラファイエットと同じ思想を持つものならば、襲い掛かってきてもおかしくはない。
「そこで、師匠に警護も頼みたいんだよね」
ちなみにラインハルトさんには許可を取っている。師匠が中で書類の作業しているときに聞いておいた。
「だから師匠は仕事の心配をしなくても大丈夫だよ」
俺はそう言って師匠に微笑む。師匠は、逃げ場がないということを悟ったのか、大きくため息を吐いた。
「……仕方ないわね。そこまで言うなら教えてあげようじゃないの」
師匠のその言葉に、俺とルリアーナは手を合わせて喜んだ。
「そうと決まったからには基礎から教えるからね。とはいっても今日から始めないでしょ?」
「あたしはできるけど……やっぱり、アンナとも一緒にしたいしアンナが元気になるまで待つよ」
ルリアーナの言う通りだ。そんなわけで修行はまた後日にし、とりあえず今日は三人でご飯を食べることになった。師匠待ってたらかなり時間が経ったしね。
「師匠の奢りでお願い!」
「はぁ?自分で払いなさいよ……と言いたいところだけど、色々大変だったみたいだし、今日ぐらいは奢ってあげようじゃないの」
「やったー!」
よし、いっぱい食べるぞー!そんなわけで、師匠について行き晩御飯を食べた。自分で作って食べるのもおいしいけど、やっぱりお店で食べる物は格が違うよね。特にお肉系統。今日食べたスープに入ってたお肉とか柔らかすぎて口の中に入れた時に溶けていったもん。家じゃあんなのできないね。やろうと思えばできないことはないんだろうけど、時間がかかりすぎる。
「そういえば、オリヴィアさんって何をしてたの?」
ご飯を食べ終わり、帰路についたところでルリアーナが突然そんなことを言い始めた。言われてみれば確かに。師匠何してたんだろ。国からの依頼っていうのは知ってるけど。
「聞きたい?」
師匠はいたずらっぽく答えた。そんな言われ方したら嫌でも聞きたくなっちゃうよね。師匠は「しょうがないなぁ」と言いながら、何の依頼をしていたかを話してくれた。
国からの依頼と言っていたから何かと思ったら、ただの魔物の討伐だった。
「いや、結構大変だったんだからね?」
師匠曰く、討伐対象は魔物の群れだったらしい。しかも数十匹規模の。先に冒険者に依頼として張り出したら、失敗する冒険者が続出、それじゃあ兵士たちに、と国の小隊を送れば再び敗北、それで師匠のところに話が来たらしい。
「しかも、その群れてた魔物はサラマンダーだったのよ?」
サラマンダーかぁ。実際に出会ったことはないけど、炎の魔法を使うトカゲだったかな?魔法を使ってくるってだけで強いからなぁ、魔物は。
とまあ、そんな話をしていると家に着いた。ここで一つの疑問が浮かび上がる。
「師匠はいつ帰るの?」
師匠は俺たちにずっとついてきていた。いや、話を振ったのは俺たちの方だし、ここまで付いてきたのは仕方がないのかもしれないけど。確か師匠って結構離れてなかったっけ?
「いや、カルラの家に泊まるつもりだけど?」
え?
「だって、そっちの方が警護できるでしょ。何かあったときにその場にいることができるんだし」
まあ、確かにそうだけど……。
「というわけで一緒に寝るわよ~」
そう言いながら師匠は我先にと家に入って行った。だめだ、こうなった以上師匠は止まらない。ルリアーナに至っては額に手を当てて呆れてるし。ルリアーナがこの反応をするって相当だよ、ほんと。
「寝るのは良いけど、先にお風呂入ってよ~」
その後お風呂に入り、三人で寝ることになった。
――――――――
しばらくして……
「ふぅ」
俺は起き上がる。窓からは月明かりが差し込んでおり、寝ている俺達を照らしている。同じベットに寝ていたルリアーナと師匠の様子をうかがう。光源が月明かりだけだからよくわからないけど……うん、ぐっすり寝てるっぽい。
俺は二人を起こさないようにベッドから抜け出し、軽く身だしなみを整える。
「よし、行くか」
俺は二人を残して、家を出た。
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