第88話 これからのこと

 そんなこんなでしばらくたった後……


「はっ!申し訳ない。少々考え事をしていて……」


 少々、というには少し長かったのではないのだろうか。体感一時間ぐらいは立ってるよ。この間に俺とルリアーナ合わせてフルーツタルト三つ分ぐらいは食べた気がする。責めるのは待ってほしい。ちょっとずつ上にのっけているフルーツを変えてくるのがダメだと思うんだ。それによって味が少し変わってくるから飽きが来ないんだよね。ちなみに、まだ食べれる。今度お店に行こ。

 そんなことはさておき、やっと話が進みそうだ。


「だが、考えることができたおかげで、今後のことをある程度考えられた。とりあえず、組織について調査をしてみよう。調査結果が出るまでは、君たちには自由にしてもらいたい」


 まあ、ある程度は予想で来てたけど、そうなったか。とりあえずその組織について調べないと話にならないしね。


「ラインハルト、君からは何かあるか?」


「いえ、自分からは何も」


「それでは、私たちが伝えたいことは以上だ。解散」


 その言葉で、俺たちは解散した。とはいっても、冒険者ギルドから出ただけだったが。


 ――――――――


 少女二人が出ていったあと、応接室には男二人が残されていた。


「ラインハルト、今回のことについてどう思う?」


「ギルドとしても、重い事例として受け止めるべきかと」


 ラインハルトからは予想していた回答がされる。その回答を聞いたヴェルトスは少し考えこんだ。

 今回の件、ギルドは何もできなかった。カルラが居なければ、アンナという貴重な手駒を失うところであった。それに、あのラファイエットの活動再開も気になる。そしてその背後にいる者も。それを踏まえると、今回の件を重要案件として受け止めるのは至極当然なことだった。

 しかも、ギルドとして。つまり、ラファイエットが所属する組織と、ギルドは真向から事を構えるということだ。

 

「とりあえず、彼女たち三人には監視を付けようと思う。人材は確保できそうか?」


「現在待機中の部隊が居るのでそいつらに任せましょう」


 今回のようなことが起こったとき、すぐ対応できるように監視を付けよう。組織の調査も同時に進め、特定を急ごう。


「これから忙しくなるな……」


 ヴェルトスのその呟きは近くにいた男にのみ伝わった。


 ――――――――


 話し合いが終わり、ギルドから出た俺達だが


「……どうする?今から」


「……どうしよっか」


 何をするか迷っていた。ある程度疲れてはいるが、寝るにはまだ早い時間帯だ。王都観光でもすればいいのだろうが、アンナが居ないのになぁという気持ちもある。ルリアーナも同じようなことを考えていることが、言葉にされなくても伝わってきていた。結果、ギルドを出てから何もしていない。

 何をしようかと考えていると、突然目の前が光り輝いた。


「大丈夫だった?!」


「ぅわぷ」


 く、苦しい……。俺は輝きの中から出てきた人物に抱きしめられていた。こんな人、一人しかいない。師匠だ。胸で、胸で呼吸ができなくなってる……!何とか隙間から顔を出し、気道を確保する。まったく、自分の胸の殺傷能力ぐらい把握していてほしいよ。それにしても、師匠どうしたんだろ。


「あなた達が事件に巻き込まれたって聞いて大丈夫かなって思ったけど……」


 俺から離れ、俺たちの姿を一瞥する師匠。


「問題……なさそうね」


 だって何とか戻ってきたし。ちなみに、今の俺の姿はいつもの装備は脱いで私服になっている。といううのも、ラファイエットとの闘いでいろんなところが破れてしまったのだ。流石にあの姿で街を歩くのは俺でも気が引ける。ある程度の羞恥心はちゃんとあるのだ。


「そういえば、アンナちゃんは?」


 まあ、そうなるよね。だってアンナこの場にいないし。というか、なんも聞いてないんだ。


「アンナは今治療院で休んでるよ」


「え?!何があったの?」


 俺とルリアーナは起こった出来事を大まかに掻い摘んで師匠に説明した。改めて口にすると本当に大変だった。ちなみに、師匠はさっきまで国からの依頼をこなしていたらしい。俺達が事件に巻き込まれた(?)のもさっき知ったらしかった。


「またあいつかぁ。あれだけボコボコにしたのにまだ懲りてなかったなんてねぇ」


 師匠はどこか懐かしむかのように遠くを眺める。そう言えば師匠って今何歳なんだろ。……聞いても答えてくれなさそう。


「仕事に戻らなくていいんですか?」


 ルリアーナが師匠に尋ねた。確かに、聞いた話だと俺たちのことを聞いてすぐこっちに来たみたいだし、依頼は大丈夫なんだろうか。この人なら依頼とか普通に投げ出しそう。……その理由が俺たちのことを心配してっていうんだからちょっとうれしいけど。


「依頼?いいのいいの。報告はしてないけど、ちゃんと終わらせてるし」


 報告はしてよ……。じゃないとギルドの人が困るでしょ。国からの依頼とはいえ、管理してるのはギルドなんだから。俺が呆れてると師匠の後ろに人影が見えた。


「今の話、少し詳しく聞かせてくれますかな?」


 あ、ラインハルトさんだ。


「いや、その……ね?」


 その後、師匠はギルド内に連行されていった。途中ラインハルトさんに叱責されながら運ばれていくのはちょっとおもしろかったな。


「ねぇ、カルラ」


 運ばれてく師匠を眺めていると、ふとルリアーナに声を掛けられた。どうしたんだろ。


「ちょっと提案があるんだけどさ」

 

 ルリアーナはその提案を俺に説明した。俺はその提案に賛同した。

 少しして、師匠がギルドから出てきた。


「はぁ~やっと終わったよ。あれ本当に面倒なんだから……」


「師匠~!」


 独り言を呟きながら伸びをしている師匠に声を掛ける。


「私達を弟子にしてください」

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