第83話 決着

「ぐぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 この広い空間にラファイエットの叫び声が響き渡る。俺の剣によって斬り裂かれたラファイエットの腕は肘から先がつながっておらず。紅く鮮やかな血が噴き出していた。俺が持っていた半透明の剣はラファイエットの腕を切ると役目を終えたかのように消滅した。今のうちに下がろう。


 俺は雷魔法による筋肉の強制稼働の代償によって痛み続ける脚でラファイエットから距離を取る。左腕に突き刺さっている剣を抜き取り、ラファイエットに構える。


「よくも、よくも僕の腕を斬り落としてくれたな!稀代の天才、このラファイエットの腕を!決めた、お前だけは殺すだけじゃ済ませない。殺す前に監禁して、凌辱の限りを尽くし、実験に使用してむごたらしい殺し方をしてやる!今に見ておけ、この僕は攻撃手段をまだまだ……」


 怒り狂うラファイエットの声を遮ったのは、突如として彼の横に出現した男だった。その男はラファイエットに何かを話している。そして、時間がたつごとにラファイエットの口角は上がって行った。


「そうかそうか!それならこの場は僕の負けということでいいだろう!約束通りアンナを『解放』するよ」


 ラファイエットがそんなことを突然言ったかと思えば、アンナを閉じ込めていた鳥かごが粒子となり消えていった。


「誰が逃がすと思って」


「逃げるよ、僕は。それじゃあ、また次会う時を楽しみにしているよ。その時は覚悟しておいてね」


 ラファイエットは気持ち悪い笑みを浮かべてそう言う。そして、彼とその横の男を囲むように地面が光始める。まずい、このままじゃ逃げられる。俺はラファイエットが持っていた剣を振りかぶり、思いっきり投げつける。


「逃がさない!」


 俺が投げつけた剣が直撃する直前、あの二人は光に包まれてどこかへ消えていった。剣は当たるべきものを見失い、カランッと地面に落ちた。ラファイエットを逃がしてしまった。あの屑を。ともかく、当初の目的だったアンナを救い出すことはできた。


「アンナ!」


 俺は、解放されて離れたところで座り込んでいるアンナに近づく。


「心配したんだよ、アンナ。変なことされてない?大丈夫、今すぐ家に帰ろう、そして……」

 

 話してる途中で、違和感を感じた。反応がないのだ。さっきまで、鳥かごにいた時は元気にとは言わないが、生きていた。確かに、この目ではっきりと見たんだ。最悪の可能性が脳に浮かんできた。彼は何と言っていただろうか。思えば、『解放』の言い方が少し違った気がする。その『解放』が「鳥かごから出し、拘束を解除する」という意味ではなく、別の意味だとしたら……。


「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」


 そんなことは考えたくなかった。でも、声を掛けるたびに、身体に触れるたびにその可能性が高まっていく。身体から力が抜けていくのを感じた。俺は頑張った。頑張って戦ったんだ。アンナを解放するために。こんなことになるなら、あの時決闘なんか受けなければよかった。大人しく捕まっていればもしかしたらアンナは……


「アンナ!カルラ!」


 突然、出入り口の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。ふとそちらの方を見ると、ラインハルトさんを引き連れたルリアーナが立っていた。


「ルリアーナ!アンナが」


 その瞬間、突然視界が反転し浮遊感を覚えた。そしてそのまま、ルリアーナの前に落下した。


「ぅわっと」


 ルリアーナがつかんでくれたから、何とか地面に激突することは防げたみたいだ。


「一体、何が起こってるの」


 俺が状況を確認しようとし顔を上げると、そこには立ち上がりこちらを睨みつけてくるアンナの姿があった。


「アン、な?待って、本当に何が起こって」


「構えろ、来るぞ」


 ラインハルトさんがそう言って、背負っていた大剣を構える。次の瞬間、奥にいたアンナの身体がぶれ、ガギンという音が響き渡っていた。アンナは地面に落ちていたラファイエットの剣を拾い上げ、ラインハルトさんと鍔迫り合いをしていた。


「とりあえず、治療を始めるね」


 ルリアーナから放たれる優しい光が俺の身体を包み、傷を癒していく。


「とりあえず、説明するよ。カルラが出って行ったあと、あたし達の方でもアンナのことを探していたの。貧民街にいるという情報だけで。ずっと探してたけど見つからなくてさぁ。そんなとき、アンベルク中に響くほどの爆発音がしたからラインハルトさんと一緒に来てみたんだ。そしたらアンナとカルラがいたって感じ。まあ、あれをアンナと呼んでいいかはわからないけどね」


「なんでラインハルトさんが?」


 彼はヘルゲン支部のギルド長だ。アンベルクにいていい人間じゃない。


「それが、先日のドゥルガの森で起きたことについて報告しに来てたらしいよ。ヴェルトスさんが戦力になるから連れていけって」


 戦力になる……か。確かに、こう話している今でも、アンナと打ち合い続けている。こんなことを考えれるぐらいには落ち着いてきたみたいだ。


「よし、治療完了っと」


 ルリアーナから放たれていた光がやみ、俺の傷は全て綺麗に塞がっていた。


「ありがとう。それで、アンナは今どうなってるの?」


 俺はルリアーナに聞いてみた。


「あたしもヴェルトスさんから聞いたから詳しくは知らないけど……とりあえず、ラファイエットに操られてるっぽい」


「正確には寄生されているというのが正しい」


 突然、ラインハルトさんがアンナと撃ち合いながら会話に入ってきた。守ることに徹しているからか、話す余裕ぐらいは余裕があるのだろうか。


「アンナは今、パラシティックシードという魔物に操られている」


 ラインハルトさん曰く、パラシティックシードという魔物はラファイエットが開発した魔物で、人のことを、主人以外を襲う魔物に変えてしまうらしい。


「助ける方法は?」


 俺の問いに答える人はいなかった。


「もう一度聞きます、助ける方法は?」


 ラインハルトさんは、アンナと打ち合いながら答えた。


「……助ける方法は、ない」

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