第82話 半透明の剣
高笑いしているラファイエットを横目に魔法を構築、発動させる。
「『カタスケヴィ・ケノッサススパティ』」
名前を唱えると、右手に半透明の剣が出現する。装飾はされていない質素な見た目で、片刃の片手剣だ。
「いやはや、本当にフェデュエルを倒されるとは思わなかった。放蕩なら負けを認めて引き下がってもいいんですが……どうします?」
「逃がすと思ってるの?」
俺は剣の切先をラファイエットに向けて言い放つ。
「ほう、剣ですか」
ラファイエットは俺の行動を見て興味深そうに呟く。
「魔法使いなのに剣……まともに振れるとは思えないですが」
ラファイエットの言っていることはある程度的を射ている。実際剣を握ったのは今回が二回目だ。一回目はアンナの剣を振らせてもらった。あの時は剣を振るというよりかは、剣に振られるといった方が正しいほどひどかった。
何故今回ラファイエットと戦うのに剣を利用したか。まず最初に魔法の効果が下がるこの状況的に、新古魔法以外でラファイエットに傷を与えられる気がしないからだ。しかし、ラファイエットと戦うことになれば新古魔法を構築している暇なんてないだろう。それなら魔法で作成した剣を用いて殺す方がまだ可能性があると感じたのだ。マナは、『マナ障壁』だけに使えばいい。
「まともに振れるかどうかは戦ってみたらわかるんじゃないかな」
今攻撃すれば、間違いなくやられる。奴は隙が多いように見えて、魔法は発動待機状態にしている。まずはそれの解析をして無効化しなければこちらから攻撃することは不可能だ。
「ふむ……では僕も剣で相手をしましょうか」
ラファイエットはそう言いながら、金属でできた剣を手元に出現させる。重そうな両刃の片手剣を持ち上げ、切先を俺の方に向けてくる。
「やはり錬金術は便利ですねぇ。魔法よりも実態を持たせやすい。そして、こんなものは邪魔です」
ラファイエットがパキンッと指を鳴らすと、この戦いが始まって以来ずっとかかっていた重力魔法の重さが消えた。
「あの魔法があると色々考えてなきゃいけないことが増えてしまうんですよねぇ。さて始めますか」
そんな魔の向けたような開始の合図とは裏腹に、ラファイエットの姿がぶれる。次の瞬間には、剣を振りかぶったラファイエットが目の前に現れた。
「っ……!!」
咄嗟に『マナ障壁』を張って対応するが、突然のことでマナをうまく籠められなかったのか、剣が当たると同時に『マナ障壁』は粉々に砕け散った。ラファイエットの剣はそのまま、俺の身体に襲い掛かろうとする。急いで剣と身体の間に自分の剣を入れ、何とか防ぐ。
重い……!こんなにも細い身体から出ていい力じゃないぞこれ!俺の全力の身体強化とルリアーナの身体強化を重ね掛けしてやっとこのレベルになるぐらいだ!何とか剣をはじき返し体勢を整えようとするが、そんな暇は与えてくれないらしい。弾かれたはずのラファイエットの剣はまた別の角度から俺のことを襲い掛かってくる。
「久々に剣を握りましたが鈍ってないですね!」
時には『マナ障壁』、時には剣で襲い掛かってくる攻撃を退けていく。それでも、防ぎきれない攻撃はあり、徐々に傷は増えていった。
このままじゃまずい!
俺はそう判断し、後ろに大きく跳び退いた。ラファイエットは先程の連撃によって疲れたのか、すぐさま追ってくることはなかった。
「はぁ……はぁ……」
さっきの攻防、防戦一方だった。あいつは魔法使いじゃないのか?アンナを相手にした時よりも手ごわい。ともかく、今のうちに攻撃するしかない。
俺は地面を蹴り、急速にラファイエットに接近する。剣を下げ、疲れているかの様子の彼に向けて、剣を振り下ろす。ガキンという金属と金属がぶつかり合うような音が鳴り、俺の剣は空中で止まった。否、ラファイエットの『マナ障壁』によって止められたのだ。
「人が少し一休みしているというのに、もう少し休ませて下さい!」
ラファイエットは剣を持ちあげ横になぐ。俺はその攻撃を後ろに跳び退き避けた。こいつ相手には攻撃した後すぐに退く、ヒット&アウェイでダメージを当てていくしかない。できる限り視覚外から攻撃するんだ。俺は、アンナがやっていたように、雷の魔法を自身の脚に流す。
「いっ……!」
激痛が走る。アンナはこんな痛い思いをして戦っていたのかと驚いた。しかし、痛みを代償に俺の速度は格段に上昇していた。
「くっ……!意外と剣術も出来るのですね!」
俺の速度と打撃数に、ラファイエットは防戦一方になっていた。徐々に、徐々にラファイエットの防御に隙が生まれ始める。ある攻撃を防ぐために、ラファイエットは必要以上に剣を振り払った。一瞬、立った一瞬だが、ラファイエットに隙が生まれた。
今しかない。
そう確信した俺は、距離を詰めるために走り始めた。あと一歩、もう少しで剣が届くというところで、ぐらりと視界が揺らいだ。このタイミングで『身体強化』の効果が切れた?!次の瞬間、左腕に強烈な異物感と共に激痛が走った。痛みで閉じかけた瞼を必死に開け、左腕を見るとラファイエットの剣が突き刺さっていた。
今しかない!
俺は切れた『身体強化』を今一度かけなおし、半透明の剣を力の限りラファイエットの腕へと振り下ろした。
「その程度、『マナ障壁』で簡単に防げますよ!」
『マナ障壁』なんて関係ない、その腕だけでも斬り落としてやる!
不完全な体勢、中途半端にしかマナを込められなかった『身体強化』、実際の剣のように重さがあるわけではない魔法で作られた半透明の剣。確かに、ラファイエットの言う通り、『マナ障壁』によって簡単に防ぐことができるだろう。
しかし俺が振り下ろした剣は、ラファイエットが張った『マナ障壁』を無視し、ラファイエットの腕を斬り裂いた。
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