第81話 ヴォイド・オブ・スカッター
ラウンド二、ラファイエットがそう言い放った後の戦いはさらに辛いものとなっていた。
フェデュエルを仕留めるには、もう一発『ヴォイド・オブ・スカッター』を放ち、当てる必要がある。そのため、もう一度唱える必要があるのだが……。
「ほらほら!もう一回同じ魔法を見せてよ!この状況で打てるのであればなぁ!」
ラファイエットが炎や水、風などの魔法を常に打ち続けてくるようになった。しかも、一発一発が当たれば致命傷を受けるであろう威力をしているため、全てを防ぎきらなければならなかった。そのせいで、『ヴォイド・オブ・スカッター』は二分経った今でも三割ほどしか貯めることができていなかった。
このままじゃまずいな。魔法が完成する前にマナが尽きてしまう。マジックバックの中にマナを貯めた魔法石があるから補給はできるけど……そんなことをしている暇はくれそうにない。新古魔法をあきらめるか?いや、それで倒せるような相手ではない。
そんなことを考えていると、ぴたりとラファイエットからの攻撃が止まった。何事かと思い、ラファイエットの方を見ると何やらブツブツを呟いていた。あれは呪文詠唱?創作物などではよく見る行動だが、この世界に来てからは初めて見たかもしれない。とにかく、ラファイエットの攻撃がない今、急いで魔法を完成させないと。
フェデュエルの攻撃を避けながら魔法を構築してくこと十数秒、突然部屋の温度が高くなったと同時に、やけに明るくなった。何事だと思いながらラファイエットの方を見ると、今起こっている現象に納得がいった。
彼は右腕を上にあげており、その先に直径が大人二人分ほどの大きさをした青白い炎の球を生成していた。見た目からだけではなく、一瞬にしてこの広い空間の温度を上昇させたという点から、あれがどれほど強力な魔法なのかが理解できた。恐らく俺が使う新古魔法と同等、あるいはそれ以上の威力があるだろうそれを、ラファイエットは軽々しく生成したのだ。
「君がせっかく本機を見せてくれたんだ。こちらも本気を見せないと失礼に当たるだろう?今私が使える魔法の中で一番強力な物を用意したよ。強力な分、少し時間がかかってしまったけどね」
別に本気を出さなくてもいいのに……。というか、あれを防げるのか?
「ご丁寧に用意してくれてありがとう、とでもいえばいいのかな?それより、フェデュエルも巻き込まれると思うんだけど大丈夫?」
俺は思っていもないような心配の声を投げかける。時間を稼ぐためだ。
「その子は失敗作だからね、失ってもそこまで痛くはないかな。一応、『マナ障壁』で保護するけど」
ラファイエットがそう言うと、フェデュエルは、片翼だけで不格好ながらもラファエルのところへと戻った。
「……アンナは巻き込まれないよね?」
そう聞きながら、ちらりとアンナの方を見やる。アンナは鳥かごのような檻の格子を強く握りしめ、こちらを見つめていた。
「それは安心してほしい、あの鳥かごは一種の防御壁だ。よほどのことがない限り壊れることはないよ」
彼の言葉通りならば、アンナは大丈夫らしい。恐らく、彼は人質を凝らすようなことはないだろうからこのことは信用していいだろう。
「そろそろ始めようか『パンタ・カイエイ』」
「『ネロ・プロスタティス』」
俺は時間を稼いで構築していた魔法を展開する。俺の両手に魔法陣が現れ、純粋の膜が俺を包み込む。思えば、新古魔法で『マナ障壁』を展開したのは初めてかもしれない。今回の攻撃はそれほどまでに強力なものだと感じたんだ。
ラファイエットが上げていた右手を振り下ろすと同時に目標に向かって動き始める青白い火球。俺はさらに『ネロ・プロスタティス』にマナを込める。
火球到達まであと五メートル、三メートル、一メートル
火球が近づいてくるとともに、感じる温度も上がっていく。しかし、『ネロ・プロスタティス』のお陰か、火傷をするようなことはなく、むしろ涼しさも感じてきた。
五十センチ、二十センチ、十センチ、三センチ、一センチ……
零
ラファイエットの火球と、俺の防御障壁画触れ合った瞬間、大爆発が起こった。火球による大爆発は、俺の防御障壁に触れたそばから蒸発と共に熱が奪われていく。触れては蒸発し、触れては蒸発し……。ただそれだけこのことが一秒の間に幾度となく行われた。その間俺はずっとマナを送り続けた。途中、ピキッと『ネロ・プロスタティス』にひびが入ったもののそれだけで留まり、爆発が収まるまで耐え続けていた。
爆発が収まると、辺り一面が土煙や湯気などに包まれ、何も見えない状態になっていた。それらが消えていき、辺りが見えるようになると、一つの拍手が聞こえてきた。
「おみごと!実にお見事!まさか耐えきるとは思わなかったよ。それも無傷で!」
「それじゃあ、今度はこっちの番でいいよね」
反撃するなら、油断してる今しかない!
「うん?」
俺は地面を蹴り、フェデュエルとゼロ距離まで詰める。そして、右手をフェデュエルに当て、名前を唱えた。
「『ヴォイド・オブ・スカッター』」
唱えられた魔法は先程の魔法とは異なり、静かに部屋全体へと響き渡った。フェデュエルの胸に当てられた掌が光り輝き、魔法が顕現されそして……
フェデュエルの身体を二つに斬り裂いた。
切り離された身体からは生き物の物とは思えない青い血が噴き出され、そのまま力なく倒れた。
「……あは、あははははは!まさか、僕のあの攻撃を無傷で耐えきるだけでなく、フェデュエルを殺してしまうなんて!予想外、実に予想外だ!」
高笑いするラファイエットを横目に、魔法石を十個ほど取り出し、そのすべてからマナを吸収する。
「邪魔者はいなくなったよ。さて、ラウンド三を始めようか」
マナを回復した俺は、ラファイエットにそう言い放った。
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