第80話 三分の一

 フェデュエルの攻撃を受け流し、反撃をする。だが、その反撃はいとも容易く防がれてしまう。そんな攻防を、決闘開始から五分ほど続けていた。日常生活での五分と言えばすぐに過ぎ去るほどの時間だが、戦闘での五分とは実に長い時間と言える。日常生活で例えるのであれば一時間ほど経過しているようにも思えるだろう。


 このままじゃどうやったって勝てない。現状、フェデュエルの攻撃を防ぐことができているから続いているこの攻防。マナだって無限じゃない。いつか『マナ障壁』を貼れなくなる時が来るだろう。その時が来た時、俺は死ぬ。だから、それまでにラファイエットを殺さなければならない。


 迫りくるフェデュエルの猛攻を搔い潜り、何とかラファイエットへと風の刃を放つ。しかし、俺の手から放たれた風の刃は ラファイエットの『マナ障壁』によって塞がれてしまった。


「弱い弱い。その程度の攻撃なんて簡単に防げてしまうよ。早く君の本気を見せてくれ。まさか、この程度が本気というわけではないだろう?」


 ラファイエットはそう煽るように言い放つ。この部屋で放たれる魔法の威力は三分の一下がってしまう。ラファイエットが言っていたことは本当のことであり、非常に厄介な物であった。しかも、ラファイエット自身にはそれが適応されない。そんな状況があり、決定打を出せずにいた。


 とりあえず考えよう。どうすれば勝てる?魔法の威力が弱くなるのであれば、肉弾戦をすればいい。いつもならそうするが、今はラファイエットが放つ重力魔法の影響下にいるせいで、まともな攻撃ができない。ならば、弱くなったうえで尚、敵を葬り去る威力の魔法でゴリ押すしかない。


 俺は一度マナ障壁の展開をやめ、フェデュエルの攻撃を見切ることに集中した。振り下ろされる腕はやはり早い。だが、対応できないほど速いわけではない。俺は、フェデュエルの攻撃を防ぐのではなく、回避するという選択肢を取った。よし、これならいける。これなら『マナ障壁』を展開せずに戦える。


 それから俺は、フェデュエルの攻撃を避け続けた。目的はただ一つ、新古魔法を唱えるためだ。縦薙ぎや横薙ぎ、かみつきや尻尾攻撃まで、すべての攻撃を回避し続けた。俺にとって、これはかなり命を張った戦い方と言える。一発でも貰ってしまえば、俺な身体は持たないだろう。何回もフェデュエルの攻撃を防いだから分かる、力の強さ。そんな攻撃を保険である『マナ障壁』を張らずに避け続けるのだ。実際、何度か危ない場面はあった。そのたびに、心臓がきゅっと締め付けられる感覚がした。


 数十回のフェデュエルの攻撃を避け切り、もう少しで新古魔法が完成する。そんなとき、避けた先に炎の球が飛んできていた。


 まずい、避け切れない!


 俺は急いで新古魔法を中断し、『マナ障壁』を展開する。飛んできた炎の球は、『マナ障壁』によって弾かれ、空中へと霧散した。


「さっきから見てたらずっとぴょんぴょん飛び跳ねながら攻撃を避け続けてるけどさぁ、ちゃんと見ている人の気持ちを考えてる?何も面白くないんだけど!つい手を出してしまったじゃないか」


 ラファイエットは苛つきながらそう言い放ってくる。戦いを面白がっているのはお前だけだよ!そう言い放ちそうになったが、今ここでそれを行ってしまうと、こいつを怒らしてしまうかもしれない。今はまだ、こいつに大人しくしてほしい。にしても本当に腹が立つことを言ってくるな。こっちは命を張ってるんだ!


「避けてばっかで悪かったね。でも、これからは楽しめるかもしれないよ?」


 俺は、フェデュエルとラファイエットが一直線に並ぶところまで素早く移動し、両手を前に突き出した。


「『ヴォイド・オブ・スカッター』!!」


 そう名前を叫ぶと、着きだした両手の平に魔法陣が出現、マナによって魔法が顕現される。以前ヴィルヴェルの群れを狩りつくしたこの魔法、それを再びこの場で放つ!虚空を斬り裂く刃は、素早く一直線に進んでいく。その先にいるのはフェデュエル、そしてその奥にいるラファイエットだ。


 俺と相対していたフェデュエルは突然の攻撃に動揺を見せた。が、フェデュエルは素早く俺の攻撃に対応し動き出す。結果、虚空を斬り裂く刃はフェデュエルの右腕と、右翼を斬り裂き、その奥にいるラファイエット江と襲い掛かる。ラファイエットは余裕の表情で『マナ障壁』を展開し、防御の体勢を取った。降雨を斬り裂く刃は、ラファイエットの展開した『マナ障壁』を砕き地理、空中に霧散した。


 やはり威力が三分の一低下してしまうのは痛い。本来であれば、速度も速くなっているだろうからラファイエットはともかく、フェデュエルは殺すことができていただろう。いや、もしかしたらラファイエットも殺すことができたかもしれない。


「あはははははははは!!いいねいいねぇ!面白いものがやっと見れたよ!やはり君を戦う相手としてふさわしいよ!それじゃあ、ラウンド二と行こうか!」


 ラファイエットは実に満足そうな笑顔で俺にそう言ってきた。

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