第78話 ラファイエット・エンブレイス

 男に案内させ、ラファイエットのいると思われる部屋の前まで来た。


「ここまで案内したんだから、もう俺は解放してくれよ。な?な?」


「解放なんてするわけないでしょ。あんたにもついてきてもらうんだから」


 この男は一緒に部屋の中に入ってもらう。人質に使えるかもしれないし、いたところで邪魔にはならないだろう。


「そ、そんなぁ」


 俺の言葉に崩れ落ちる男を横目に、俺は扉に目を向ける。


 この先に、ラファイエットとアンナがいる。どうするかは、もう決めてある。覚悟は、できている。


 俺は、扉を殴りつけ文字通り扉を破った。点々とした明かりしかなく、薄暗かった。


「これはこれはお客様、ここまでお越しいただきありがとうございます」


 辺りの様子をうかがっていると、闇の中から男が出てきた。白衣を身にまとい、試験管や魔晶石を身体のあちこちに持っている、研究者のような風貌をしていた。


「ああ、自己紹介が遅れました。僕は稀代の魔法兼魔物研究家であるラファイエット・エンブレイスと申します」


 ラファイエットっ!?俺は雷の魔法を即座に使用し、ラファイエットと名乗った男に射出する。が、俺が放った雷は透明な障壁によって防がれてしまう。


「せっかちですねぇ。そんなに急がなくても僕は逃げないっていうのに。それにこっちは人質がいることも忘れたんですか?」


 そう言って、手元の機械動かすラファイエット。数秒後、天井からスポットライトのような光が降り、ラファイエットのすぐ後ろの方を照らす。そこには……


「カルラ!」


「アンナ!」


 下着姿で、両手両足が拘束具で固定されているアンナがいた。やっと、アンナに出会えたという喜びが脳の中を支配していく。やっと、やっと出会えた。探し続けた甲斐があった。


「アンナ、今助けるからね!」


「おっと、感動の再開はそこまでにしてくれよ。勘違いしないでくれ、僕だって感動シーンには水を差したくないんだ。ただ、物事には優先順位という物があってね」


 そう言うと、ラファイエットは懐からナイフを取り出し、アンナの首に当てる。


「ラファイエット!!」


「まあまあ、そんなに怒らないでくれ。君が何もしなければ僕は何もしない。人質ってそういう物だろ?」


 人質……。いや、俺も人質を取ればいい。


 俺はそばで縮こまっていた男を立ち上がらせ、風の刃を首に当てる。


「アンナを解放して。じゃないとあなたのお仲間が死ぬことになるよ」


 ラファイエットは、俺の行動を見て目を丸くした。


「ほう、そんな行動をとってくるなんて予想外だったよ。けどね、もう必要ないんだよ」


 男は懐からボタンを取り出し、カチッとボタンを押し込んだ。すると、人質としてとっていた男の顔が膨れ上がり、破裂する。破裂と共に辺り血が飛び散り、周辺を真っ赤に染める。一番近くにいた俺は身体が返り血で染まっていた。

 

「……ん……ぐっ……あ、あはははははは!だめだ、堪えきれねぇ。あははははは!」


 何が、起こったんだ?


「何が起こったんだって顔してんなぁ。教えてやるよ。僕の組織に女に負けた奴は必要ない。お仲間同士仲良く?お前たちだけで十分だよ!」


 こいつは、なにを言って


「あはははははは!その絶望に浸る顔、困惑する顔、マジで最高!こんなの、この世界でしか味わえないよなぁ!」


 理解が、追いついてくる。脳が現状を把握し始める。たった今、目の前で、人が破裂した。


「あー笑った笑った。久々にここまで笑ったよ。ありがとう、楽しませてくれて」


 ラファイエットはそう言って、にこやかな笑みを浮かべた。その時初めて、この人間のおぞましさを理解した。なぜ、目の前で人が死んで笑っていられるんだ?何がそんなに面白いんだ?わからない。この人間が分からない。血液特有の鉄のようなにおいが、鼻を刺激してくる。そのせいでさっきの情景を思い出し、吐き気がこみあげてくる。


 なんだかんだで、人が目の前で死ぬのは初めてかもしれない。前世では触れることのなかった人の死を、今濃密に感じている。


「さて、話を戻そうか。人質を失った君は、一体何を差し出せるんだい?」


 先ほどまであれだけ笑っていた人間とは思えないような落ち着いた声で問いかけてくる。


「あ、え……」


 俺の頭は、まともに思考ができるような状態じゃなかった。


「あれ、やりすぎちゃったかな。まあ、聞こえてるみたいだし、話を進めようか」


 ラファイエットは淡々と話をしていく。


「人質を解放するには、その対価が必要となる。それは常識だ。そこで、君が差し出せるものを二つほど僕から提案してあげよう。一つ、君が僕に投降すること。もともとは君が目的だったわけだし、僕としてはそれでもかまわない。ああ、魔法で脱出しようと思わないでね。これで拘束するから」


 そう言ってラファイエットはアンナを拘束しているものを指さす。


「これは特注のものでね。これで拘束していると魔法が使えないんだよね。だから君は大人しく捕まってもらう。僕にいろいろなことをされるだけだよ。なに、しても実験程度さ」


「そう、すれば、アンナを助けられる……?」


「もちろん、彼女のことは解放しよう。僕は取引に関して嘘はつかないさ。ただ、反撃されないように拘束具は付けたまま解放するがね。この眼が、嘘をついているように見えるかい?」


 そう言って、ラファイエットは眼を見開きこちらをじっと見つめてくる。そっか、でも俺が捕まればアンナは解放されるのか。


「ダメよ、カルラ!そんなの絶対嘘に決まってrんー!」


 アンナは話している途中で猿轡を口に入れられる。


「交換対象である人質はしゃべらないでもらおうか。あること無いことを吹き込まれては敵わない。とはいえ、実は君と彼女の交換は僕も望まない。面白みがないからね」


 暴れるアンナを片手で押さえつけながらラファイエットは話し続ける。


「そこで、双方に利益のあるもう一つの提案がある」

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