第77話 探索

「ふん!」


 横薙ぎをしてくる大斧をかがんでよけ、急接近して鳩尾を思いっきり殴る。相手が倒れたことを確認すると、周囲を見渡す。離れたところに二人、弓を引いて俺を狙っている奴がいる。俺はそいつらに向けて水の玉を飛ばす。俺が飛ばした球は相手に当たると、パンッという音と共にはじけ、衝撃を与える。今回は殺傷能力は低めにし、意識を刈り取ることだけに注力している。できることなら死者は出したくないからね。


 ある者は魔法で気絶し、ある者は投げ飛ばされ、ある者は武器を破壊された後に殴られ意識を失う。そんな感じで戦えるものが一人、また一人と減っていく。気が付けば立っているのは俺と、ローブを纏っている男のみとなっていた。


「どうする?抵抗しないなら拘束するだけだけど。痛い目には合わないと思うよ」


 俺は一応尋ねてみた。


「女に屈するなど言語道断」


 それが彼の回答らしい。彼らは男尊女卑主義の集団なのだ。そう返ってくることはわかっていた。


 突如、彼の眼に力がこもる。


「『イグニッション』!!」


 彼が言葉を発するとともに魔法が紡がれ、彼の頭上に青白い炎が形成される。その炎は人一人分ほどの大きさにまでなると俺の方に向かって飛んでいき、そして……霧散した。


「なっ!」


 俺はそのまま、驚愕の表情を浮かべている彼に拳を打ち込み、気絶させる。彼が抵抗しないと意思表示をした瞬間、もうすでに勝負は決まっていた。あの時から、彼は打つ魔法の準備をしていたのだ。出なければ、あの規模の魔法をすぐに打つことはできない。そして魔法は、打つことが分かっていれば解析して無力化することができる。


 ……実はライファイエットという人物は弱いのではないか。


 気絶させた者たちを縄で縛りながらそんなことを考える。ライファイエットの部下である彼らは、お世辞にも強いとは思えなかった。最初の見張りである二人もそうだし、ここで戦った人たちもそう。最初こそ強そうな雰囲気を出していた魔法使いだって、実際に戦ってみるとそこまで強くなかった。


 そのことを踏まえると、本当にラファイエットは強いのだろうか、という気持ちが生まれてくる。俺はその気持ちをどうにか掻き消した。相対する前から相手を弱いと考えてはいけない。その考えは油断を招き、やがて敗北を招く。仮にも過去捕まえられなかったのだ、弱いはずがない。


 俺は、一人を除いた十一人をまとめて縛った後、残った一人に水をかけて起こす。道案内をしてもらうためだ。


「なんで俺がお前なんかに」


 最初の方は抵抗する意思を見せていたものの、風の刃を首にあてがうとすぐに従ってくれるようになった。もっと意志を強く持てよ……。あそこで気絶している魔法使いなんて、死ぬ覚悟で俺に挑んできたぞ。まあ、こっちの方が楽だから良いけど。


 俺はとりあえず、宝物庫に案内してもらった。とはいっても、ぱっと見物置とさほど変わらないところだったが。想像していたような金銀財宝や高価な宝飾品などはほとんどなく、そのほとんどが食料や酒、安物の雑貨類だった。ちなみに、アンナの装備も置かれていた。それですら適当に置かれていたから、本当に宝物庫とは名ばかりの物置だったのだろう。俺が今着ているものと同じ防具と、アンナが愛用していた剣をマジックバックの中に入れる。


 これで、ここでやることは終わったかな。俺は引き続き案内してもらい、ラファイエットのいる部屋へと向かった。


 ――――――――――


 窓もなく、明かりは壁に掛けられたマナ式照明のみで構成されている部屋に、一人の少女は寝台に寝かされていた。その少女は下着姿で両手両足に拘束具がつけられており、自身の力だけでは身動きも取れないような状態になっていた。


 ギィっと扉が開いたかと思うと、規則的な足音が少女近づいていく。


「調子はどうだい?アンナ君」


「……」


 少女は口を開かず、無言で話しかけてきた男を睨みつける。その男は白衣を身にまとい、ポケットには複数の個の試験管、腰には魔晶石を何個かつけており、一言でいえば研究者のような風貌をしていた。


「無視とは悲しくなるじゃあないか。君と僕の仲だろう?とはいえ、二日も経ってないが」


 男は大げさな身振り手振りをしながら再び話し続けるが、少女は無言を貫く。


「一応、君は人質という立場なんだよ。自分の立場はしっかりと理解しといたほうがいいよ。本来なら立場を身体に教え込むのだが……生憎、君は僕の好みじゃない」


 男は少女の顎を掴み、舐めるような目で少女の顔を覗き込む。そして、寝台の近くにある機器に触れ、寝台を地面と垂直になるように立たせた。


「むしろ、君のような子は嫌いなんだ。だからね……」


 男は言葉を切り、少女のお腹に向け思いっきり拳をふるった。


「うっ……げほっ!!」


「こんなことをしても心がちっとも痛くならない。もっとも、僕だって実験道具・・・・を壊すような真似はしたくないからもうしないけど」


 そう言うと、男はポケットから小さな赤い塊と緑色の液体が入った試験管を取り出した。


「さあ、君にはこれを飲み込んでもらおう。いい子だ、口を開けるんだ」


 男は少女の口に指を入れ、無理やり口を開けさせる。少女も必死に抵抗するが、その抵抗はむなしく、男のされるがままとなっていた。男は少女の口に小さな赤い塊と緑色の液体を入れる。そして口を閉じさせ、上を向かせた。


 少女は口の中に入れられた異物を頑張って吐き出そうとするが叶わず、呼吸をしようと吸い込んだ時、異物はのどを通って行った。


「はぁ……はぁ……一体、何を飲ませたのよ」


 少女は依然男を睨みつけたまま尋ねる。


「ああ、聞きたいかい?それは……」


 男が少女の質問に答えようとしたとき、突然バンッと大きな音で扉が開かれた。


「おっと、来客が来たようだ。」

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