第76話 情報

「別に難しいことは聞かない。ただ、ラファイエットの情報が欲しいだけだからね」


 俺は目の前の二人に告げる。


「そんなの関係ねぇ!さっさと縄を解k」


 男は囚われの身なのにもかかわらず、大声で叫ぶ。そんな彼のすぐそばを風の刃が通り過ぎ、彼は言葉を詰まらせた。


「誰が賊に話すか!ましてや、お前みたいな女にっ!?」


 俺は叫び続けるもう一人の男の髪を風の刃で斬り裂く。その後、俺は風の刃を五個ほど空中に待機させ、口を開く。


「大人しく話してもらえる?そこまで時間を掛けたくないんだけど」


 俺は風の刃をそれぞれの首に向けて一つずつ近づけていく。風の刃は、本来空気を固め、高速で射出することによりその殺傷能力を保っている。俺の魔法はそれに加え、固めた空気を高速で巡回させ、その殺傷能力を上げている。恐らく、この風の刃に触れるだけで肉は削れるだろう。


 徐々に、徐々に風の刃を彼らの首へと近づけていく。焦らず、ゆっくりと。彼らは口々に騒いでいるが、無視して近づけていく。男たちの声も、風の刃が近づいていくにつれてだんだんと静かになっていく。そして、彼らの首と風の刃が触れるか触れないかのところまで来た時に、片方の男が声を上げる。


「わかった、すべて話す。だからそれを止めてくれ」


「なっ?!お前、ラファイエットさんを裏切るっていうのか!」


「じゃあ、どうしろっていうんだよ?!このまま死ねってか?あいつの眼を見てみろ、あの眼は目的のためなら殺しすら厭わない眼だ!」


 そんな眼をしてる?それはそれで酷いと思うんだけど。


「命あっての物種だ。また仕える人を探せばいい」


 そう言われ、もう一人の男は黙ってしまう。


「……好きにしろ」


「それじゃあ、話もまとまったみたいだし話してもらえるかな」


「ああ。まず……」


 それから十分ほど男の話を聞き続けた。敵の残りの人数、配置、そして見取り図までの情報を得た。どうも、この部屋の扉の奥に進むとこの組織の居住地があり、その奥にラファイエットの部屋があるらしい。そこにアンナもいるのだとか。


「この部屋は?」


 食堂や寝室などの部屋があるなか、一つだけ説明されて無かった部屋があった。


「そこは宝物庫だ。俺らが今まで取ってきたものが貯められている。その多くは、誘拐した人からとったり、交換条件でもらったものばかりだけどな」


 なるほど。大体の情報は手に入った。これだけあれば困らないだろう。


「情報提供ありがと。おかげでアンナを助けられそうだよ」


「俺たちはこれで助かるんだよな?」


「うん。国の裁きをしっかりと受けた後だけどね」


 そう言って、空気の塊を顎へぶつける。その攻撃を食らった男たちは、そのまま意識を失った。二人が意識を失ったことを確認し、部屋の奥にある扉の前に立つ。展開していた「消音サイレント」を解除し、大きく息を吐く。


「よし、行くか」


 そう小さくつぶやき、俺は扉の取っ手に手をかける。扉を開けると、地下へと向かう階段が続いており、がやがやと騒がしい音が聞こえてくる。会話の内容的に、今は食事をとっているらしい。あの男たちの話によると、この組の構成員は十五人。さっきの二人と、ボスであるラファイエットを除くと残りは十二人だ。その中に一人だけ魔法を扱える者がいるらしい。十二人、その人数ならば、正面から言っても大丈夫か。


 俺は先程と同じように「消音」を展開し、階段を下っていく。食堂と思われる広い空間に出ると、もうすでに武器を構えて待ち構えていた。「消音」が展開されたことは、魔法の心得があるものであれば気が付くことができる。それ故に、待たれていることは予想していた。一人、二人、三人……うん、ちゃんと十三人いる。


「この人数相手に一人でくるたぁ、俺達も相当舐められたもんだな」


 武器を構えている男たちのうち、誰かがそう言うと、男たちはガハハと豪快に笑う。


「別に舐めてるわけじゃないよ。ただ、この程度の人数であれば真正面から戦っても問題ないかなって」


「はぁ?」


 俺の返答に、額に青筋を浮かべて男たちは反応をする。どうやら、俺の反応は彼らの怒りを買ったらしい。まあ、そうなるのも当然か。


 ふと、魔法の気配を感じた。その気配は男たちの奥、ローブを纏った男から発せられていた。あいつがこの組織唯一の魔法使いか。


「『マナ・ブースト』」


 ローブを纏った男がそう口にすると、彼のから光の粒子が無数に表れ、武器を持った男たちに吸い込まれていく。『身体強化』か。しかも、ルリアーナには劣るがかなり練度が高い。それに、わざわざ名前を付けているということは何らかの効果もついていると考えた方がいい。なるほど、すぐ襲ってこなかったのは、この魔法の発動を待っていたからか。


「喰らえ!」


 冷静に分析していると、いつの間にか男が剣を振り下ろしてきていた。腕の力の入り方や振り下ろす速度的に、致命傷が免れないだろうと感じた。だがそれは、喰らってしまえばの話。俺は『身体強化』を自身にかけ、迫りくる剣を受け止める。そしてそのまま相手の腕をつかみ、思い切り壁へとぶん投げた。


 俺の行動に呆気に取られていた男はそのまま壁に激突し、そのまま沈み込んだ。


「次は誰?」


 その言葉が、戦闘の火蓋を切った。

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