第74話 占い

「クソ!」


 つい汚い言葉を吐いてしまう。それも仕方の無いことだろう。だって目的のものは何一つ見つからなかったのだから。探し残しは無いはずだ。この都市の貧民街は全て調べた。あのメモに書いてあったの嘘なのか?......よくよく考えれば本当のことなんか書く必要性は無いはずだ。ならばあのメモは嘘だった可能性が高い。


「クソ!」


 そう言って近場にあった石を蹴る。蹴られた石は綺麗な放物線を描き、建物の壁にめり込んだ。もう、何も信用できない。


「はぁ……」


 思わずため息が出てくる。俺は一体どうすればいいんだ。思いつくことは全て試した。考えられる可能性は試した。けど、ヒントがもうないならばもう不可能・・・だ。今まで探せていたのは貧民街に限定されていたからだ。だが、それも違うとなれば、もう無理だ。


「そこのお方、困ってるようだね」


 ふと、横から声をかけられた。声の方をむくと、ローブを来た老人がいた。


「少し、占いをしていかないかい?」


 そこには、貧民街には似つかわしくない綺麗な水晶玉が置いてあり、その後ろにはカードやダイス、各種宝飾品が置かれていた。普段なら聞く耳も持たず、さっさと立ち去ってしまうであろう怪しさ満点のそのお店に、今の俺は妙に吸い込まれてしまった。


「お嬢さん、悩みがあるんだろう?見えるよ、貴方の悩みが色濃く見える」


 水晶玉の前に立つとそんなふうに言われた。言葉の主は、フード深く被って顔を隠し、服から時折のぞかせる肌はしわくちゃであった。ローブはずっと使っているものなのか酷くボロボロで、服の形をやっとのことで保っているかのようなものだった。


「ここをよく見ておきな」


 老人はそう言って水晶玉を指差す。俺は言われた通り、水晶玉を注意深く覗き込む。水晶玉の中では薄紫色の煙が終始渦巻いており、特に何かの変化を見せるようなことはなかった。


「……こんなことはないのですが。もう少しお待ちください。そうすれば……」


「いや、もう十分だよ。助かった。お代はこれくらいでいいかな」


 そう言って、銀貨五枚程を水晶玉の横に置いた。占いなんて馬鹿みたいなものを信用しようと思った俺が馬鹿だった。そう思った訳ではなく、本当に役に立ったのだ。あれのおかげで俺はアンナ発見の鍵になるものを思い出したからからだ。


「お嬢さん、結果得られなかったので代金は……」


 老人がそう言う頃には、俺は光の残滓を残しその場を去っていた。


 ――――――――――


 占いを終え、『テレポート』で向かった先は遺跡である。先程の占いで得たものを実行するためには、ここのものを使わなければならない。遺跡に到着すると真っ先にエリシアの書斎へと向かう。俺は最早慣れ親しんだ本である古代魔法が書かれた本を手に取ってあるページを開く。星占術について記されたページだ。新古魔法を考えていた時、今は関係ないだろうと放っておいた部分だ。今回の状況に、これが使えるんじゃないかと思ったのだ。


 開かれているページに書かれた文章を一文字づつ読んでいく。この魔法は、主にものを探す魔法だ。特によく物を無くしてしまう人には重宝するだろうと書かれている。


 まず、探したい箇所の地図を用意する。家の中であれば家の見取り図を、周辺で探したい場合はその周辺の地図を用意すればいい。今回はアンベルクの地図を用意する。次にロープの先に水晶を結びつけたものを用意し、地図に垂直になるように垂らす。その後、自身が探したいものをよく思い浮かべる。この際、思入れの深いものである程探しやすくなるらしい。


 俺は目を閉じて、アンナの身につけている物を思い浮かべる。ふと、俺が贈ったネックレスが思い浮かんだ。あれならば最適だろう。そう思い、ネックレスを思い浮かべる。チェーンは銀色で簡素に作られており、先には花をもした飾りが着けられているネックレス。飾りの真ん中には、魔法石が埋め込まれ、マナを込めると緑色に淡く光るあのネックレス。再び、あのネックレスを着けて笑ってるアンナがみたい。そう思い、目を開ける。


 目を開けると、ロープによって垂らされた水晶は、一点の周りをクルクルと回転していた。そこは、貧民街の一角にある、小さな住宅だった。俺は荷物をまとめ、すぐさまその場に向かった。


 ――――――――――


 その場に着いた時には、もう日が空高くまで上がっていた。探し始めてから一夜と半分がすぎたのだ。この場に来てから、少し不安になる。『感知』には一切反応しなかった場所だ。ここに何も無ければ、俺は詰む。なんの手掛かりもないまま、途方に暮れることになる。それだけは起こらないで欲しい。そう願いながら、反応があった家の扉を開く。


 その家は何の変哲もない内装だった。異変と呼べるようなものもなく、普通にキッチンやリビングなどがある家だった。唯一何かをあげるとするならば、ホコリが積もっており、人の気配が感じられないぐらいだ。


「ん?」


 キッチンの床にキラリと光るものが見えた。屈んで拾ってみると、それはアンナのつけていたネックレスだった。なぜこんなところに、そう思ったのと、不自然なホコリの晴れ方に気がついたのはほぼ同時だった。そこには、ものが動かされたあとのようにホコリが無くなっていた。壁には食器棚が置いてある。


 過去、推理ゲームや脱出系のゲームを何個かしていたからわかる。俺は食器棚を注意深く観察した。すると、横にボタンらしきものを見つける。俺はゆっくりとそのボタンに触れる。カチッとボタンが押し込まれると同時に、食器棚が動き始める。それと同時に、積もったホコリ達が宙を舞う。


「ゴホッゴホッ」


 空気中に舞うホコリを払うと、新たな道が出来上がっていた。そこには階段があり、それは地下へと繋がっていた。やっと一歩近づいた。俺はネックレスを自身に掛け、階段を降りていった。


 

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