第73話 調査

 人間って自分より感情的なものを見ると案外落ち着くものなのかもしれない。俺はルリアーナのことを見て落ち着くことが出来た。


「どうすればいい……か」


 ちまちまと情報を集めていたら、アンナを助けることは出来ないだろう。手っ取り早く調べるにはどうすれば……。


「とりあえず貧民街に行ってみるしかないかなぁ」


 あのメモには貧民街のどこかにいるという話だった。それが本当ならば、貧民街の連中が情報を持っているかもしれない。俺はルリアーナを置いて冒険者ギルドを出た。本当はルリアーナも連れていきたかったが、泣いている彼女は調査に邪魔・・だ。結果、置いていくことにした。


 この街の貧民街はいくつかに分かれている。それを説明するには、この街の構図から説明する必要があるだろう。アンベルクは大きくわけて五つの区画に分かれている。


 まずは真ん中のアンベルク城とその周辺だ。ここには元貴族の家が主に置かれている。なんだかんだで一番発展しているのはここだろう。ちなみに、宝飾店やドレスの店はこの区画にあった。


 そしてその区画を取り囲むように、魔術、商業、冒険者の三つの区画に分かれている。それぞれの区画には対応したギルドの本部が置かれており、ギルド関連のものを取り扱う店などが数多く並んでいる。とは言っても扱ってるものが被ったりしているため、綺麗に三つに分けることは難しい。


 その三つの区画を取り囲むように配置されているのが、住宅エリアだ。ここは名前の通り、アンベルクで住む人達の住宅が並んでいる場所だ。ちなみに、俺たちの家もこの区間にある。


 最後の区画……区画と言っていいのか分からないが最後は貧民街だ。なぜ区画と呼ぶのを躊躇ったのかと言うと貧民街が全体に分布しているからだ。というのも、貧民街というひとつの区画として存在はせず、他の区画に寄生する形で存在している。特に三ギルドの区画に多く、ちょっと路地に入ればそこは貧民街だったってこともよくある。


 そんな感じにバラバラとなっている貧民街だが、コミュニティは広く、離れている貧民街同士でも情報の共有は良くされている。


 だからどこで聞いても問題ないのだが……


「お前らなんかに教えることなんかねぇよ!」


 貧民街に来た俺はそんな罵声を浴びされていた。貧民街の連中は普通に暮らしている人達を毛嫌いしてる。理由は簡単で、自分たちより裕福だから。赤子でも分かる。


「しかもお前カルラってやつだろ?成功してる奴に教えることなんざ何一つありはしねぇ。他を当たんな。まあ、ここにお前に情報を渡すやつはいないと思うがな」


 そう言われて追い返される。たとえ離れていても同じ街の中なら情報はどこでも手に入る……が、そもそも情報が入らなければそんなものは関係ない。


 やっぱり俺が聞くのは無理なのか?そう思って自分の服を見てみる。特注で作られたドラゴン装備に身を固めた自分の服装を。うん、これは無理だわ。そもそも顔で判断されているっぽいし服装はあんまり関係なかったのかもしれないが。


 それから一応貧民街の人達に声掛けたが……。


「うるせぇな!お前らと違って俺たちは生きるのに忙しいんだよ!他を当たってくれ」


「んなもん興味ねぇよ!生きることに関係ねぇからな!」


「それだけ成功して嫁に行かないなんて贅沢ね。私達は今日のご飯だって望んでも手に入らないのに。そんな人に話せることは無いわ」


 ……結果はご覧の通り散々だ。正直、ここまで酷いとは思ってなかった。誰か一人ぐらい答えてくれると思ったのになぁ。


 あんまりしたくなかったけど、暴力に頼っても見た。


「ひぃぃぃぃ!!本当に何も知らないんです!だから許してください!」


 とまあ本当か嘘か分からないことを言われ、そして泣かれた。反応から見るに嘘では無いと思うが……。これ以上は流石に良心が痛むのでやめておいた。暴力が最終手段だと思っていたけど、役に立たないらしい。


 人を頼れないのなら、自分で見つけ出すしかない。


 そう思い、『感知』を貧民街全体に広げてみた。頭が痛むがそんなの気にしてる暇は無い。


「……無理だ」


 明らかに反応が多すぎる。これだけの反応がある中、人一人を見つけるのは困難を極める。例えるなら、お椀一杯に入れられた黒ごまの中からスイカの種を見つけろと言っているようなものだ。一瞬諦めることが浮かんだが、ここで諦めるとアンナのことを諦めることになる、それだけは絶対にしたくない。そう思い一つ一つの反応を見て言った。


『感知』は頭の中に地図が浮かび、見つける対象――例えば、人間や魔物といった大きなジャンル――を表示してくれるというものだ。ひとつのものに注力すれば、その輪郭もわかる。


 俺はひとつひとつ注力して探して言った。遠くて精度の悪いものは近ずいて見たりもした。まずは止まっているものから調べて言った。幽閉されてるのだとしたら、一箇所に閉じこもっていると判断したからだ。


 しかし、そう簡単にはことは運ばなかった。止まっている反応のほとんどは座り込んでいたり、寝ている貧民街の住民だった。たまに違うものがあったが、歓談中の人だったり死体だったりした。


 アンベルク中を調査し終える頃には既に日が昇っていた。


 そして、アンナの反応は愚か、痕跡するみつかることは無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る